レポート No.1 20151105 有機肥料研究 1 「味の素」と「丸鶏ガラスープ」を窒素源とするコマツナの栽培試験 植物栄養学研究室・助教 はじめに 日本の農地ではこれまでの施肥によってリン酸やカ リウムが蓄積している.これら肥料成分の今以上の 蓄積を抑えるためには,一作で消費される肥料成分 だけを補完的に施用することが望まれる.すなわち, これまで堆肥を与えられ続けてきた多くの農地には すでにリンとカリが蓄積しており,不足する窒素だ けを施肥することが求められる.哺乳動物の尿に含 まれる尿素は窒素肥効が高く有機質肥料として最適 だが,肥料尿素は化学的な方法で合成されているの で「有機農業」には禁忌の資材である.そこで有機 性窒素肥料として,食品として流通する旨味調味料 を窒素肥料として用いることができるかどうか検討 した.旨味調味料には易分解性の有機態窒素である アミノ酸(グルタミン酸)や核酸(イノシン酸,グ アニル酸)が多く含まれる.さらにアミノ酸や核酸 を施用した場合,これらが無機化されて生じるアン モニウムイオンや硝酸イオンの窒素としての肥効以 上の生育促進効果が得られる場合があるとの報告も ある1). 落合久美子 た N100 区,③「味の素」で与えた味の素区,④「丸 鶏がらスープ」で与えた丸鶏区,の 4 処理区を設け た。これらの窒素成分は,リン酸水素二カリウム (K2HPO4 123 mg,P2O5 50 mg, K2O 66 mg に相当 する)とともに全量を播種前に土壌に混和した(表 1). 栽培は 2015 年 4 月 27 日から 5 月 31 日の 35 日 間,各処理 2 連で行った. 地上部を収穫し,乾物重と窒素含有率を測定した。 窒素の定量は C/N コーダーで行った. 結果と考察 コマツナの乾物重と窒素吸収量を図 1 に示した.ま た播種後 23 日目の生育の様子を写真 1 に示した. 丸鶏区のコマツナの乾物重,窒素吸収量は N0 区 と差がなく, 「丸鶏がらスープ」中の窒素は,コマツ ナにほとんど吸収されないことが示された. 「味の素」は N100 区(硝酸アンモニウム)の 50% 実験方法 市販されている「味の素」と「丸鶏がらスープ(減 塩タイプ)」を用いてコマツナの栽培試験をおこなっ た.栽培に用いたコマツナ品種は楽天(タキイ種苗) である. 栽培には 1-L 容プラスチックポットに 5 mm メッ シュで篩った北白川水田土壌を風乾重 1.2kg 充填し た.処理区として,①窒素を与えない N0 区,ポッ トあたり窒素 100mg を,②硝酸アンモニウムで与え 表1 栽培試験設計 すべてのポットに K 2HPO 4 123mg を与えた. 図 1 旨味調味料を窒素肥料に用いて栽培したコ マツナの(a)乾物重,および(b)窒素吸収量 栽培期間は 35 日間.値は 2 ポットの平均値 SD. 1 レポート No.1 の肥効を示した。 「味の素」の主成分はグルタミン酸 ナトリウムである.我々の栽培試験では,グルタミ ン酸は化学肥料と同等の肥効を示す場合もあり,今 回の結果との違いはさらに検討する必要がある.コ マツナ生育過程の観察では, 「味の素」区では N100 区よりも発芽∼生育初期に生育の遅れが目立ったが, 生育後期には旺盛な成長で N100 区に追いつく勢い だったので,栽培期間が長い場合には「味の素」は より効くのかもしれない. N100 区と「味の素」区で,吸収窒素あたりの乾 物重(g DW/g N)は,それぞれ 70.8 と 71.4 と,ほと んど同じだった.この結果は,①N100 区と「味の 素」区での生育の違いが窒素の吸収量の多寡に起因 すること,また,②「味の素」には窒素として作用 する以上の生育促進効果はないこと,を示している. 今後, 「味の素」の施用量を増やした場合,核酸を 主成分とする旨み調味料の窒素肥料としての効き方 について,さらに検討する予定である. 文献 1) 山縣真人・阿江教治・大谷卓(1996)作物の生育反 応に及ぼす有機態窒素の効果,土肥誌,67,345‒353. 写真 1. 「味の素」, 「丸鶏がらスープ」を与えて栽培したコマツナの様子.左から N0 区,味の素区,丸鶏区,N100 区.この写真は,図1に結果を示した播種前全量添加区の様子ではなく,それぞれの窒素源を 4 回に分けて分施し た場合のものだが,肥料の与え方の違いは生育にあまり影響しなかった. 2
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