平成27年度 奈良県立大学地域創造学部 社会人入学試験 小論文問題 次の文を読んで、以下の問 1 と問 2 に答えなさい。 問 なぜ古典を読むことを、おすすめするのか。ひとによって理由は異なるだろう。長く読み継 がれたものには、きっと価値がある。自分がどんなに先端であることを誇っても、系統樹の分 岐点のように、枝の分かれ目にまで遡らなければ、自分の位置すら分からない。あるいはその 分かれ目にこそ、新たな進化の道の可能性が秘められている、などだ。 私はといえば、古典と聞いてすぐ思い浮かべるのは、堀口大學の名訳で知られるギョーム・ アポリネールの「ミラボー橋」のリフレインだ。 「日も暮れよ、鐘も鳴れ 月日は流れ、わたしは残る」 歳月が流れ、過ぎた月日も、昔の恋も二度と蘇らない。それでもミラボー橋の下をセーヌは 流れる、という情景を歌った詩だ。 教養主義は、過去に範を求め、古きを尊崇する回顧趣味になりがちだ。その意味で、押しつ けがましい教養主義が影を潜めたことは嘆かわしいばかりとはいえない。だが、もともと古典 は、長い時間を経て読み継がれたことに価値があるのではない、とも思う。そうではなく、私 やあなたの人生を超えて、生き残るところにこそ、真価がある。そこには、自分の意識こそが 世界を形づくっているという唯識論を超えて、なお生き残る手堅い「存在」がある。その「存 在」は形態をもたず、目に見えず、しかし厳然としてそこに立ちはだかっている。そうやって 人から人へ、国境を越え、人種の別を越えて、ひっそりと引き継がれてきた世界だ。私には、 古典の一冊一冊が、「月日は流れ、わたしは残る」とささやきかけてくるように思える。 一言でいえば、古典は過去の叡智の結晶というだけではない。そこに埋まっているのは、同 時に、あなたが生きられない永続する未来だ。 (出典:外岡秀俊「日も暮れよ,鐘も鳴れ」『古典のすすめ』岩波文庫 2014 年、48‐49 頁) 問1 文中で筆者は古典について4つの考え方を示している。このうちどれが筆者の考えであ るかを注意しながら、4つの考え方について120字以上150字以内で答えなさい。 問2 あなたにとって古典とは、どのような意味を持つものですか。問1で確認したことがら を参考にして、500字以上600字以内で述べなさい。
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