第133回講演会(2015年11月6日,11月7日) 日本航海学会講演予稿集 3巻2号 2015年9月30日 ウイリアムソンターンにおける操縦性の影響-Ⅱ. 正会員 ○世良 亘(神戸大学) 非会員 貴志 大智(神戸大学) 要旨 ウイリアムソンターンは、元の進路上に確実に戻れる転落者救助のための操船方法として知られている。 しかし近年、船種・船型や舵の多様化により、標準的操船方法では必ずしも元のコースライン上に戻れない 場合が現れている。前報では、深江丸を用いた実船と操船シミュレータでウイリムソンターン実験を行い、 舵角と舵を反対にとる回頭角の影響について調査を行った。その結果、標準的操船方法では元のコースライ ン上から大きく外れる状況を確認し、最大舵角一定で反対舵角にとる回頭角を変化させて調整することが救 助操船としては望ましいと考えられた。また、各船型について操船シミュレータで横偏位量について調査を 行ったが、標準的な操船方法では過半数の船が1L 以内の横偏位量で戻ることができず、最適な反対舵角に とる回頭角については個々の船舶で実験的に求めるに留まった。 そこで本研究では、操船シミュレータを利用して舵を反対にとる回頭角に影響を与える要素について調査 し、元のコースライン上に戻ることのできる回頭角を求めるための簡易推定式作成について検討を行った。 キーワード:海難救助、操縦性、ウイリアムソンターン、船外転落者、操船シミュレータ 1.はじめに ったが、標準的操船方法では全ての船が内側に偏位 洋上で人が海中に転落した場合、操船者は救助の し、1L 以内の横偏位量で戻れた船はわずかであっ ために迅速な措置を執らなければならない。このと た。そのため、元のコースライン付近に戻れるよう き、短時間で落水者の元へ戻るための標準的操船法 転舵回頭角を実験的に求めると、全て標準的な 60 の一つとしてウイリアムソンターンが提案されてい 度よりも小さな角度となった。 る。この操船法は、元のコースライン上にほぼ確実 しかし、各船が実験を行い元に戻れる回頭角を求 に戻れる操船法として夜間や視界不良時に有効とさ めることは現実的ではなく、既知の値を利用して求 れているが、近年は標準的操船方法では必ずしも元 めることができることが望ましい。そこで本研究で (1) のコースライン上に戻れない場合が現れている 。 は、ウイリアムソンターンにおいて元のコースライ (2) 前報 では、深江丸を用いて実船と操船シミュレ ン上に戻ることのできる転舵回頭角を求めるための ータでウイリムソンターン実験を行い、舵角と舵を 簡易推定式について検討を行った。 反対にとる回頭角(以下、転舵回頭角)の影響につ いて調査を行った。その結果、標準的操船方法では 2.操船シミュレータ実験 元のコースライン上から大きく外れ、最大舵角一定 2.1 実験方法 で転舵回頭角を変化させて調整することが救助操船 実験は、神戸大学大学院海事科学研究科の操船シ としては望ましいと考えられた。また、各船型につ ミュレータを用いて行った。実験で使用した各船の いて操船シミュレータで横偏位量について調査を行 主要目を表1に示す。 表1 船型 A:26 万 DWT 型タンカー(Full) B:26 万 DWT 型タンカー(Half) C:26 万 DWT 型タンカー(Ballast) D:6000TEU コンテナ船 E:12.7m3 LNG 船 F:6000 台積自動車専用船 G:1万 DWT 型タンカー 全長(m) 321.95 321.95 321.95 318.00 285.30 199.93 113.95 各船の主要目 垂線間長(m) 311.00 311.00 311.00 301.00 273.41 190.00 108.00 95 型幅(m) 58.00 58.00 58.00 42.80 43.91 32.26 18.40 型深さ(m) 29.50 29.50 29.50 24.10 25.02 34.55 9.80 喫水(m) 20.00 14.63 9.91 14.00 10.80 9.50 7.90 方形係数 0.83 0.75 0.75 0.63 0.70 0.52 0.75 第133回講演会(2015年11月6日,11月7日) 日本航海学会講演予稿集 3巻2号 2015年9月30日 実験海域は障害物のない深水域とし、風潮流や波 結果となった。そこで、T’を用いて以下のような式 などの外力がない状態で、 初期速力は Navigation Full で転舵回頭角ψを推定することとした。 とした。標準的操船方法に従い、直進状態から Hard a starboard(右舵角 35 度)に舵を取り、原針路から ψ[deg]=60-6×T’ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1) 60 度回頭した時に Hard a port(左舵角 35 度)とし た。船が左回頭となり、原針路の 20 度手前まで回頭 推定式により求めた転舵回頭角ψで舵を反対に したときに舵角を Midships として、ほぼ反方位とな きりウイリアムソンターンを行ったときの航跡を図 った時の横偏位量を計測した。 3に示す。全ての船型で横偏位量は1L 以内となり、 平均では 0.36L となった。 2.2 実験結果と簡易推定式 3.まとめ 実験結果の航跡図を図1に示す。この時の偏位量 と各値との関係を調べたところ、舵角 15 度での無次 本研究では、ウイリアムソンターンにおいて元の 元操縦性指数 T’との相関が良く図2に示すような コースライン上に戻ることのできる簡易推定式を検 討し、1L 以内の横偏位量に収まる推定式を開発し た。今後、 他の船舶でも使用可能かを調べると共に、 より精度の高い方法を検討していくことが望まれる。 参考文献 (1) Xianku ZHANG, etc. : Researches on the Williamson Turn for Very Large Carriers, Naval Engineers Journal, Vol.125, No.4, pp.129-135, 2013.12. (2) 世良亘, 他:ウイリアムソンターンにおける操 縦性の影響,日本航海学会講演予稿集,Vol.2, No.2,pp.194-195,2014.10. 図1 図2 標準操船時の航跡図 図3 無次元操縦性指数 T’と偏位量 96 推定式による回頭角での航跡図
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