南部医療センター・こども医療センター

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
1. 病院の概要
〇設置主体:沖縄県
当院は、こども病院を併設した大人と
こどものための総合医療センターとして
平成 18 年 4 月に当時の県立那覇病院と県
立南部病院を整備・統合し、全く新しい機
能や役割を持った基幹病院として開院し
た。
〇病院の理念:①県民がいつでも受診できる安心・安全な医療をめざす ②患者の人権を尊
重し思いやりの心を持ってよい医療を提供する ③各部門が研鑽し相互に協力し合い高度専
門的な医療を提供する
〇病院の役割:①南部医療圏における救命救急医療 ②高度小児医療 ③総合周産期母子医療④精
神身体合併症医療 ⑤離島・僻地医療
〇病床数:434 床 〇診療科:成人 22 科、小児 18 科 〇入院基本料:一般病棟 7 対 1
〇急性期看護補助体制加算 25 対 1 〇病床稼働率:94.7%
〇年間入院患者数:142,008 人
〇平均在院日数:14.5 日
〇年間外来患者数:133,265 人
<看護部概要>
〇看護職員数:正規看護職員 495 人(男性:80 人、女性:415 人*産休・育休・その他休職
36 人含む)非常勤看護職員 50 人 看護補助員 93 人 〇看護師平均年齢:38.2 歳 〇離職
率 5.9% 〇看護単位:22 単位
〇看護方式:チームナーシング受持ち制 〇勤務体制:3
交代制
2. WLB 推進事業への参加動機
当院は、平成 22 年 5 月に 7 対 1 看護を導入したが、24 時間 365 日、1 次から 3 次の
救急患者を受け入れており、重症患者のケアや時間外の入院受け入れなどで超勤が多く
看護師が慢性的に疲弊している状況があった。このままでは看護師の離職や健康障害を
来すことが懸念された。そのため、看護協会の「看護職の WLB インデックス調査」に
参加し、まず職場の現状を把握・分析すること、また、WLB 推進ワークショップへの
参加を表明することで組織的に職場環境改善への取り組みができると考えた。
3.WLB取り組み前の課題
1) 時間外勤務について
(1)超勤時間が日常的に多く、マンネリ化している。277 人中 81.6%が時間外勤務をし
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ており 65.7%が前残業をしている。全体の 50%は定時で終われる業務と思っていな
い。
(2)77%の職員が仕事を終えても帰りにくい雰囲気がある。要因として時間外勤務の自
己申告や上司の超勤命令が徹底していないことがある。ノー残業デーはあるが、実際
は活用されておらずその日に院内研修が組まれている。
2)休暇・制度は比較的充実しているが、制度を知らない職員が 60~70%いる。
3)25~34 歳の職員が働き方に満足していない 58.2%、生活に満足していないが 49%い
る。また、個人の夜勤回数負担や 3 交代制における勤務間隔が短く私生活にゆとりが
ない。
4)制度利用者やキャリアアップを目指す職員に対してお互い様意識が醸成されていない。
4.WLB取り組み体制
まず病院幹部会議で WLB 推進チーム立ち上げの承認を得た。WLB 推進対策メンバー
として看護部長、副看護部長、看護主幹、総務係長の 10 人を選出し WLB 推進チームを
構成した。WLB 推進チームによる対策会議を 2 週間に 1 度開催し取り組みについて話
し合った。その後、管理者会議、医局会、看護師長会、看護師集会で説明を行い周知し
た。ワークショップの後、スタッフ 4 人を WLB 推進対策チームに加えスタッフからの
フィードバックを得た。また、取り組む内容に応じて関係者を会議に出席させて効率性・
効果性が高くなるような体制にしている。
5.WLB取り組みの実際
1)超過勤務時間の削減と業務整理
超過勤務時間の要因としては、取り組み初年度に実施した看護師(看護師長を除く)
へのアンケート調査結果や師長による自部署の分析から患者の急変や処置等の業務量が
多い時、入退院が多い時、重症患者の緊急入院がある時などに超過勤務が発生すること
が多い。また、時間内に記録ができないことも要因としてある。超過勤務縮減について
は看護師長会に各病棟や部署の時間外勤務状況のデータを毎月提示し、時には議題とし
て取り上げ、看護部の方針として師長及び代行者が5業務の進捗管理をしっかり行い業
務調整及び超勤の事前命令を徹底するよう指示した。また、業務量が増加すると予測さ
れた場合は、時差勤務を導入するなど業務負担軽減に努めている。時間外勤務時間数は、
平成 23 年度月一人あたり 2.6 時間、平成 24 年度 2.0 時間、平成 25 年度 2.3 時間と期待
した成果を得ることができていない。これは、1 つには超勤の事前命令が徹底せず命令な
く残業していることや残業がマンネリ化している状況があること、また、残業の原因分
析がまだまだ不十分であり根本解決には至っていないことが要因である。
実際には超過勤務時間短縮は一時的には改善が見られても、管理者が言い続けなけれ
ば改善することができていない。継続して超勤の原因について現状分析し対策を立てて
取り組む必要がある。さらに職員全体に時間管理の考え方を周知し、職場風土を醸成す
る必要がある。
