法医学まとめ

法医学まとめ
・異状死体:医師法に記載されている。確実に臨床診断が下されている内因性疾患で死亡したことが明確である
死体以外のすべての死体。24 時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない(医師法第 21 条)
・変死体:刑事訴訟法に記載されている。異状死体の一部で、犯罪死体か非犯罪死体かが判断できないもの。
・行政解剖:監察医による死因解明のための解剖(死体解剖保存法第 8 条)。監察医は都道府県知事が任命す
る。遺族の承諾は不要。
・承諾解剖:監察医制度のない地域でおこなわれている(死体解剖保存法第 7 条)。遺族の承諾が必要。
・司法解剖:犯罪の疑いがある場合、裁判官の発行する鑑定処分許可状と、所轄警察署長の発行する鑑定嘱
託書を得て行われる(刑事訴訟法)。遺族の承諾は不要。
・死亡診断書:歯科医師と医師のみが交付できる。死因統計の資料となる。患者の診療継続中の病気による死
亡の場合に交付する。
・死体検案書:異状死体の場合に、検案(死体の外表のみを調べて死因等を判定すること)を行った医師のみが
交付できる(医師法第 21 条)。
〈医療事故と法的責任〉
・行政責任:医師免許の停止・取り消しを受ける(医師法)
・刑事責任:業務上過失致死傷、守秘義務違反など。
・民事責任:①債務不履行(契約不履行)責任②不法行為責任
・過失の判断基準:診療当時の臨床医学の実践における医療水準による。
・医療水準:医療機関や地域によって異なる。医療水準に見合う治療をしても、法的責任を問われることがある。
医師の過失の有無を判断する場合の基準となる。
<死体現象>
○早期死体現象
①死体体温の低下:死後 10 時間までに 10℃(1℃/h)さがり、それ以降では 0.5℃/h。やせた人の方が太った人
より早い。
②死斑:下面の非圧迫部にできる。生前の温度が高いほど発現が早い。死後 20-30 分で始まり、12-18 時間で
最強になる。死斑の移動は死後 4-6 時間まで。発現していた死斑も残り、新しい死斑もできるのは死後 7-10 時
間である。ただし、腐敗が生じていない河川漂流死体では死斑不明瞭である。
急死では死斑は早く、高度に出現する。失血死では死斑は軽度ないしはほとんどない。
一酸化炭素中毒→鮮紅色、青酸中毒→鮮紅色、凍死→鮮紅色、硫化水素中毒→暗緑色、亜硝酸中毒→褐色
③死後硬直:ATPの欠乏により起こる。死亡直後は筋は弛緩しており、硬直の出現は 2 時間後である。再硬直
は 5-6 時間で、最高となるのは 12-18 時間である。緩解は 48 時間後である。生前の激しい筋肉疲労や頭部射
創などにより硬直が早くなる。心筋や平滑筋にも硬直は認められる。温度が高いと死後硬直の持続時間は短い
が、経過は早くなる。
④角膜混濁:眼は開いている方が、温度は高いほうが混濁が早い。
⑤乾燥
○晩期死体現象
①自家融解:組織内酵素の死後活性化による。臓器は軟化する。
②腐敗:細菌の作用による軟化融解。死体の腐敗の速度を表す法則にCasperの法則があり、地上の 1 週間=
水中の 2 週間=土中の 8 週間である。急死例、化膿性疾患での死亡例では腐敗の速度は速い。硫化水素によ
り側腹部から淡青色に変色する。腐敗網(死斑みたいなもの)は上胸部、下腹部、大腻部に好発する。前立腺、
子宮、腼胱は腐りにくい。
○異常死体現象
①木乃伊:乾燥、高温状態で衣服等の吸湿性が良いと起こりやすい。
②死ろう化:湿度が高いと形成されやすい。
<生活反応>
・局所性:出血、創口の哆開、1度及び 2 度の熱傷や損傷部の痂皮化、肉芽など(注意 3 度、4 度は違う!)。
・全身性:貧血、塞栓症(脂肪や空気などによる)、異物吸引(溺死でのプランクトン吸引、焼死での気道内の煤
など)、血色素の変化など。
<創傷>
創縁
創角(端)
創面(壁)
創洞(創管)
創底
○鋭器損傷
