被積分過程が決定論的なケースの伊藤積分

2014 年度「ファイナンス保険数理特論」
補足7
— 被積分過程が決定論的なケースの伊藤積分 —
2014 年 6 月 30 日, 高岡浩一郎∗
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】
1
はじめに
本稿では,決定論的な実数値関数 h : (0, T ] → R が
∫
T
h2t dt < ∞
0
を満たすときに
∫
T
( ∫
ht dWt ∼ N 0,
0
T
h2t dt
)
0
が成り立つことを示します.つまり,被積分過程が決定論的なケースでは,確率積分の結果の確率
変数が正規分布に従うのです.
2
関数 h が階段関数のときの,簡単な証明
時刻の区間 (0, T ] が
0 = t0 < t1 < t2 < · · · < tn = T
と分割され(等分割でなくても良い),各小区間 ( tk−1 , tk ] 上では関数 h の値が定数 ak である
と仮定します.このとき
∫
T
ht dWt =
0
n
∑
(
)
ak Wtk − Wtk−1
k=1
となりますが,k = 1, 2, · · · , n に対して
(
)
(
)
ak Wtk − Wtk−1 ∼ N 0, a2k (tk − tk−1 )
であり,また n 個の確率変数
{
(
)}
ak Wtk − Wtk−1
k=1,2,··· ,n
∗ 一橋大学大学院商学研究科.E-mail:
[email protected]
1
は独立なので,正規分布の再生性より n 個の和
n
∑
(
)
ak Wtk − Wtk−1
k=1
も再び正規分布に従い,その期待値はゼロ,そして分散は
n
∑
∫
T
a2k (tk − tk−1 ) =
h2t dt
0
k=1
となります.
3
一般のケースの証明
λ を任意の実数とします.確率過程
∫
(
Mt := exp
t
λ
0
λ2
hu dWu −
2
∫
t
h2u du
)
0
に伊藤の公式を適用すると
dMt = Mt λ ht dWt
となるので,M は(少なくとも)局所マルチンゲールになります.今回は h が決定論的なので
Novikov 条件【次回講義で少し言及します】はすぐ成り立ちます:
[
]
( λ2 ∫ T
)
( λ2 ∫ T
)
2
E exp
ht dt
= exp
h2t dt < ∞
2 0
2 0
ゆえに,M は真のマルチンゲールとなり,その時刻 T での期待値は,時刻ゼロでの値1と等しく
なります:
[
E exp
∫
(
T
0
λ2
ht dWt −
2
T
)
λ
∫
)
T
h2t
dt
]
= 1.
0
これを変形すると
[
E exp
∫
(
λ
]
ht dWt
= exp
0
となり,左辺が確率変数
ます.
∫T
0
( λ2 ∫ T
)
h2t dt
2 0
ht dWt のモーメント母関数の形をしていることから,題意が成立し
2