会長メッセージ「分析化学の魅力と学会の価値」 分析化学は、「物質が何からできているのか?」「物質がどれだけあ るのか?」 「どのような機能をもつのか?」などを知る、物質の「科学」 を研究するための最も重要な学問です。学問として重要なだけでなく、 企業の生産現場でも大変重要な役割を果たしています。例えば、最先 端分析化学・技術を駆使した電極材料のミクロな形状・物性解析など が、二次電池・燃料電池の性能向上や品質向上に大きく貢献してきま した。また、生活環境や地球環境を議論する上でも、有害物質の定点 観測や物質の空間分布・時間変動など多種多様の分析技術が利用され 鈴木 孝治 (SUZUKI, Koji) 慶應義塾大学理工学部教授。専門は、 センシング機能分子の創製、化学物質 センシング及び化学センサー開発、環 境・医療・食の計測。日本分析化学会 理事、副会長などを歴任。2015 年 4 月 ∼日本分析化学会会長。 ています。 分析化学の重要性は、わかりやすいところではノーベル賞受賞テー マからもわかります。最近の例では、超解像顕微鏡の開発、緑色蛍光 タンパク質の発見、生体高分子構造解析のための質量分析法・核磁気 共鳴法など、分析技術のブレークスルーがもたらした科学への貢献が 評価されています。これらは、分析(技術)の原理・理論の進展とと もに、分析化学から見れば応用分野(近年受賞ではバイオ分野)と融 合した大きな発展が、特徴であると言えます。 今後の先端科学技術の発展のためにも分析化学の進展と、融合分野の形成が欠かせません。例えば、ナノテ クノロジーやアトムテクノロジー、単一細胞科学といった極限計測と強く結びついた科学分野では、新しい分 析原理探求・分析性能向上が大きな進展の鍵を握っていると言えます。身体の様子を調べるヘルスケアや、食 品中の規制物質を計測する分析、航空機搭乗口でのセキュリティ検査など、分析技術として大きな発展の余地 が残されている分野も数多くあります。分析化学分野の研究者・技術者の多くは、専門学問・専門技術の深化、 バイオ分野や材料科学分野などの研究者と協調した融合分野形成、を同時に進める野心的な取り組みを続けて います。 最先端分析機器の進展に結びつくような高度技術とともに、「何をはかるか?」に着目した研究も分析化学 研究として非常に重要です。iPhone の例を引くまでもなく、既存の技術により「価値」を産む製品やサービス を生むことは大きな社会的インパクトをもちます。分析化学においても、簡易分析(キット)、化学/バイオ センサー、イムノクロマトやマイクロ化学チップなど、分析対象の「価値」に重きを置いた研究も幅広く行わ れています。 日本分析化学会は、分析原理で言えば溶液化学分析・電気化学分析・放射線分析・質量分析など、分析対象 で言えば生体・環境・材料・食品など、非常に幅広い分野にまたがる研究者が集い、分析化学と分析技術につ いて議論を深めています。融合分野の形成にも非常に前向きで、原理ベース・対象ベースを問わず学会内に懇 談会をつくり、より専門的な議論をする機会もあります。 最後に、分析化学研究をとおして学ぶことの魅力に少し触れたいと思います。分析化学分野で研究を進める 大学生・大学院生は、物質合成・分析原理探求・機器構築などの研究を進め、日本分析化学会などで研究発表 を行っています。学会では専門分野のリーダーたちとの討論により専門知識を深めると同時に、幅広い分野の 研究発表を聴講し、学問と社会の広さを勉強しています。特に、修士課程・博士課程の大学院生には、社会に 巣立った後の研究・開発活動に柔軟に取り組めるメリットがあると感じています。 日本分析化学会は、1952 年に設立され、それ以降 60 年以上に亘り学会発表や講演会・講習会などを通じて、 会員相互の情報交換や学習の場を提供しています。今後も皆が協力して学会を育て、盛り上げていきましょう。
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