■■■■ 3 研究の成果 聴覚障害児の学習言語習得を促すための指導の在り方 ・算数科指導プログラムを作成することにより,小学部全体で論理的思考力・表現力 ―算数科及び自立活動における言語活動の充実を通して― を育成する指導を統一して行うことができた。この指導プログラムは,①「算数科授 広島県立広島南特別支援学校・広島県立呉南特別支援学校 業の組み立て方」 ,②「論理的思考力・表現力を育成するための『指導のポイント』 」 , 代表 重岡 伸治 ③「領域別の課題と対策」の3つの内容で構成した。①「算数科授業の組み立て方」 連絡先 TEL 082-244-0421 においては,1時間の授業を,問題解決型学習を取り入れた6つの展開で行うことと し, 「算数マップ」にまとめた。 「算数マップ」に沿って授業を進めることで,思考を ■研究成果概要 深める活動や自分の考えを表現する活動を意識して行うことができた。 1 研究の目的 ・研究授業においては,ワークシートを工夫し,思考の過程をあえて図や言葉で記述 聴覚障害児は,その障害特性として言語習得に課題を示し,結果として学力が9歳 する欄を設けた。また,集団解決の時間では,別の解法を提示し,自分の考えと比較 レベルに留まることも少なくないと指摘されている。本校小学部児童においても,基 させる学習を行った。そうすることにより,児童は他の解法の良さを活用して問題を 礎的・基本的な学力は概ね定着してきつつあるものの,依然として言語力,学力には 解いたり,説明の仕方を工夫したりすることができた。 課題が見られる。例えば,教研式読書力診断検査や全国学力・学習状況調査及び広島 ・指導前後において,児童の発言内容やワークシートの記述内容,算数説明力テスト 県「基礎・基本」定着状況調査などの結果から,質問の意図をくみ取ったり,問いに の解答の仕方が変容した。児童の中には,平易な表現である生活言語レベルのものか 対して論理的に説明したりすることに課題があることがうかがえた。 ら,算数用語を用いた学習言語レベルのものへと変容が見られたものもいた。また, このような課題が生じる背景として,これまでの指導を振り返ると,聴覚障害児が 諸検査の結果が向上し,言語力・学力の向上を図ることができた。 理解できるようにと教室内の言語環境が平易な表現,発問に留まっていたり,自力で ・これらのことから,指導プログラムに基づいた指導は,児童の論理的思考力・表現 読解する活動や思考を深める活動,考えを論理的に話したり書いたりする活動が不十 力を向上させる上で有効であることが示唆され,一定の成果を挙げることができたと 分であったりしたことが考えられる。 いえる。 そこで,自分の考えを意図的に言葉で説明させ,思考を深める学習活動を取り入れ 4 研究の課題 ることによって,学習言語習得を促し,論理的思考力・表現力及び学力の向上を図る ・言語力アセスメントの結果では,指導前後で向上が見られたものの,全体的に言語 ことにした。研究を進めるに当たっては,算数科に焦点を当てた実践研究を行い,具 力は年齢相応より遅れが見られ,特に文法力・読解力が低いことがうかがえた。また, 体的な場面における指導の在り方を検討することとした。 算数説明力テストの結果から,一部の児童の記述解答に変容は見られたものの,依然 として自分の考えを言葉で論理的に説明することが難しい状況がある。これらの課題 2 研究の方法 を解決するために,今後は,指導プログラムの内容に,自立活動における文法指導の (1) 算数科指導プログラムを作成し,論理的思考力・表現力を育成する指導の在り方 充実を盛り込むなどして,言語力の向上を図ることが必要である。 をまとめる。 (2) 小学部算数科における研究授業を実施し,論理的思考力・表現力を育てる指導の 在り方について検討する。 (3) 指導の効果については,指導前後の言語力・学力の変容を,言語力や学力に係る アセスメント等を活用し,検証する。 ・言語力アセスメント・学力アセスメントの結果では,数値上の向上は見られたもの の,その向上が本研究で取り組んだ指導を要因としているのか,他の指導の影響も受 けているのか明確に検証できていない。今後は,長期的に諸検査の結果を比較・検証 するとともに,具体的な指導の実際と児童の変容を記録に残し,指導と結果の因果関 係を検証していくことが必要である。
© Copyright 2024 ExpyDoc