デザインのためのスケッチ思考法 や さ し い デ ザ イ ン の 理 論 53 第 5 回(最終回) 陰影と立体表現技術 福田哲夫 産業技術大学院大学 創造技術専攻 特任教授 1 はじめに 本稿は、これまで4回にわたりスケッチの基本か ③マーカー 鉛筆に比べてコントラストを得やすく、描画が明 瞭で印象が強い表現となる[図 1][図 2]。 ら観察の大切さ、発想法から透視図、そして効果的 な画面構成まで、鉛筆一本でも描画できるように解 説を繰り返してきた。 今回も省筆と速筆に心掛け、鉛筆に加えてパステ ルやマーカーなど速乾性の描画用具を用いながら解 説をする。陰影や立体感、素材の質感表現などは、 図1 鉛筆とマーカーの表現の違い デザイン初期に用いられるスケッチ用として、また レンダリング(完成予想図)の描画にまで応用でき その種類は、大きく分けて水性と油性とがある。 る手法として解説をする。 a.水性インクは、水に溶けるため乾燥時間がかかり、 2 用具の解説 重ね塗りや速乾用としては向かない。ただし、線 引き用のピンポイント・マーカーの場合には、油 にじ 1)試し描きで使いやすい画材を選ぶ 性マーカーと組み合わせても線が滲まない。また ①色鉛筆 逆にその水性の滲みを生かした表現も可能だ。 ひと昔前はロウ分が多いためか硬い芯が多かった ようだ。現在では水溶性で透明水彩のような表現が できるものから、油分が多く重ね塗りができる柔ら b.油性インクは、従来の有機系溶剤から、現在で はアルコール系が主流となっている。 アルコール系の場合には、重ね塗りで時間をか かいものまで、市場には各種出回っている。 けると、空気中の水分を含み用紙が伸びる。後作 以下は、それぞれの感性にあった筆跡と自分の描 業でパステル面の斑が生じないようにするには短 画内容に合わせた選択をお勧めする(鉛筆について 時間に塗ることが秘訣だ。 は、本稿第 1 回 103 号 49 頁③の 1) 「目的に合わせ た線描用硬筆の選択」を参照)。 ボールペンに油性マーカーを重ねると、滲みに よるグレーの濃淡が現れる。これを逆手に活用し て一気に立体感を得ることも可能だ。 ②パステル 円柱や角型断面のスティックで、オイルパステル などもある。粉状のため描画にはその一部をマスク で覆うことや、粉が剥がれ落ちないよう定着液を吹 き付け、用紙に定着させる。 図2 鉛筆にマーカーを加えて立体感を得る 38 やさしいデザインの理論 53
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