製品・技術紹介 第5/6 世代ガラス基板対応エキシマレーザアニール装置 1. はじめに 現在フラットパネルディスプレイ(FPD)業界における中 小型パネルは世界中に普及したスマートフォンやタブレット 用途として市場が急成長しており、その高精細化がディスプ レイ性能向上の鍵として各社激しい開発競争を繰り広げて いる。低温多結晶(LTPS)シリコン TFT はその高精細化 や有機 EL(OLED)ディスプレイに欠かせない技術として、 日本・韓国のみならず近年中国に大型工場が続々と建設さ れている。 図 1 TwinVYPERTM レーザ/ LB1300 光学系 当社は 2011 年に第 5・6 世代対応エキシマレーザアニー ル(ELA)装置を上市して以来、業界標準のシリコン薄膜 の結晶化装置として、日本・中国を始め多くの LTPS FPD メーカーに採用され、FPD 業界に貢献している。 2. 特 長 ディスプレイ製造現場に於いて求められているのは、均 一な多結晶化とその生産性である。これらの実現のために 当社の ELA 装置は以下のような特長がある。 1. レーザ光源 図 2 ELA 装置概要 光源となるコヒレント社製 V Y PER TM レーザ(図 1)は 308nm の波長を持つエキシマレーザであり、1J-600Hz を 発振する 2 つのユニットにより 2J-600H(1200W)のレー ザ発振が可能である。パルスエネルギーの安定性は(1 σ / 3. アニーラー 3.1. 構造 Ave.)/100 < 0.45 を実現しており、ELA 工程における ELA 装置として求められる基板照射性能はビーム安定性 ショットムラの軽減に役立っている。また、第 8 世代ガラス と基板上の照射位置決め精度である。装置内外に発生す 基 板対応を見越した 2400W の TwinVYPERTM レーザも る微小な振動は光学系やガラス基板搬送ステージに対し 登場している。 μm 単位の変位として影響を及ぼす。当社装置は構造解析 を用いて光学系を高剛性のフレーム上に搭載し、ステージ 2. 光学系 上でのビーム振動が少ない構造を採用している。 ELA 装置に搭載されている光学系はホモジナイザによ り均一なラインビームに形成される。現在主流の 750mm 光 学 系は、 第 6 世 代 ガラス 基 板(1500 × 1850mm) を 均一に 2 スキャンで照射するのに最適に設計されている。 ELA 装置は主に中小型ディスプレイ用途に使われているが、 750mm 光学系では 59 型、1300mm 光学系では 100 型ま での大型ディスプレイが製作できる照射長さが確保されて いる。 図 3 構造解析モデル (159) 製品・技術紹介 3.2. ステージ 3.5. 各種モニターシステム ガラス基板を搬送するステージは、パルス毎のラインビ 顧客製品の性能向上に伴い、ELA プロセスに関連する ームの位置が定位置となるよう比較的低速域での速度安定 パラメータについて常に状態を監視・分析できる機能が必 性が求められる。リニアモーター / エアベアリング方式によ 要とされる。ビーム形状の均一性を評価するビームプロファ り、第6世代対応のストロークを維持しつつ速度安定性は イラー、ビーム空間安定性を管理するためのビームスタビラ ± 1% を実現している。また、エアベアリングに集塵排気機 イザーが搭載されている。また、運転中のレーザパルスエ 構を設け、動作中にパネルの不良要因となるパーティクルを ネルギ安定性、照射雰囲気等の他、光学系部の振動状態 除去する機構を搭載している。 を計測する振動モニター、パルス波形の安定性を計測する パルス波形モニター等プロセス関連パラメータも常時オンラ イン監視、記録することが可能である。 一方 ELA 装置についてはラインビームをパルス毎に基板 走査する照射方法を取るため、パルス毎やビーム進行方向 に現れるムラが製品パネル不良につながる問題となる。この ムラ目視検査は顧客の経験に依存するところが多く、定量 的かつ客観的な評価をすることを目的としてムラモニター 図 4 ステージ吸塵機構 (図 6)が搭載されている。現在ラインカメラタイプが開発さ れ、300mm の広い範囲を同時計測することが可能である。 3.3. ガラス基板試料台 第 6 世代ガラス基板上に均一な照射を行うためには、ビ ームの焦点深度± 125μm 以内の平面度を持つ基板試料台 が必要である。また広大な面積を持つ試料台の重量増加 はステージ精度への負荷が増大するため、材質・構造上の 工夫により最小限の重量にて面内平面度は±30μm 以下を 実現している。 図 6 ムラモニター 3.4. 照射雰囲気 照射雰囲気は結晶化 Si 膜の各種特性に影響を与える。 3.6. プロセス技術 独自の工夫を施した局所シール機構により、750mm ライン レーザのパルス波形は Si 薄膜の溶融再結晶化現象に大 ビームの全域に渡ってレーザ照射エリアの雰囲気を制御し きく係わる因子である。当社では光学的にパルス波形を伸 ており、残留酸素濃度は 50ppm 以下を達成している。流 ばす PEX(Pulse EXtender)によりエネルギマージンの拡 体解析により最大 1300mm ビームまで対応可能である。 大やムラ改善に効果があることに着目し、仕様の最適化に 取り組んできた。現在では多くのユーザに使用されている が、定性的な効果のみならず、その結晶性の違いについて も分析し、装置メーカーとして顧客の目指す製品作りに一 歩踏み込んだ仕様提案を行っている。 PEX 無 図 5 雰囲気流体解析 (160) PEX 有 図 7 PEX による結晶性比較 日本製鋼所技報 No.66(2015.10) 製品・技術紹介 4. 仕 様 ELA 装置の主要仕様を表 1 に示す。さらなる大出力レー ザ・長尺ビームにも対応可能な体制を整えている。 表 1 G5.5/G6 ELA 装置構成 アニーラー • 高剛性フレーム構造 • リニアモーター・エアスライド方式 • 対応基板サイズ:~ 1500 x 1850mm • ステージ速度安定性:± 1% (12mms-1) • 照射雰囲気:N2 ( 酸素濃度 < 50ppm) • ムラモニター、振動モニター 光学系 • ビーム長:750 ~ 1300mm • PEX ( パルス波形調整 ) • ランダム マイクロスムージング • ビームスタビライザー • ビームプロファイラー • ラインビームパルス波形モニター レーザ • 波長:308nm • 出力:2J ~ 4J x 600Hz • エネルギー安定性:1s < 0.45% (2J) • ガス寿命:1E8 ショット • パルス幅:24ns 5. おわりに LTPS TFT は超高精細液晶ディスプレイや有機 EL ディ スプレイの核となる技術としての需要が高まっている。また、 競合技術として酸化物 TFT などの新素材が開発されてい るが、ELA 方式は最も高い電子移動度を実現する標準の 技術として確立されている。当社は ELA 装置のリーディン グカンパニーとして、将来の需要を見据えた第 8 世代に対 応した装置開発を進めると共に、より品質・生産性の高い 装置を提供すべく、装置開発とアフターサービスの充実を 進めて行きたい。 (161)
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