事例に学ぶ人間関係のトラブル 第 19 回 職場の`におい`への接し方 建設

事例に学ぶ人間関係のトラブル
第 19 回
職場の‘におい’への接し方
建設会社人事部に勤務する植木栄子さん(仮名、30 代)は難題に頭を抱えている。設計
課の三好由美さん(仮名、20 代)から「話を聞いて欲しい」と声をかけられたのは昨日の
昼休みのこと。同じ職場の山下和郎さん(仮名、30 代)の“体臭”が気になって仕事にな
らない、と訴えられたのだ。山下さんはマイペースなおっとりタイプ。勤務態度は真面目
で、対人関係のトラブルを起こす人ではない。山下さんへの苦情は、実は初めてではなか
った。昨年も別の女性社員から、
「席が近いので離してもらいたい」と相談された。その時、
植木さんは山下さんの直属上司である課長の松野久さん(仮名、40 代)に相談し、対処を
依頼したのだが…。松野課長は他の社員の面前で「おい、ちゃんと風呂入ってんのか?!」
と軽口混じりに声をかけたらしい。山下さんは非常にバツが悪そうに、「入っていますよ」
と答え、以来、山下さんは業務以外で松野さんとの関わりを避けるようになった。
誠意をもって慎重に対処を
最近、ドラッグストア店頭で目にする数々の“消臭(デオドラント)剤”は、私たちの
体から発せられる“臭い”に関するトラブルの増加を雄弁に物語っています。職場で問題
となった際、いったい誰が、いつ、どのように対処し、解決するのか?
これは非常にデ
リケートで厄介な問題です。そもそも、体臭にせよ口臭にせよ、松野さんがハラスメント
の垣根を越え、強行介入しようとしたような、個人の衛生管理上の問題なのか、それとも
健康上の問題が潜んでいるのか、あるいは体質によるものなのか、原因によって対応策も
異なります。いずれにせよ、人格を傷つけ、損なう対応は厳禁です。まずは、同性の近し
い先輩や上司からざっくばらんに話をしてみるのが第一歩でしょう。人間関係が円滑でな
いなどの背景があれば、さらに解決は難しくなり、時に“人権問題”にまで発展してしま
います。当事者を排除しようとする過剰反応を引き起こさぬよう、心しなければなりませ
ん。
事例に学ぶ人間関係のトラブル
第 20 回
職場の「身内」への接し方
「いやぁ、助かるよ、ありがとう」
。受話器に向かって柔和な口調で応対しているのは、建
設会社営業課長の立川功さん(仮名、40 代)だ。電話先の総務部はじめ、客先はもとより
部署外での立川課長の評判は“人当たりが良く、周囲に気配りできる人”と上々だ。「とん
でもない!」と課員の美濃部恭子さん(仮名、30 代)は胸の内で激しく抗弁する。つい先
ほども「これ、午前中にまとめといて」の鶴の一声とともに、美濃部さんの机の上に分厚
い資料を置いて行ったばかり。課内での立川課長の評価は、“ジコチューで、キレたら手が
つけられない人”と、外部でのそれとはまるで正反対だ。ある日、いつものように立川課
長が課員を集め「数字を上げられないヤツは覚悟しとけよ!」と弁慶の長刀を振っている
ところへたまたま出くわした同期入社の人事部矢部道夫さん(仮名、40 代)。「どうなって
んだ?」と驚き、立川さんを食事に誘い出して話を聞いた。
内弁慶になっていませんか?
コミュニケーションのとり方と相手との関係性との間には密接なつながりがあります。
“内
弁慶の外猫”という諺が示すように、親しさ(心理的距離感の近さ)が増すにつれ、相手
への気遣いや緊張感が減り、本音が表に出てきてしまうことはよくあることです。たとえ
ば家族など身内に対し、「当たり前」、「言わなくても伝わる」との理由で、「ありがとう」
という感謝の言葉を省略することはめずらしくないでしょう。職場組織においても、
「身内」
に当たる部署内の人間と部署外の人間とを区別し、必要以上に「身内」に厳しく接する人
がいます。「きちんと指導しなくては」との責任感から発する態度・言動とも考えられます
が、実は「身内」への甘えが根底に潜んでいます。立川さんも矢部さんに対し、
「つい、
『部
下には何を言っても大丈夫』と思ってしまう」と内心を吐露しています。身近に接する人
たちをまず大切にする、すなわち、適度な緊張感を保つことを忘れてはなりません。