運動タンパク質素子による原形質流動の自律的構築

公募研究A
03 運動タンパク質素子による原形質流動の自律的構築
運動タンパク質素子による原形質流動の自律的構築
い
とう
こう
じ
伊 藤 光 二
動物細胞と違い植物細胞の中では,原形質流動
と呼ばれている非常に速い流動がおきている。
植物細胞において原形質流動がおきている生理
的な理由として,動物と比べて細胞サイズが大き
い植物においては単純拡散だけに頼っては栄養
物や代謝物などを細胞内に行き渡らせることが
できないので,原形質流動による細胞内拡散が必
要であるため,と考えられている。では,原形質
流動はどのような機構によって起きるのであろ
なモデルとして,ミオシンとアクチン繊維および
うか?それについては,「分子モーターであるミ
小胞体の3つの分子マシナリーが相互作用する
オシンが小胞体などの大型のオルガネラを結合
結果,自律的にアクチン繊維が極性を揃えて配向
しながらアクチン繊維に沿って運動することに
し,運動超分子マシナリーである原形質流動装置
よって引き起こされている」ということはわかっ
が構築される説が有力となっている。本研究で
ている。しかし,ここで問題なのは,ミオシンが
は,植物細胞を模した空間的なパターンを施した
ランダムな方向に動いたら,異なった方向の流れ
基板に高等植物のシロイヌナズナのミオシンを
によって個々の流動は打ち消されるので原形質
結合させ,そこにシロイヌナズナのアクチン繊維
流動は起こり得ない。つまり,原形質流動が起き
を入れ,運動しているアクチン繊維間の側面相互
るためには方向性をもったミオシンの運動が必
作用によりアクチン繊維の配向と極性が自律的
要であり,アクチン繊維が極性を揃えて配向する
に 構 築 さ れ る 系(人 工 原 形 質 流 動)を つ く る。
必要がある。実際に植物細胞の細胞膜近傍では
様々な幅の人工原形質流動の溝,様々なシロイヌ
アクチン繊維が細胞膜に沿って配向し,その極性
ナズナのミオシン,アクチンを試し,さらにアク
もほぼそろっている。極性をもったアクチン繊
チン繊維の束化をおこない,これらにより極性を
維に沿ってミオシンが小胞体などの大型のオル
持った配向の起こりやすさがどのように違って
ガネラに結合しながら運動するので,原形質流動
くるかを解析することにより原形質流動機構の
が起きているのである
(図1)
。では,細胞膜に
最大の謎であるアクチン繊維の極性をもった配
沿ってアクチン繊維が一定の極性をもって配向
向の形成機構についての知見を得ることを目的
するのはどのような機構であろうか?その有力
とする。
研究のキーワード:ミオシン,アクチン,原形質流動,植物細胞
研究室HPのURL:h
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