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46 失語症の利用者に対する配慮
介護の知識 50
介護の知識
高次脳機能障害の代表的なもの
I.
高次脳機能障害とは
病気や事故などの様々な要因で脳が損傷されたために、言語・
思考・記憶・判断・学習・注意・感情・行動(行為)などに障害
が起きた状態を言います。
◆高次脳機能障害と認
知症の違い
高次脳機能障害は大
高次脳機能障害の多くは、外見からは分かりにくく、本人も自
脳皮質の損傷を受けた
覚していないことが多いため、家族や周囲から理解されにくいこ
脳の機能だけが傷害さ
とがあります。
れ、基本的には進行しま
せん。一方、認知症は後
II.
高次脳機能障害の症状分類
天的な脳の器質的障害
(ア) 注意障害
により、いったん正常に
① 一つのことが続けられない。
発達した知能が持続的
② まわりの状況に気が付かない。
に低下。記憶障害を初症
③ まわりの声や音にすぐ注意がいってしまい、落ち着かな
状とし、以後、脳の全体
い。
④ 状況に応じて注意を変換できず同じことを何度も言っ
的な知能障害が起きま
す。
たり、同じ行動を繰り返したりする。
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(イ) 記憶障害
① 本人は自分の記憶力が落ちているとの認識が無い(病識
がない)。自分の記憶力の低下に気付けないためミスの
少ない生活を組み立て実行することにつながらない。
② 記憶力が落ちていることに困っていない(悩まない)。
困らないと自分からメモを取る行為につながらない。
③ 同じことを何度も聞く(本人は初めて聞いているつも
り)
。
(ウ) 失語症
① 話そうとするが、言葉が出てこない(相手の言うことは
理解できる)
。
[ブローカ失語]
② 相手の言っている言葉の意味が分からない(自分から言
葉は出てくる)
。
[ウェルニッケ失語]
◆失語症の利用者に対
する配慮
失語症はまわりの人
に分かってもらえず、悩
み、気持ちが落ち込み、
引きこもりがちになっ
てしまいます。(言葉を
失う=孤独感が強くな
る)
コミュニケーション
をとりたいのにできな
い、伝えたい思いが伝え
③ 文章を読めない(書けるけれど読めない)。[失読]
られない「つらさ」や「せ
④ 文字を書けない(思うように書けない)。
[失書]
つなさ」などの苦悩を理
(エ) 失認症
① 目は見えているのに、色、物の形、物の用途や名称が分
からない。
[視覚失認]
解しようとすることが
大切です。
失語症についての詳
② 良く知っている人物(家族、親類、知人など)の顔を見
細は「42 失語症の利
ても、誰であるか分からない。相手の表情からの感情も
用者に対する配慮」参照
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そうぼうしつにん
読み取れない。
[相貌失認]
③ 聴力が保たれているのに、語音の区別ができない。[聴
覚失認]
(オ) 失行症
① 一連の動作を順序良く行うことが難しくなる。[観念失
行]
② 動作を真似したり、言われた通りにすることが難しくな
る。
[観念運動失行]
◆半側空間無視
(カ) 半側空間無視
① 自分が意識して見ている空間の片側(多くは左側)を見
落とす障害。見えていないわけではなく、意識が行き届
かないために起こる。
(キ) 半側身体失認
① 体の半側に麻痺(多くは左麻痺)のある方の中に、自分
の半身の存在が認知できない場合をいう。
(ク) 遂行機能障害
① 何かをしようと思うときに必要な情報を整理し、手順を
左半側空間無視の症状
の方が、左側の絵を模写
すると、右の絵のように
なる。
計画し、効率的に処理していく一連の作業が難しくな
イ ラ ス ト 引 用
る。
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(ケ) 地誌的障害
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① 良く知っているはずの道が分からなくなり迷う。[道順
障害]
② 家の間取りや地図の口述、記述などを書いたり、言葉で
説明したりできない。
[地誌的記憶障害]
(コ) 社会的行動障害(行動と情緒の障害)
① 依存的になる。家族にすぐに頼るようになったり、自分
でできることも人任せになり、自分からしようとしなく
なる。
② 怒りっぽくなったり、急に笑い出したり、反対に泣き出
すなど、感情のコントロールが上手くいかない。
③ 欲しい物が我慢できない、好きな物だけ食べたがる、お
金をあるだけ使ってしまうなど、理性で抑えることがで
きる欲求が抑えられなくなってしまう。
III.
高次脳機能障害の原因
(ア) 脳卒中(脳出血・くも膜下出血・脳梗塞)
(イ) 脳外傷
(ウ) 脳炎・脳症(ウイルス脳炎・低酸素脳症など)
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IV. かかわり方のポイント
(ア) リハビリ的かかわり
病識が無い人が多いため、自分に不得意な部分があるとい
うことを認識していただくところから始まり、作業療法士や
言語聴覚士、心理士などによる専門的な訓練が行われます。
(イ) 生活の中でのかかわり
高齢者が脳卒中などにより高次脳機能障害となった場合、
入院中の行動制限や環境の変化などにより認知症を発症す
ることがあります。認知症の進行によりリハビリが困難な場
合は、苦手な部分を回復させることよりも、得意な部分を活
かすかかわり方が重要になります。
かかわり方の例

「注意障害」介護者が周りをバタバタと歩き回ったり、
大きな声で話をしていると集中力が切れてしまいます。
静かで落ち着くことができる環境の中で、興味のあるこ
とを促していきます。

「左半側空間無視」左側の食事を残してしまいます。声
かけや指差しなどで左側の確認を促しますが、それでも
認識できない場合は左側の食器を右側に移します。ま
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た、話しかけるときは右側から近づく、ベッドの右側に
テレビを置いたり、写真を飾る、居室の入り口側が見え
るようにすると、認識しやすい側の生活が豊かになりま
す。

相貌失認はご家族にとってもつらいことです。「○○さ
ん、ご家族さんが来てくれましたよ。どなたか分かりま
すか。
」ではなく、
「○○さん、長男の□□さんですよ。」
と、こちらから伝えるほうが良いでしょう。

遂行障害の場合は、着替えであればまずは腕を通す、次
に頭を通すなど、行動の一つ一つを細かく区切って伝え
ます。
参考文献 中島恵子「理解できる高次脳機能障害」三輪書店
全国高齢者ケア研究会