特集 イノベーションへの挑戦 5 TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 血管内カテーテル治療において、 医療現場の課題を把握し、 いち早くソリューションを提供する 血管内カテーテル治療が心臓から末梢 (下肢等) 、 脳など全身に拡がる中、 患者さん の負担軽減、 治療効果の向上、 使いやすさの改善など、 医療現場における様々な課題 を的確に把握し、 いち早くソリューションを提供することが求められています。 このよ うなニーズに対応すべく、 テルモは先端医療技術をリードする米国の南カリフォルニ アを拠点に、 心臓・末梢血管カテーテル治療分野の開発力強化に取り組んでいます。 南カリフォルニアは、医療機器の開発経験を持つ人材が豊富に存在する、全米を 代表する医療機器産業のクラスター(集積地)になっています。ニューロバスキュ 頸動脈ステント ラー(脳血管)事業を担う子会社マイクロベンション,Inc.(以下、MV社) は、同地域 に本社を置いて脳動脈瘤治療用のコイルやステント等のスピードある開発を実現 し、年平均伸長率で2桁以上の高成長を続けてきました。 テルモグループでは、 MV社の開発力を脳血管以外の分野にも活用するため、 IS (カ テーテル) 事業部門との連携を推進しています。 2008年に米国で販売を開始した末梢 血管塞栓用コイルをはじめとして、 2014年には、 頸動脈狭窄の治療に使用される頸動 脈ステント、 2015年には肝臓がんの治療法の一つである肝動脈化学塞栓術に使われ る薬剤搭載可能型ビーズを開発し、 欧州で発売するなど、 高い実績を上げてきました。 これらの実績を踏まえ、 このたびIS事業では、MV社の開発力を活用した新製品 薬剤搭載可能型ビーズ の開発、導入を加速すべく、南カリフォルニア・アリソビエホ市のMV社の新社屋 (2017年竣工予定)内に、 トレーニング機能も併せ持つ開発拠点の新設を決定しま した。IS事業のグローバルなマーケティング・販売部門との連携を一層強化するこ とで、医療現場の課題の把握から、開発、生産、 マーケティング、販売に至るバリュー チェーン全体を強化し、事業開発プロセス全体の競争力強化を図ります。今後は、 末梢血管用の薬剤コート型バルーンカテーテルなど、 ペリフェラル (末梢血管) の治 療系製品のラインアップを拡大し、市場導入を強力に推し進める計画です。 これら の取り組みを通じて、世界最大の医療機器市場である米国におけるさらなる事業拡 大を目指します。 マイクロベンション,Inc. 新社屋(完成予想図) 医療従事者からの声 テルモが開発した二層のマイクロメッシュステントシステム 「Roadsaver」 は、 頸動脈狭窄における手技に新たな変化をもたらし たと思います。 これまで私たちの医療機関で 「Roadsaver」 を用いた 手技を行ってきましたが、 難しい血管走行における到達性や血管壁 への追従性、 血栓塞栓の原因となるプラークのカバレッジに問題とな る症例は認められませんでした。 今後の施術でも良好な結果が続き、 頸動脈ステントの中で第一の選択肢となることを期待しています。 Dr. Arne Gerhard SCHWINDT Senior Vascular Surgeon, Endovascular Specialist Department for Vascular Surgery St. Franziskus-Hospital Germany TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 6 特集 イノベーションへの挑戦 7 TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 糖尿病の患者さんの 身体的・精神的な負担の軽減を 目指して 糖尿病の患者さんの中には、一日数回、 インスリン製剤の自己注射が必要な方が います。 その数は全国で約100万人と言われています。 しかし、注射に伴う痛みや針 への恐怖によって、治療への抵抗感を持つ患者さんも多いのが現状です。 テルモは、 「患者さんの痛みを低減することで、治療への抵抗感を少なくし、治療 を開始しやすく、 また継続にも貢献したい」、 「自己注射により抵抗感のある小児の 患者さんにも、安心してご使用いただきたい」 という思いから2005年、先端径0.2 ミリの世界で最も細いペン型注入器用注射針「ナノパスニードル(ナノパス33)」の 製品化に成功しました。開発の過程では、従来の注射針の生産方法とは異なる多く の困難なハードルに直面しましたが、 プレス加工で高い技術力を持つ岡野工業株式 会社の協力や、異分野技術の導入など新たに設計・生産技術を見直すことで、製品 ペン型注入器用注射針 「ナノパスニードルⅡ」 化を実現しました。 一般的に針の直径を細くすると薬液が流れにくくなってしまいますが、 ナノパス は流体力学に基づいた外径・内径共にテーパー形状である世界初のダブルテー パー構造を採用することで、薬液注入の際に必要な力を抑えています。 