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2)福利厚生等制度の周知について
福利厚生等の制度については、60~70%の職員が活用方法を知らないと答えていたため、
総務課庶務係長が制度についての講演会を行った。また、産後休暇を取得する職員に看護
部長が育児休業制度の説明や担当事務職員を紹介している。看護大学院など修学を希望す
る職員に対しても修学部分休業制度や自己啓発休業制度の説明をしている。現在、育児短
時間勤務制度や部分休業制度利用者が 7 人、大学院で修学している職員が 5 人いる。
3)子育て支援について
育児休暇中の職員を含めた全職員を対象に子
育て講演会を開催し、育児不安の解消や子育て中
の職員同士が触れ合う機会にもなったためピア
カウンセリング体制作りをした。また、院内保育
所の設置について委員会を立ち上げ取り組んだ。
委員会の構成メンバーは、事務長、医師 2 人、子
育て中の看護師 2 人及び事務職員 1 人、保育士 2
人、看護部長、副看護部長であった。職員が安心
して仕事ができるようにするために保育環境の
充実について話し合い、外部委託した保育所の運
営規程の中に意見を反映させた。院内保育所は平成 26 年 3 月に開園し、利用状況は常に
100%である。また、院内保育所の利用により開園以来 11 人が育児休暇を短縮しており、
中には 1 年短縮した職員もいる。さらに、夜間保育を週 1 回行っており、月に 3~4 回夜勤
を行うことにより同僚の夜勤回数の軽減や入院基本料の夜勤時間数 72 時間の要員になって
おり病院経営にも寄与している。さらに平成 27 年 4 月から病児保育も行う予定である。
4) 変則 2 交代制勤務の導入
平成 25 年度・26 年度に実施した職務満足度調査で 2 交代制勤務を希望する声があった。
実際に 3 交代制勤務は身体的・精神的にゆとりがないことや家庭との両立が困難などの理由
で平成 25 年度に 5 人が退職した。看護師の WLB 実現と働き続けられる職場作り及び看護
師の安定的確保のためには変則 2 交代制勤務の導入は必須であった。同勤務体制試行調査の
結果、1 病棟の同意が得られたため、夜勤・交代制勤務に関するガイドラインの勤務編成の
基準 11 項目中 10 項目を満たす勤務編成を作成し、職員への説明と関係する医師やコメディ
カル等への説明と調整、労働組合との協議・交渉を数回経て平成 27 年 1 月より試行してい
へは勤務時間割の変更になる
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る。試行にあたって特に看護師
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8
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ため、一人残らず説明し、コン
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7
5
4
3
前
センサスを得るようにした。施
後
行 後 のア ンケ ート 結果で は 、
「休みが全て完全
0
低い
やや高い
高い
非常に高い
図 1 変則 2 交代制勤務導入前後の仕事による負担度判定結果
週休なので精神的にも肉体的
にもよい」
、
「夜勤が 5 人に増え
たので精神的緊張が緩和され、
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夜勤の業務軽減にもなっている。
」などの声がある。また、疲労蓄積自己診断チェックを
施行前と施行後で比較すると仕事に対する負担度は、
「非常に高いと考えられる」が施行
前より後は 5 人少なく、
「高いと考えられる」は、4 人少なかった。
6.WLB取り組み後の組織の変化
WLB 推進事業に参加して、看護部目標に「仕事と生活のバランスが保て、働き続け
られる職場環境の整備」を掲げ、全職員に周知したことで一定のコンセンサスは得られ、
組織で取り組むことができた項目もある。短時間勤務制度や部分休業制度を活用する職
員、夜勤回数を制限する職員、進学している職員への配慮などはできるようになった。
当院の産休や育児休暇を取得する職員の多くは中堅看護師であり、常に 1 割いるため
業務の安全性や看護の質の向上に影響していた。しかし、院内保育園が開園したことに
より育児休暇を短縮する職員が多くなり、安全で質の高い医療・看護サービスが確保で
きるようになっていると考える。
7.WLB今後の課題
WLB の取り組みについて子育て支援や超過勤務縮減を中心に行ってきた。WLB の取
れる働き方が定着するためには、お互い様意識の醸成が必要である。今は子育てのため
に夜勤の制限があっても、1・2 年後には次の人に譲るなど WLB の恩恵が一部の看護
師だけにならないようにする必要がある。また、今後は中堅看護師やベテラン看護師の
ニーズやライフイベントにも配慮し、看護師ひとり一人のキャリアを支援する関わりが
必要である。職員の意識も WLB 本来の目的を自覚させ、7 割以上の職員が働き方や生
活に満足感があると思えるような職場環境を作り看護の質向上に努めていきたい。
3 年間の取組
みが称えられ
カンゴサウル
ス賞を受賞
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