Y 字状の会陰切開により摘出した犬の膣背側管腔外に発生した巨大平滑

Y 字状の会陰切開により摘出した犬の膣背側管腔外に発生した巨大平滑筋腫の 2 例
○下田有希 石川勇一 福島広子 勝山寛子 平林美幸 森田潤 上嶋飛鳥
庄山俊宏 鵜飼
正保 姉川敬史 林宝謙治
埼玉動物医療センター
【はじめに】膣腫瘤のうち管腔内に発生するものは有茎状のものが多く、通常は会陰アプローチ
にて比較的切除が容易である。しかし、膣の部分あるいは全摘出が適応となる場合もある。腫瘤
が頭側に存在し、会陰部アプローチで摘出困難な場合には腹腔アプローチにて恥骨骨切り術など
が必要となることもある。膣背側の腫瘤に対しての術式を検討した文献や成書における記載は少
ない。
【症例】症例⒈ラブラドール・レトリバー、未避妊雌、13 歳 11 ヵ月齢、体重 22.1 ㎏。肛門直下
に腫瘤があり、排便困難があるとの主訴で来院した。直腸・膣触診では膣の背側、直腸との間に
巨大な腫瘤が触知された。CT 検査では 6.9×8.2×12.3 ㎝大の腫瘤が膣外側に存在し、頭尾側方
向に増大していた。頭側は恥骨周囲まで伸びており、腫瘤による直腸圧迫所見も認められた。同
時に行った組織生検で平滑筋腫と診断した。
症例⒉ミニチュアダックスフント、未避妊雌、13 歳 5 ヵ月齢、体重 3.2 ㎏、ワクチンで来院し
た際に 3 ヵ月前から便の扁平化と排便困難があるとの稟告があった。直腸・膣触診では直腸と膣
の間に腫瘤を認めた。CT 検査で 4.7×8.6×4.6 ㎝大の腫瘤が膣背側の頭尾側方向に伸びており、
頭側は恥骨結節を超えて増大、直腸の圧迫所見を認めた。同時に行った組織生検で平滑筋腫と診
断した。
【術式及び術後経過】最初に子宮卵巣摘出術を行った。腫瘤は腹腔内より触知可能であったが、
骨盤切開等を行わなければ腹腔内からはアプローチ困難であった。その後体位を伏臥位とし会陰
部アプローチにて腫瘤の摘出を行った。会陰部の正中切開を行った後、尿道口を確認しカテーテ
ルを挿入して尿路を確保した。腫瘤は膣内腔への浸潤を認めず、膣背側の筋層に強固に固着し、
管腔外の頭背側方向へ増大していた。膣との固着は重度であったが、周囲組織との固着は認めら
れず剥離は容易であった。腫瘤が巨大であり会陰部の正中切開のみでは頭側の分離が困難であっ
たため、正中切開から肛門の左右側方へ切開を拡大し Y 字状の切開とした。腫瘤は固着している
膣壁とともにに切除し摘出した。病理組織学的検査の結果は両症例とも膣平滑筋腫であった。術
後 5 ヶ月を経過しても再発・転移の徴候はないが、術後に両側の会陰反射消失がみられ、症例 2
においては 5 ヵ月経過した後も回復の傾向はない。
【考察】両症例ともに膣の管腔外に発生した巨大な平滑筋腫であり、腫瘤頭側が恥骨結節周辺ま
で増大していた。摘出方法としては会陰切開もしくは腹側からの骨盤切開によるアプローチを検
討したが、腫瘤の大きさとして骨盤切開では摘出が困難ではないかと思われた。術式は会陰から
のアプローチを選択し、Y 字切開を加えることで通常の会陰部の正中切開のみでは困難な頭側部
分へのアプローチが可能となった。しかし、両症例とも術後から肛門反射の消失がみられ、その
後も改善はみられていない。この原因としては Y 字に切開を加えた際に会陰反射に関連する陰部
神経や肛門括約筋への分布する血管の損傷などの可能性が考えられた。