心の闇を打ち砕くもの 情 98-0143 北 尚子 指導教員 加藤 雅人

情 98-143 北
尚子
2001年度
卒業研究
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心の闇を打ち砕くもの
情 98-0143 北 尚子
指導教員 加藤 雅人
1.作品について
卒業研究として、私は「闇に向かう心をことばによって打ち砕き、狂ってしまった世界を治
めるという意味を込めて二次元画像の作品を制作した。この作品は全て Adobe Photoshop6.0 と
Adobe Illustrator8.0 及び 9.0 で作っている。背景に散りばめられたようになっているのは、デジ
タルカメラ(SONY DSC-T50)で撮影したある日の大阪市の夕陽の写真である。これは夕陽=
昼から夜(闇)への変わり目、ということで「闇に向かう心」を表そうとした。それを覆うよ
うにある黒い塗りは何重にも重ねて貼り付けた文字の影で、菅原道真の漢詩である『菅家文章
巻 2』『菅家後集 514』と、
『今昔物語集 巻 24』の内容から取っている。
『今昔物語集
巻 24』
というのは安部晴明の話で、彼は菅原道真の怨霊を調伏したともいわれている人物である。こ
れらの文章を一節ずつそれぞれ 60 ポイント∼130 ポイントにしてランダムに配置することによ
って「闇に向かう心」を覆い、それを打ち砕くイメージを出そうとした。
さらに鳳凰と雲を使ったのは以下の理由による。まず、鳳凰について。架空の鳥・鳳凰は瑞
祥文(中国古代より言い伝えられエネルギーの高いめでたい柄文様で、めでたいしるし・魔除
け・厄除けなどに使用された)の図柄で、中国の伝説によれば、古来より天下が治まる時に現
れる瑞鳥であるとされている。雄の鳳は陽の象徴で、太陽に属する火の鳥である。雌の凰は陰
の象徴で月に属する鳥である。このように鳳凰は二つの世界の分かちがたい平和の関係を示す
ものの象徴になっている。次に、雲について。中国では神仙住む山奥の巨岩り涌き出る雲を「雲
気」と呼び瑞祥に使われていた。加えて雲文を吉祥文と組み合わせるということは「気運がみ
なぎるところ雲気が動く」という中国古文による思想から来たもので、よく使われる組み合わ
せであった。このことから鳳凰と雲文を使うことにした。
2.作品の着想に到ったきっかけ及び時代背景について
古代には祟りとして社会を震撼させた感情が、現代ではキレルという形をとって社会に猛威
を振るっている。いつどこでキレルとも知れない感情を、鎮魂し調伏するのは容易なことでは
ない。にもかかわらず、現代社会はそのことに関して、あまりにも無頓着なように思われる。
古代が国家を挙げ、陰陽師や神官、法師に託してなしていた祭祀は決して荒唐無稽なことでは
ない。人々の心の鎮魂にそれは有効に作用したのだ。
平安時代、人々を大きく悩ませていたのは怨霊や鬼といった「物の怪」だった。古代日本人
が、いかに憤怒や怨恨の感情を恐れたかは、多くの文献からも容易に推察できる。例えば菅原
道真がその一人である。彼が左遷先の大宰府で死んだ後、様々な災厄が京の都を襲い、人々は
それを道真の「たたり」ではないかと考えるようになった話などは有名である。人々は何とか
してこの怨霊を鎮めようと、左遷を命じた証書を破棄し、正一位右陣大臣の位を贈り、重ねて
太政大臣の位を贈った。
これによって道真は死後にして人臣として最高の位に就いたわけだが、
ここから、一人の人間の感情を害した代価の大きさ、あるいは加害した人間が自らの心を鎮め
るために支払わねばならないものの大きさが理解できる。
このように古代では、自らが加害した人や物を、誇大ともいえる怨霊や物の怪あるいは鬼
として実体化し、認識し、調伏することに懸命となった。ところが現代では、対人間、対自然、
対物への心の関係性が鈍ってきているようだ。その一番の原因としては、唯物的な科学の発達
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が挙げられるのではないかと思う。
科学は心を個々の人間の大きさにまで極小化してしまった。
心の闇とは底の浅くて簡単に照明の当てられるものだと勘違いしたのだ。しかし一個人の心の
闇に蠢くものが憤怒や怨恨の色を帯びた時、
それは時に超個人的な怪物と化すことがあるのだ。
科学は心を把握したのではなく、個人化し非擬人化することによって心の闇に対する視力を完
全に失ってしまった。さらに情報化社会が、それに追い打ちをかけるように、人間を知られき
ったものとするのに一役買っている。だが、ごく平均的な一個人の心ですら、恐るべき魔とな
る可能性を秘めた存在であることを改めて認識すべきなのではないだろうか。
このような観点から私は平安時代を舞台に「ひとの心」について表現することにした。また
その心が闇に向かうとき、科学ではなく、私達が普段使っていて最も影響力をもっていると思
われる「ことば」によってそれを食いとめることは出来ないかと考えた。最終的には「闇に向
かう心をことばによって打ち砕き、狂ってしまった世界を治める」という意味を表す作品とし
た。
参考文献
『新編日本古典文学全集 37 今昔物語集 3
巻第二十∼巻第二十六』小学館、2001 年
『安部晴明―謎の陰陽師と平安京の光と影』
「歴史群像シリーズ 65 号」学研、2001 年
『もっと知りたい!陰陽師』
「別冊宝島 613」宝島社、2001 年
岡野玲子『陰陽師 1∼10』白泉社、1999∼2001 年
夢枕獏『陰陽師』文春文庫、1991 年
『菅原道真研究』九州大谷短期大学国文学科情報司書コース電子出版ゼミ、2001 年 1 月 10 日
(http://www.kyushuotani.ac.jp/js/jkg/3/h8/michizane.html)
安部晴明神社、2001 年 1 月 10 日(http://kodansha.cplaza.ne.jp/abenoseimeijinja/)
陰陽師・安部晴明、2001 年 1 月 10 日(http://homepage1.nifty.com/haruakira/)
陰陽道、2001 年 1 月 10 日(http://www.bekkoame.ne.jp/~skydog/)
官制大観、2001 年 1 月 10 日(http://www.sol.dti.ne.jp/~hiromi/kansei)
きもの日本、2001 年 1 月 10 日(http://www.chikichi.co.jp/chikichi/japan/main_japan.html)
彩の国 わしみや博物館、2001 年 1 月 10 日(http://www.st.rim.or.jp/~s_haya/wskg005.html)
山陰亭、2001 年 1 月 10 日(http://www.michiza.net)
装束の知識と着方、2001 年 1 月 10 日(http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Icho/9019/)
神話の部屋、2001 年 1 月 10 日(http://isweb19.infoseek.co.jp/area/mthiba/sinnwa.htm)
日本の壁紙文様集、2001 年 1 月 10 日(http://page.freett.comnekokimi/index2.html)
日本の歴史、2001 年 1 月 10 日(http://www.kotobuki-p.co.jp/jrekisi/heian.htm)
広島県 県北の自然案内、2001 年 1 月 10 日(http://isweb19.infoseek.co.jp/area/mthiba/index.html)
平安王朝クラブ、2001 年 1 月 10 日(http://www2u.biglobe.ne.jp/~heian)
闇の日本史、2001 年 1 月 10 日(http://www4.justnet.ne.jp/~takeuchi_toshinori/granvia.htm)