膨大な企業データを分析 - 日本経済研究センター

第 58 回日経・経済図書文化賞決まる
受賞作品
アウトソーシングの国際経済学
―グローバル貿易の変貌と
日本企業のミクロ・データ分析
冨浦英一著
日本評論社 x,196 ページ、3200 円(税別)
書評
膨大な企業データを分析
東京大学教授
伊藤元重
国際経済学、とりわけその実物経済面を扱う国際貿易論の分野は、その分析対象となる経
済実態が大きく様変わりしていることもあって、学問の重心も変化してきた。
完全競争から不完全競争に、単純な輸出入から国境を越えた企業内貿易や直接投資に、と
いった具合である。また、整備され、豊富になったデータを背景に、それらを活用した実証
分析も飛躍的に増加した。
そうしたなか、企業の分業がより一層広がり、深化する過程で、製品開発や原材料生産か
ら加工や販売に至る、いわゆるバリューチェーン化の動きが国境を越えて広がろうとしてい
る。それに合わせるかのように、他社に業務の一部を委ねるアウトソーシングも拡大の一途
をたどってきた。
著者は企業がどういう局面でアウトソーシングに踏み切るかという観点から研究を進め、
こうした動きが先進国と途上国の双方の賃金格差の動きの重要な説明要因となると指摘。ま
た、環太平洋経済連携協定(TPP)のような経済連携とも深く関わっていることを明らか
にしている。
アウトソーシングが日本企業や日本経済に与える影響についての分析が薄いのが残念だが、
膨大な日本企業のデータを活用して、日本企業のアウトソーシングの全貌について初めて示
したという意味でも、本書は価値が高い。近年、国際経済学分野から受賞作が出ていなかっ
たが、本書の受賞がきっかけとなって、若い研究者が後に続くことを期待したい。