公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明国に，速やかにＩＬＯ第９４号条約を批准すること及び公契約法の制定することを求めるとともに，全国の地方公共団体に，速やかに公契約条例を制定することを求める。１２３公契約とは，国・地方自治体等が行政目的を遂行するために民間企業や民間団体と締結する契約であり，国，地方自治体が発注する建設工事や公共施設の清掃等の業務委託を行う公共サービス事業が含まれる。こうした国や地方自治体が公共工事や公共サービスなどを民間に発注・委託する公契約の多くは，予定価格の内で最も安い金額で入札した者が落札する入札制度で受注者が決められている。しかし，この制度に何の規制も加えられなければ，落札のために事業者は低価格での入札を行い，落札後は利益を出すために，その労働者の賃金や下請け業者に対する請負代金を徹底的に切り下げ，その結果，公共サービスの低下と非正規労働者を典型とする低賃金労働者を生み出してしまうことになる。このような事態を避けるため，公契約・公契約条例によって，公契約の条項に，当該公契約による事業に従事する労働者の賃金等の労働条件の最低基準を定める「労働条項」を盛り込み，適正な労働条件を確保する必要がある。国際的な動きとしては，１９４９年には， ILO 総会において，「公契約における労働条項に関する条約（第９４号）」が採択された。上記 ILO 第９４号条約は，公契約における労働条件の相場水準を確保することを定めたものであって，約６０カ国がこれを批准し，それらの国々では公契約規制が勧められている。日本においては，採択同条約採択の翌年である１９５０年には，同条約批准のための国内の法整備に向けて，「國等の契約における労働條項に関する法律案」が当時の労働省により作成されたものの，上記法律案は，当時の経済界からの強い反発に会い，ついに国会に提出されることはなかった。その後も，日本政府は，ILO 第９４号条約を批准せず，公契約法案が国会に提出されることなく現在に至っている。その結果，ワーキングプアの拡大及び公共サービスの質の低下が大きな社会問題となりつつある現状がある。他方で，地方自治体レベルでは，近年公契約条例制定の動きが急速に高まってきている。２００９年に野田市が公契約条例を制定し，さらに２０１０年及び２０１１年の改正を経て，清掃業務についての労働者の時給が約１００円上昇し，「官製ワーキングプア」解消に向けての確実な効果を上げている。また２０１０年には，川崎市が契約条例を大幅に改正して，政令指定都市としては初めて公契約条例を設けた。川崎市契約条例は，その適用対象となる労働者にいわゆる「１人親方」も含め，指定出資法人やＰＦＩ事業者についても条例に準じた措置をとる努力義務を設けるなど，適正な賃金の確保をより広範な契約に求めようとしている点が特徴的である。この他にも２０１１年１２月の定例会には，複数の市で市議会に条例案が上程されており，地方自治体における公契約条例制定の動きは着実に進んでいる。４もっとも，地方公共団体が公契約条例を制定するだけでは，問題の抜本的な解決を図ることはできない。国や，公契約条例が制定されていない地方公共団体が一方当事者となる公契約を対象とするためにも，国において，ILO 第９４号条約を批准して，公契約法を制定することにより，積極的に公契約における適正な労働条件の確保に努め，官製ワーキングプアの増大に歯止めをかけるとともに，質の高い公共サービスを提供できる環境を整えなければならない。５当会は，労働者の適正な労働条件確保及び国民に対する適正な公共サービスの確保のため，国に速やかにＩＬＯ第９４号条約を批准すること及び公契約法を制定することを求めるとともに，全国の地方公共団体に，速やかに公契約条例を制定することを求める。２０１２年（平成２４年）１１月２８日大分県弁護士会会長鈴木宗嚴