馬の結腸右背方変位あるいは180 捻転における 大腸腸間膜血管を指標

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文 献 紹 介
馬の結腸右背方変位あるいは180 捻転における
大腸腸間膜血管を指標とした超音波検査
Ultrasonographic visualization of colonic mesenteric vasculature as an indictor of
large colon right dorsal displacement or 180°
volvulus (or both) in horses
Shally Anne L. Ness, Fairfield T . Bain, Alanna J. Zantingh,
Earl M. Gaughan, Melinda R. Story, Daryl V. Nydam, Thomas J. Dvers
Can. Vet. J. 2012; 53; 378-382
追分ファーム 佐藤大介
緒論
行ったすべての馬の症例を記録した。すべての馬は
馬の疝痛における腹部超音波検査は、多くの馬診
様々な程度と期間の疝痛症状を示し来院した。超音
療施設で日常的に行われている。超音波を用いた結
波検査は一般的な検査機械を用いた。画像描出の改
腸左背方変位の診断は多くの報告があり、結腸壁
善として、イソプロピルアルコールを被毛に塗布し、
肥厚を超音波検査で測定することで、術前に結腸捻
また必要に応じて被毛を刈った。
転を診断することができる。さらに、腹部腹側の超
検査は頭と尾側、左と右側、胸腔と腹腔にすべて
音波検査によって結腸左背方変位と結腸捻転の鑑別
の症例で同様に行った。大結腸壁は半曲状、高エ
診断をすることができるが、著者の知識の限りで
コーであり、腸管内はガスが描出されることから判
は、結腸右背方変位の超音波検査に関連して記述さ
断した。腹側結腸は特徴的な嚢状構造により特定し
れたものはない。結腸変位と捻転は、馬における疝
た。結腸腸間膜血管は右腹壁において、第12から17
痛の一般的な原因の一つであるにも関わらず、結腸
肋間で脊柱に直角にプローブを置き、肋骨肋軟骨結
疾患の正確な術前診断は確実ではない事が多い。正
合付近を水平方向に沿って走行し、直接結腸壁に隣
常な馬の結腸腸間膜の脈管構造は結腸の中間を走行
接した2つ以上の低エコーのある循環構造として定
し、超音波検査では明らかであってはいけない。も
義を行った。検査不能な疼痛を示しているものや気
し結腸の中間面が横になるように結腸変位がおこる
性が荒い馬については検査対象から除外した。また
か、軸捻転が起こっている場合、これらの脈管は腹
疾患が消化管に限局していない検体についても検査
壁を介して超音波で描写することができる。本研究
から除外した。
の目的は、結腸右背方変位や結腸捻転あるいは両方
超音波検査結果は、従来の方法による開腹手術の
において結腸腸間膜脈管構造を超音波検査で描出し、
結果と比較による確定診断を行い、統計分析を行った。
その診断的意義について検討を行うことである。
結果
材料と方法
82頭の馬が本研究の対象基準に当てはまった。外
Littleton Equine Medical Centerにおいて2008年7
科的診断では、右背方変位
(n=23)
、左背方変位
月から2009年6月の間で疝痛のため試験的開腹術を
(n=11)
、180°
結腸捻転
(n=11)
、360°
結腸捻転
(n=12)
、
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馬の科学 vol.51(4)2014
720°結腸捻転
(n=1)
、小腸通過障害
(絞扼、物理的
変位と閉塞の程度によって、静脈に影響がある時
障害、捻転を含む)
(n=24)として診断された。超
とない時があることも調査によりわかった。
音波検査によって結腸間膜の脈管は、82症例中24
結腸の中間面が腹壁に対するように結腸が変位捻
症例で右側腹部において特定された。それら24症
転すると脈管は超音波検査によって描出される。し
例のうち、右背方変位
(n=16)
、180°
結腸捻転
(n=7)
、
かし盲腸の脈管構造は通常の馬の腹部において超音
360°
結腸捻転
(n=1)
として診断された。脈管の直径
波検査で描出されるため、注意する必要がある。
測定やドップラーは症例によっては実行されたが、
結腸の脈管を認めた症例中1症例で360°
結腸捻転
データが不十分なため報告は控える。
と外科的診断をした。理論的には360°
捻転した上で
超音波診断において脈管が確認される馬の100%
脈管が腹壁に対していなければならないことから、ど
が結腸に限局した病変を認めた。この脈管は、結腸
こか特定の場所にある脈管が描出されたか、超音波
左背方変位や小腸障害で認められることはなかった。
検査と外科手術までの間に動いたことが考えられる。
右背方変位、180°
結腸捻転では腸間膜における脈
本研究では結腸腸間膜脈管構造の描出は、結腸
管の所見が有意にみられた。
右背方変位と180°
結腸捻転を区別しないで、どちら
右背方変位あるいは180°
結腸捻転時における超音波
か一方の障害が存在したという高い可能性を示した。
検査での脈管を指標とした診断の感度は67.7%、特
90°から270°間の結腸捻転は通常非絞扼的と考えら
異度は97.9%、陽性的中率は95.8%、陰性的中率は
れており、右背方変位と非常に類似した徴候を伴う
81%であった。
と考えられる。
疝痛を起こした馬で超音波検査時に結腸の脈管が
考察
描出された場合、右背方変位や結腸捻転が95%の症
試験的開腹術を用いた本研究では、結腸右背方変
例で現れる可能性を示す。しかし、結腸の右背方変
位、捻転あるいは両方における診断の指標として、
位、捻転に陥っている馬のおよそ19%が結腸間膜の
超音波検査によって結腸腸間膜脈管構造を描出し指
脈管を腹部の超音波で表示することができないこと
標とすることは、感度、特異度ともに高いという結
を、81%の陰性予測値から示す事ができる。
果が得られた。結腸右背方変位や180°
結腸捻転にお
先述した方法は疝痛を呈している馬に対し、迅速
けるこの脈管のエコー像は結腸や腸間膜脈管の解剖
でより正確な診断を容易にするために、ルーチンの
学的にも矛盾はない。
診断評価に用いる事ができる。