第5回 陰影と立体表現技術

デザインのためのスケッチ思考法
や さ し い
デ ザ イ ン の
理 論
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第 5 回(最終回)
陰影と立体表現技術
福田哲夫
産業技術大学院大学 創造技術専攻 特任教授 1 はじめに
本稿は、これまで4回にわたりスケッチの基本か
③マーカー
鉛筆に比べてコントラストを得やすく、描画が明
瞭で印象が強い表現となる[図 1][図 2]。
ら観察の大切さ、発想法から透視図、そして効果的
な画面構成まで、鉛筆一本でも描画できるように解
説を繰り返してきた。
今回も省筆と速筆に心掛け、鉛筆に加えてパステ
ルやマーカーなど速乾性の描画用具を用いながら解
説をする。陰影や立体感、素材の質感表現などは、
図1 鉛筆とマーカーの表現の違い
デザイン初期に用いられるスケッチ用として、また
レンダリング(完成予想図)の描画にまで応用でき
その種類は、大きく分けて水性と油性とがある。
る手法として解説をする。
a.水性インクは、水に溶けるため乾燥時間がかかり、
2 用具の解説
重ね塗りや速乾用としては向かない。ただし、線
引き用のピンポイント・マーカーの場合には、油
にじ
1)試し描きで使いやすい画材を選ぶ
性マーカーと組み合わせても線が滲まない。また
①色鉛筆
逆にその水性の滲みを生かした表現も可能だ。
ひと昔前はロウ分が多いためか硬い芯が多かった
ようだ。現在では水溶性で透明水彩のような表現が
できるものから、油分が多く重ね塗りができる柔ら
b.油性インクは、従来の有機系溶剤から、現在で
はアルコール系が主流となっている。
アルコール系の場合には、重ね塗りで時間をか
かいものまで、市場には各種出回っている。
けると、空気中の水分を含み用紙が伸びる。後作
以下は、それぞれの感性にあった筆跡と自分の描
業でパステル面の斑が生じないようにするには短
画内容に合わせた選択をお勧めする(鉛筆について
時間に塗ることが秘訣だ。
は、本稿第 1 回 103 号 49 頁③の 1)
「目的に合わせ
た線描用硬筆の選択」を参照)。
ボールペンに油性マーカーを重ねると、滲みに
よるグレーの濃淡が現れる。これを逆手に活用し
て一気に立体感を得ることも可能だ。
②パステル
円柱や角型断面のスティックで、オイルパステル
などもある。粉状のため描画にはその一部をマスク
で覆うことや、粉が剥がれ落ちないよう定着液を吹
き付け、用紙に定着させる。
図2 鉛筆にマーカーを加えて立体感を得る
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やさしいデザインの理論 53