この寅年、陰暦では「春」がないそうだが・・・ 丹藤佳紀(早稲田大学非常勤講師) 中国本土、台湾はいうまでもなく、華僑・華人などの多数住む地 域・地 区 で は さ る 2 月 、春 節( 旧 正 月 )を 文 字 通 り 鳴 り 物 入 り で 祝 っ た 。偶 然 の こ と だ が 、旧 正 元 日( 2 月 1 4 日 )は バ レ ン タ イ ン デ ー(情人節)と重なった。 ここで取り上げるのは、まず「暦の上」の問題である。陰暦で庚 寅(かのえとら)のこの年は、立春(2月4日)が春節より先にや っ て き た 。 こ の た め 、「 暦 の 上 」 で は 春 が な い こ と に な り 、 中 国 で は 「無春年」と呼んだりしている。 日 本 に は 、 暦 か ら 出 た 言 い 伝 え に 「 丙 午 ( ひ の え う ま )」 が あ る 。 十干十二支の組み合わせを「木・火・土・金・水」の五行説から解 釈した内容である。丙と午どちらも「火」に属す。 そこで江戸時代、この二文字の重なった丙午の年は火事が多い、 と信じられていたという。 江 戸 っ 子 は 、「 火 事 と け ん か は 江 戸 の 華 」 な ど と 粋 ( い き ) が っ て いたらしいが、木造住宅の密集した江戸で、火事はそれどころでは ない一大事だった。 そこから先、丙午の年生まれの女性が敬遠されるに至る事情は不 詳だが、こっちの解釈はどうも本家の方にはないようだ。 逆 に 、中 国 に は 、 「無 春 年 」と い わ れ る 今 年 だ け の 別 の 問 題 が あ る 。 丙午説に似ているが、この年は「寡婦年」ともいわれ、結婚がうま くいかない年とされてきたこと。 このため、 「科 学 的 発 展 観 」の 強 調 さ れ る 今 で も 、ネ ッ ト 上 で は「 こ の年、結婚は見合わせた方がいいか」といった問い合わせや「そん なのは迷信」といった回答が飛びかっている。 他方、そんな根拠のないジンクスなぞに関わり合っていられない という人も多い。とりわけ、配偶者を求めてなかなか得られず、切 羽詰まった男性陣にとってはそれどころではない。 というのは、青少年期の男女の数に、縁や相性など個人的な事情 を超える巨大な構成ギャップが生じているからだ。 改革・開放に歩調を合わせた「一人っ子」政策に、今なお根強い 「男子選好」が重なった結果である。 南開大学の原新・教授によると、新生児の男女比率は2008年 に120.56:100となった。この数値は、国際的には一般に 103-107:100とされている。 だから右記の中国の比率は極端な男児偏重になっている。その結 果、人口(推計値)で見ると、1980-2000年に生まれた男 性は女性を約3330万人も上回っている。 庚寅年が「無春年」というのは俗説である。しかし、未婚の青年 男性に「春」が遠いという確率は苦い現実になっている。 ( 原載『日本と中国』紙)
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