小田部 悟士

特
集
大規模災害など突発的ICT需要に即応可能な「移動式ICTユニット方式」の研究開発
主役登場
大規模災害時に最低限の
ICT環境を提供できるシステムの
実現を目指して
小田部 悟士
NTT未来ねっと研究所
主任研究員
大変な仕事を担当することになった.これが移動式ICT
2番目の「運」については,震災前後で通信技術のトレ
ユニットの研究開発プロジェクトを担当した当初の正直な
ンドに変化があったことが挙げられます.総務省の情報通
感想でした.総務省委託研究としてプロジェクトがスター
信白書によれば,スマートフォンの世帯普及率は,東日本
トした2012年当時,NTT事業会社をはじめ,東日本大
大震災発生当時の9.7%から2014年には62.7%と急速
震災を踏まえたさまざまな災害対策の検討が進められてい
に増加しています. また, 最近のタブレットにはNFC
ました.その中で,本当に社会的に有用なシステムを開発
(Near Field Communication)リーダ機能が標準的に搭
できるのか,3年で実際に使われるフェーズまで進めるこ
載されるようになっています.このような変化があったこ
とができるのか,自問の日々が始まりました.
とで,ICTサービス提供技術の記事で紹介したような新し
現在,本特集で紹介させていただいたとおり,移動式
いコンセプトを提案できたと考えています.
ICTユニットとして車載型(ICTカー)やアタッシュケー
3番目の「努力」の例としては,グローバル展開に関す
ス型(ICT-BOX)を開発し,四国,フィリピンでの実証
る記事で紹介したフィリピンでのITU(国際電気通信連
実験を経て,一部の研究成果はNTTグループ会社から製
合)実証実験プロジェクトに至った経緯です.仮にどんな
品化される段階になりました.これは,月並みな表現です
に良い研究開発をしていたとしても外部の方に知っていた
が,プロジェクト関係者や,ご協力をいただいた多くの皆
だくことがなければ,存在していないのと同じになってし
様の「思い」と,「運」「努力」の成果だと考えています.
まいます.ご批判をいただくことも含めて研究開発に有用
頭を悩ませていた研究開発当初,NTT東日本の被災し
と考え,国内外の展示会,フォーラムなどで本プロジェク
た地域の支店の方々にヒアリングする機会をいただきまし
トの取り組みを紹介する活動に積極的に取り組みました.
た.復旧 ・ 復興業務で多忙な中,対応をいただいたおかげ
しかしながら,現状は,あくまで研究成果の社会実装
で多くの気付きを得るとともに,災害対応の経験者から得
に向けたスタートラインに立てたに過ぎず,移動式ICT
たコメントを踏まえて判断することにより,ICTユニット
ユニットの真価が問われるのはこれからだと認識してい
のコンセプトを固めていくことができました.想像してい
ます.自問の日々を続けるとともに,来たる有事の際に最
た以上に災害現場では電話が必要とされること,お客さま
低限のICT環境を提供できるようシステムのブラッシュ
に契約している通信キャリアに関係なくサービスを提供で
アップと社会実装に向けた活動に一層取り組んでいきたい
きることなどのご意見は,プロジェクトを進めるうえで大
と思います.
切にした「思い」の一例です.
NTT技術ジャーナル 2015.3
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