PDFファイル

B 系、C 系超伝導体の第一原理電子状態計算
○小林一昭 1 、新井正男 1 、山本一雄 2
1
1
物質・材料研究機構 計算材料科学研究センター、つくば市 並木1ー1
2 神奈川工科大学 一般科、厚木市 下荻野1030
-
はじめに
電子状態計算で直接扱うことは不可能である。電子
格子系全体として超伝導を第一原理的に扱おうとす
。
るアプローチは存在する
[40, 41]
2001 年初頭永松等が 発見し た 超伝導物質
MgB2 [1] を皮切りにして、炭素、ホウ素からなる化
3
合物の超伝導の発見、或いは超伝導の可能性が続々
と報告されている。以下にいくつか挙げてみる。順
番には特に意味はない。また、全ての報告を網羅し
ている訳でないことをご 承知願いたい。
これまでの計算結果
LiBC [2], これまで筆者が扱った、B 系、C 系の化合物の計
AgB2 [3, 4, 5], BC3 [6, 7, 8, 9], Y2C3 [10, 11, 算結果に関しての詳細は、対応する各文献(1節参
12], C8K [13, 14], CaC6 [15], YbC6 [15, 16, 17], 照)を参照されたい。
LiB12 [18], B12 C3 [19], La2 C3 [20], B を高濃度で 本講演では 、最も 最 近扱った仮想物質 C6B2(
ド ープしたダイヤモンド [21, 22, 23]( ←実験のみ一 Na3 As 構造)の計算結果に主眼を置いて話を進めて
行く。本物質は、グラファイト(半金属)に類似する
部)などなど多数存在する。
筆者がこれまで扱った系は 、MgB2 [24, 25, 26] 、 六方晶層状物質で、ボロン( 価電子数3)の存在に
LiBC とその関連物質 [27, 28, 29]。仮想的なものと より電子状態は金属的となっている。 結晶構造上の
して h-MgB [29] 、C6 B2 [30] がある。当初は、超伝導 類似性もあり本物質のバンド 構造は、グラファイト
物質 MgB2 発見に際し、超伝導に絡んだ研究(Γ点の 及び先に紹介した超伝導物質である MgB2 との類似
みながら、格子振動数の計算などを行なった [24, 25] ) 性が高い。因みに、グラファイトと C6 B2 は同じ結晶
もあったが、その後、異方的圧縮による格子定数の 対称性 (P63 /mmc) を持つ。MgB2 は、P6/mmm で
異常に興味が移って行った。その間に秋光グループ ある。特に、C6 B2 はバンド 構造において、Γ-A 線
と議論する機会を得(2002年2月)、再び超伝導 上のフェルミレベル近傍に非占有な平坦バンドを持
絡みの物質について計算を行なうこととなった。ま つ。これは MgB2 のΓ-A 線上の非占有バンドに良く
とまった計算結果を出すまでに少々時間がかかった 似ている。
本物質は、炭素-炭素層と炭素-ホウ素層からなる層
が 、この秋光グループとの議論の産物としてここで
状構造を持ち、炭素-ホウ素層上の原子を変位させる
扱う化合物が C6 B2( 仮想物質)である。
と、先に述べたΓ-A 線上の非占有バンドが分裂する。
この状況は MgB2 のものと同様である [42, 43, 44] 。
一方、炭素-炭素層の原子を変位させると、占有され
2 計算手法
ここで扱う電子状態計算(バンド 計算)手法は、
+平面波基底に
ノルム保存型擬ポテンシャル
よる第一原理分子動力学手法(広い意味での カー・
)である。この手法は電子状態(電
パリネロ法
子構造と同義)を計算する部分と、古典的な分子動
力学部分とからなり、系の電子状態とその安定構造
を効率良く求めることが出来る。
但し、電子状態計算遂行のためには、いくつかの前
提(近似)が存在する。電子状態の計算は、密度汎関
+局所密度近似
数法
による。密度汎関数法が扱えるのは基底状態のみで
あり、これは温度が絶対零度であることを意味する。
また、一体近似が用いられるため多体の相互作用は
全て一体の有効ポテンシャルに押し込めて扱われる。
一体近似が大前提であるため、超伝導現象を通常の
[31, 32]
" [33]
[34, 35]
"
(LDA) [36, 37, 38, 39]
1
たバンドが分裂する。原子の変位とそれによる全エ
ネルギーの変化には、非線形性が存在することも判明
している。但し 、その非線形性は
2 と比べ弱い。
本仮想物質の安定性であるが、他の物質(
3構
造、1節参照)との比較や、凝集エネルギー(
)は、いずれも本物質が不安定であることを示し
ている。従って本物質の合成は困難であると考えら
れる。但し 、本構造そのものは準安定なものとして
存在することは可能である。
MgB
eV
4
BC
3.56
まとめと謝辞
第一 原理分 子動力 学手法を 使って 、これ まで
MgB2 、LiBC、C6B2(仮想物質)及び関連物質の電
子状態等の計算を行なってきた。現在、研究上不足
[19] M. Calandra, N. Vast and F. Mauri, Phys.
