第 58 回日経・経済図書文化賞決まる 受賞作品 拡大する直接投資と日本企業 ―世界のなかの日本経済: 不確実性を超えて7 清田耕造著 NTT出版 224 ページ、2500 円(税別) 書評 産業空洞化論 周到に斬る 関西大学教授 本多佑三 円高の進行に伴い、日本企業が国内ではなく、海外に管理・製造・販売の拠点を置いて活 動するようになる、その結果、国内産業が衰退し、国内雇用が減少する。これが「産業の空 洞化」と一般に呼ばれる現象である。 本書によれば、海外直接投資をする企業は平均的に生産性の高い企業が多い。従って直接 投資の結果、相対的に生産性の高い国内事業所が閉鎖される傾向があり、製造業の生産性成 長にマイナスの影響を与えているという。この点は一般の認識にも合致している。 しかし、直接投資は必ずしも国内雇用を減らすとは限らない。直接投資を補完する形で国 内の生産が拡大する場合、国内雇用も増えるからだ。 さらに(1)海外に生産・販売拠点を置くことができるという選択肢が新たに加わること で、直接投資の資本に対するリターンが増え、日本企業の資本収益率が高まる(2)投資先 の所得の増加を通じて、日本から当該国への輸出を増やす(3)直接投資によって、海外子 会社から国内親会社への知識や技術の波及が起これば、日本企業の生産性が向上する――な ど数多くのメリットが見込めるからである。 このように、本書を読めば、冒頭の空洞化論が実に大ざっぱな推論となっていることが分 かる。他方、著者によって本書で展開されるほとんどの主張は統計データに立脚した丁寧か つ緻密な議論となっている。まさにこの点こそが、この本の最大の特徴であり、本書が受賞 に値するゆえんである。
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