さらに、非対 称の刃面構造を採用し、皮膚に突き刺すのではなく、刃先で小さく切るようにする ダブルテーパー構造 外径も内径も先へ行くほど細くなっており、 薬液注入の際に必要な力を抑えています ことで、 より傷口を小さくするよう工夫がなされています。 その後も、 より痛みの少ない針の実現に向けて技術を積み重ね、 2012年には、 ナノ パスニードル(ナノパス33)よりさらに10%先端径を細くした、世界最細、0.18ミリ 「突き刺す」 のではなく、 正面 「小さく切る」 横 の 「ナノパスニードルⅡ (ナノパス34)」 の販売を開始しました。海外でもドイツ、 イタ リアや中国などで提供しており、2005年の発売以来10年目を迎え、累計販売本数 は10億本を超えています。 テルモは、今後も患者さんの身体的・精神的な負担の軽減を目指して取り組んで まいります。 医療従事者からの声 糖尿病診療の現場にとって、 インスリンによる治療はインスリン 受容体異常症以外のどんな高血糖状態にも対応できる、 オールマ イティな治療です。 この治療は、幼少の1型糖尿病から高齢の2型 糖尿病の患者さんまで幅広く行われるため、患者さんも我々医療 者も、痛みの少ないインスリン注入用の注射針、痛みの少ないイン スリン治療を待ち焦がれていました。 テルモは、 そのような患者さんと我々医療者の想いに応えようと 常に努力を重ねています。 いつもその努力に感動しています。 内潟 安子 様 東京女子医科大学 糖尿病センター長・教授・講座主任 TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 8 特集 イノベーションへの挑戦 9 TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 西アフリカで より安全な血液を供給するため、 共同事業を推進 2014年、西アフリカではエボラ出血熱の蔓延により、 ギニア、 リベリア、 シエラレ オネを中心に感染者は26,000人を超え、死者は1万人超に上りました。 この地域に 近いガーナでは、輸血の供給能力を拡大し、西アフリカ全域に安全な血液を提供す るため、 ガーナ・エボラ対応計画(GERRI) を開始しました。GERRIは、 ガーナ国立 血 液サービス( N B S G )を通じて、ガ ーナ共 和 国 保 健 省 、米 国 血 液 銀 行 協 会 (AABB)、 グローバル血液ファンド (GBF)、 テルモBCT,Inc.(以下、 テルモBCT)が 連携して立ち上げた共同事業です。 これらの組織が連携し、 ガーナおよび周辺諸国 での輸血医療を強化し、 エボラ出血熱およびその他の血液疾患の治療に取り組ん でいます。 GERRIでは、 サブサハラ・アフリカ地域において、 安全な血液の供給をはじめとして、 より安全性の高い血液の採取と血液製剤の製造に必要な機器の提供、 様々な血液疾 患を持つ患者さんのための治療を提供することを目指しています。 さらに、 西アフリカ の医療従事者のスキル向上を目的としたトレーニングプログラムも提供しています。 成分採血システム 「トリマ アクセル」 エボラ出血熱に対し、効果があり、 かつ有効性が証明された治療法はまだありま せんが、回復した患者さんから血液あるいは血漿を採取し、感染している患者さん に投与すると効果が期待できることが分かっています。 この「回復期血液(全血) や 血漿」 を使った治療法は、米国の病院で収集されたデータに基づき、 エボラ出血熱 に対する望ましい治療法として認識されつつあります。 テルモBCTは、 「回復期血漿」 を用いた治療に貢献するため、NBSGの南部血液 センターに、 成分採血システム 「トリマ アクセル」 を利用できるよう提供し、 GERRIの 活動を支援しています。 「トリマ アクセル」 は、一本の針を使って採血し、連続式の遠 病原体低減化システム 「ミラソル」 心分離を行って血液を主要な成分に分離します。 この過程で、一人の患者さんある いは献血者から、輸血用の血小板、血漿、赤血球を採取することが可能です。 GERRIでは、 「トリマ アクセル」以外にもテルモBCTの製品が2種類使われていま す。一つは病原体低減化システム 「ミラソル」 です。血液製剤中にあるウイルスや寄 生虫、 バクテリアなどの病原体を低減します。 もう一つが、遠心型血液成分分離装置 「スペクトラ オプティア」 です。鎌状赤血球症の患者さんを治療するための赤血球交 換や、血液の病気を抱える患者さんの治療を目的とした治療的血漿交換に用いら れます。 医療従事者からの声 GERRIでは、 血液の安全性向上と長期的な保健医療制度の充実 に向けて活動を推進しています。 この取り組みを通じて、NBSGは 輸血分野において西アフリカで中心的な役割を果たすことを目指し ています。 Dr. Justina Kordai Ansah Director of the National Blood Service, Ghana 遠心型血液成分分離装置 「スペクトラ オプティア」 TERUMO CORPORATION Annual Report 2015 10
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