Rev. B69 (2004) 224505.
[20] X. Wang, et al., cond-mat/0503597.
[21] E. A. Ekimov, et al., Nature 428 (2004) 542.
[22] Y. Takano, et al., Appl. Phys. Lett. 85 (2004)
2851.
[23] H. Umezawa, et al., cond-mat/0503303.
[24] K. Kobayashi, K. Yamamoto, J. Phys. Soc.
Jpn. 70 (2001) 1861.
[25] K. Kobayashi, K. Yamamoto, J. Phys. Soc.
Jpn. 71 (2002) 397.
[26] K. Kobayashi, M. Arai, K. Yamamoto, J.
Phys. Soc. Jpn. 72 (2003) 2886.
[27] K. Kobayashi, M. Arai, J. Phys. Soc. Jpn. 72
(2003) 217.
[28] K. Kobayashi, M. Arai, T. Sasaki, Trans.
MRS-j. 29 (2004) 3799.
[29] K. Kobayashi, M. Arai, Mater. Trans., Vol.
45, No. 5 (2004) 1465.
[30] K. Kobayashi, Y. Zenitani and J. Akimitsu,
to be published in Physica C.
[31] N. Troullier, J. L. Martins, Phys. Rev. B43
(1991) 1993.
[32] K. Kobayashi, Mater. Trans., Vol. 42, No. 11
(2001) 2153.
[33] R. Car and M. Parrinello: Phys. Rev. Lett.
55 (1985) 2471.
[34] P. Hohenberg, W. Kohn, Phys. Rev. 136
(1964) B864.
[35] W. Kohn, L. J. Sham, Phys. Rev. 140 (1965)
A1133.
[36] E. Wigner, Phys. Rev. 46 (1934) 1002.
[37] U. von Barth, L. Hedin, J. Phys. C5 (1972)
1629.
[38] J. Perdew, A. Zunger, Phys. Rev. B23 (1981)
5048.
[39] D. M. Ceperley, B. J. Alder, Phys. Rev. Lett.
45 (1980) 566.
[40] M. Luders, et al., cond-mat/0408685.
[41] M. A. L. Marques, et al., cond-mat/0408686.
[42] J. M. An, W. E. Pickett, Phys. Rev. Lett. 86
(2001) 4366.
[43] T. Yildirim, et al., Phys. Rev. Lett. 87 (2001)
37001.
[44] L. Boeri, G. B. Bachelet, E. Cappelluti, L.
Pietronero, Phys. Rev. B65 (2002) 214501.
している情報として、格子ダ イナミックス( 格子振
動、フォノン )に関してのもので 、超伝導を語る上
では必要不可欠なものである。現在、これの実現に
向けた努力を行なっている。
最後に 6 2 に関しては、青山学院大学の秋光先
生及び秋光グループとの議論が発端である。ここに
深く感謝したい。尚、今回の計算結果等は、主に
及び
(材料数値シミュレー
タ)によって得られたものである。
CB
GS140
HITACHI SR11000
HP
References
[1] J. Nagamatsu, N. Nakagawa, T. Muranaka,
Y. Zenitani, J. Akimitsu, Nature 410 (2001)
63.
[2] H. Rosner, A. Kitaigorodsky, W. E. Pickett,
Phys. Rev. Lett. 88 (2002) 127001.
[3] R. Tomita, H. Koga, T. Uchiyama and I.
Iguchi, J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004) 2639.
[4] S. K. Kwon, S. J. Youn, K. S. Kim and B. I.
Min, cond-mat/0106483.
[5] I. R. Shein, N. I. Medvedeva and A. L. Ivanovskii, cond-mat/0412426.
[6] D. Tomanek, R. M. Wentzcovitch, S. G.
Louie, M. L. Cohen, Phys. Rev. B37 (1988)
3134.
[7] H. Sun, et al., Phys. Rev. B69 (2004) 024110.
[8] F. J. Ribeiro, M. L. Cohen, Phys. Rev. B69
(2004) 212507.
[9] H. Yanagisawa, et al., Phys. Rev. Lett. 93
(2004) 177003.
[10] G. Amano, et al., J. Phys. Soc. Jpn. 73 (2004)
530.
[11] I. R. Shein and A. L. Ivanovskii, condmat/0312391.
[12] D. J. Singh and I. I. Mazin, Phys. Rev. B70
(2004) 052504.
[13] N. B. Hannay, et al., Phys. Rev. Lett., 14
(1965) 225.
[14] Y. Koike, H. Suematsu, K. Higuchi and S.
Tanuma, Physica B+C, 99 (1980) 503.
[15] T. E. Weller, et al., cond-mat/0503570.
[16] G. Csanyi, et al., cond-mat/0503569.
[17] I. I. Mazin and S. L. Molodtsov, condmat/0503650.
[18] S. Gunji and H. Kamimura, Phys. Rev. B54
(1996) 13665.
2