アミンの亜硝酸との反応

アミンの亜硝酸との反応
亜硝酸とアミンの反応は、アミンの等級および性質(脂肪族、芳香族)により反応生成物が異なる。
亜硝酸と脂肪族アミンおよび芳香族アミンとの反応における生成物(まとめ)
脂肪族
原料
R
R
NH2
*'
R
N
N
/
-
芳香族
N
X
N
X
"
R
NH
N N
R'
O
R'
N N
O
R
$(0
*'
$(0
R
R
N R''
.#
R'
N
N
O
R'
*'
$(0
,)& ! +%
(注)N-ニトロソ化合物とは、アミンの窒素(N)にニトロソ基(N=O)が結合している化合物。
C-ニトロソ化合物とは、炭素原子(C)にニトロソ基(N=O)が結合している化合物。
0)亜硝酸からニトロシルカチオンの生成
+
亜硝酸を塩酸や硫酸で処理すると脱水反応が起こり、ニトロシルカチオン(NO )が生成する。この求電
+
子的な試薬はアミンの攻撃を受けるが、アミンの種類により生成物は大きく異なる。なお、NO の生成過程
は芳香族求電子置換反応の一つであるニトロ化における硝酸からの脱水反応によるニトロニウムイオン
+
(NO2 )の生成機構と基本的に同じである(忘れている人は p149 を見直そう)。
H
H
O
O Na
N
O
N
O
O
OH
O
N
O
H2SO4
O
N
N
H
O
O
N
O
H
H
O
N
O
第1級アミン
p.386
第1級アミンの場合には N-ニトロソ化合物を経てジアゾニウム塩が生成する。芳香族アミンから生成
するジアゾニウム塩は共鳴安定化により、低温では比較的安定な化合物である。しかしながら、脂肪族
アミンの場合には共鳴安定化が受けられないために著しく不安定であり、窒素ガスを発生してカルボカ
チオンとなり、これがさらに種々の反応を起こして複雑な生成物を与える。
H
H
R
N
N
H
O
R
N
R
N
OH
N
R
H
N OH
H
-H
H
- H2O
R
N
R
N
N
N
H
R
OH
N
N OH
$&
! N
N O
H
%
"#
- N2
R
N
N
N
N
N
N
N
N
R = Ph&'
+
芳香族ジアゾニウム塩はジアゾニオ基(N2 )を種々の求核試薬で置換することができるので大変有用な化
合物である(教科書 p.386-387)。特にジアゾニオ基をハロゲンに置き換える Sandmeyer 反応(ザンドマ
イヤー反応)が有名である。他にもシアノ基(CN)や水酸基(OH)にも簡単に置換できる。
1 ) 第 2 級 ア ミ ン
教科書該当ページなし
第2級アミンの場合には脂肪族、芳香族いずれの場合でも N-ニトロソ化合物が生成する。
N-
H
H
R
N
R'
N
O
R
N
N O
-H
R'
R
N
N
O
R'
2 ) 第 3 級 ア ミ ン
教科書該当ページなし
第3級アミンの場合には脂肪族アミンでは反応しない。これは脂肪族アミンの場合、ニトロシルカチオン
へ付加した後、N上に脱離するプロトン(H)が無いからである。
"
R''
R''
N
N
R
R'
O
N
R
N O
R'
$
#!
一方、芳香族アミンでも状況は同じであるが、芳香族化合物は第3級アミンと芳香環との間で共鳴が可能
であるために芳香環上でニトロソ化反応が起こる。アミノ基は電子供与基であるため芳香環上の電子密度は
高まっており、ニトロシルカチオンは求電子試薬なので好都合である。
L9BE5&+/L93>J1#=p-0
',(.&)-/$SAO#
H3C
CH3
CH3
N
N
H3C
O
N
N
:MBE5&+/H
O
L9BE5&+/!>FQ#
N
<;G@?K
6P$8#
H3C
CH3
N
H3C
CH3
H3C
N
CH3
N
N
o-C"!J12IR
&+*4D
NO+
7%J1
H3C
O
CH3
H3C
N
CH3
N
-H
H
N
O
なお、ジアゾカップリング(p.387)も同様に考えると理解できる。
N O
H3C
OH
CH3
H 3C
N
CH3
H 3C
N
H3C
CH3
N
N
N
N
N
N
CH3
N
H
N
4-(N,N-dimethylamino)azobenzene
3 ) 芳香族ジ
ジアゾニウム塩の反応
1級の芳香族アミンから導かれた芳香族ジアゾニウム塩は色々な反応をする。ジアゾニウム自体が安定な
有機化合物ではないため、反応温度が高いと分解し、水と反応してフェノール体を生じる。
Sandmeyer 反応とよばれる Cl, Br, CN の置換反応では銅塩の存在が必須である。これは、Sandmeyer
反応において、銅が SET プロセス(ラジカル反応経由)を起こす原動力となり、酸化̶還元機構で反応は進
行するためである。一方、I などの求核性が高い試薬では、銅塩なしでも反応が進行する。
さらに、次亜リン酸のような強力な還元剤は、炭化水素への還元を可能にする。
N
HCl
CuCl
HBr
CuBr
NaI
X
N
X HSO4, Cl
KCN
CuCN
H2O
H3PO2
()
Cl
Br
I
CN
OH
H
Sandmeyer 反応の反応機構を次に示す。
(II)
Cu X
e-
Y
N
N
X = Cl, Br
N
SET
Y
N
1電子の動き
(I)
Cu X
(II)
X
Cu Y
Cuの反応
Cu Y
SET = single electoron transfer
X
+
N N
radical
Sandmeyer 反応におけるSET プロセス
次亜リン酸によるジアゾニウム塩の還元反応も同様に SET プロセスで進行すると考えられている。
OH
H P
OH
e-
Y
N
N
SET
N
Y
N
(I)
1電子の動き
OH
H P
次亜リン酸の反応
OH
OH
H
P Y
OH
SET = single electoron transfer
H
+
OH
N N
Y P
radical
OH
還元反応におけるSET プロセス