近世日清通商関係史 - 日本経済研究センター

第 58 回日経・経済図書文化賞決まる
受賞作品
近世日清通商関係史
彭 浩著
東京大学出版会 viii,309 ページ、6000 円(税別)
書評
政策と通商 綿密な考察
東京大学教授
岡崎哲二
前近代・近代におけるアジア内部の貿易の重要性が近年の経済史研究によって明らかにな
ってきた。本書はこうした経済史研究の進展を背景として、日本の幕藩体制成立と、中国に
おける明・清の王朝交代という大きな政治的変動が生じた17世紀以降に焦点を当て、新た
に成立した日中両国の政権がどのような通商制度を構築し、その下でどのように通商が行わ
れたかを分析している。
17世紀末~19世紀半ばの日中間の通商関係は中国史の文脈では朝貢貿易体制ないし互
市関係、日本史の文脈では鎖国体制下における長崎の会所貿易を軸に捉えられてきた。
本書の貢献は、両国のこうした通商制度がそれぞれの政権の政策意図を反映して相互に関
連しつつ形成されたこと、その下で国交に基づかない通商関係が長期間にわたって安定的に
維持されたこと、両国の政権は幕府が発行する「信牌」という譲渡可能な一種の通商許可証
を利用して間接的に通商をコントロールし、それぞれが望む通商の成果の実現を期していた
ことを明らかにした点にある。
こうした貢献を可能にしたのは、著者が戦前以来蓄積されてきた膨大な関連文献の適切な
理解の上に、日本側の史料を読み直すとともに、最近利用可能になった清朝の史料を読解し、
両者を統合し、さらに考察を重ねたことにある。日清間の通商関係史にとどまらず、グロー
バルヒストリーや制度の経済史にもインパクトを与える貴重な研究である。