①切創:創口は紡錘形、創縁は整、創角は鋭、創洞は浅い、創面は整、創底は線状。致命傷ではないが、頸部、
鼠径部では致命的である。
②刺創:刃物が動くと切創も加わるため、刺切創となるので、創口の接着長は刃幅より大きくなることが多い。ま
た、傷の深さは刃の長さより長くなることが多い。創口は刺入口で、創洞は刺創管、創底は突き抜ければ刺出口
となり、通常は盲管となる。形状は刺器の種類によって異なるので、凶器の推定が可能である。致命傷になるこ
とが多い。
③割創:創縁は整で、表皮剥脱と変色を伴う。創面は整鋭で、創底は骨に達すれば骨損傷も起こりうる(切創と
の鑑別)。ほとんどが他殺であり、致命傷となることが多い。
①
②
刺創管
刺入口
③
○鈍器損傷
①表皮剥脱:鈍体による皮膚面の摩擦(擦過または圧迫)で表皮が剥離し真皮が露出した状態。表皮剥脱部が
乾燥すると、革皮様化(死後変化)し、痂皮(生活反応)との鑑別が必要。
②皮下出血:皮膚に離開なく、皮下の血管が破れて皮下組織内に出血した状態。皮基調の変化は、青紫→暗
青→緑青(7 日)→緑黄→黄(10 日)である。皮下出血は生活反応である。
*二重条痕:バット等の打撲により、被打撲部位の両側に2条の皮下出血を生ずること。
③裂創:開放損傷であり、創縁は整、創口は紡錘形だが創洞は浅く、創面に架橋状組織を認める。外力によっ
て皮膚が過度に伸展し、弾性の限界を超えると裂けて生ずる。表皮剥脱はない。
④挫創:開放損傷であり、創縁は不整、表皮剥脱あり。創口は不整、創洞は浅く、創面に架橋状組織を認める。
圧迫と共に皮膚が伸展して裂けると挫裂創となる。
⑤杙創:先端が鈍な大きく太い凶器が突き刺さって生ずる。
⑥デコルマン(剥皮創):皮膚が圧迫的に伸展されて、皮膚は破綻せず皮下組織と筋膜とが剥離した状態。
○銃器損傷(銃創、射創)
・接射:0.5-5.0cm、発射時に爆発ガスが生じるため、皮膚に不整星型の裂創と火傷が生じる。
・近射:1m以内、円形の射入口に汚染輪(弾丸の汚物)、挫滅輪、煤輪(火薬粒あり)が認められる。
・遠射:1m以上、円形の射入口のみ。
・盲管射創→体内にとどまる、貫通射創→貫通する
・射創管:射撃方向の推定に重要。少しずつ幅広くなる。
・射出口:一般に射出口は射入口より大きく不規則である。挫滅輪、汚染輪、煤輪なし。
<頭部外傷>
・弾性力が小さいため、鈍器により裂創、挫創が生じやすい。頭皮の損傷が軽微でも、内部では致死的な場合も
ある。
・頭蓋骨:頭蓋冠(側頭部、縫合は弱い)、頭蓋底(神経、血管孔が多く弱い)
・骨折の種類には、線状骨折(外力の作用方向)、陥没骨折(外力の作用面が小さい)、穿孔骨折(射創、刺創)、
粉砕骨折(外力の作用面が大きい)、縫合離開がある。
・急性硬膜外出血:ほぼすべて外傷性で、側頭部の骨折を伴うことが多い(中硬膜動脈の破綻)。血腫量 60gま
では無症状で 100g以上では死因となる。意識清明期を伴うことがある。
・急性硬膜下出血:硬膜とクモ膜の間に出血し、新しいものでは流動性または軟凝血である。外傷性がほとんど
で、他の脳損傷も伴うことが多く(ただし、脳挫傷がない場合でも発症しうる)、受傷直後より意識のないことが多
く、予後不良である。橋静脈の破綻によるものが多い。慢性の硬膜下血腫もある。
・外傷性くも膜下出血:特発性での出血原は動脈瘤であり、外傷性との鑑別が問題となる。
・脳挫傷:脳実質の器質的損傷である。
・外傷性脳腫脹:外力による脳の循環障害が原因である。
・びまん性軸索損傷:受傷直後からの意識障害がある。脳腫脹を伴わないことが多い。
・脳ヘルニア:テント切痕ヘルニアは、鉤が小脳テントから下方へ脱出することで大脳脚を圧迫する。
<交通事故損傷>
・歩行者の損傷①一次損傷:車両と衝突することによる衝突損傷②二次損傷:ボンネット、フロントガラス等にぶ
つかることによる損傷③三次損傷:路面等に投げ出されることによる転倒損傷
・バンパー損傷:後方からの衝突では膝関節の屈曲などにより、前方からの衝突より骨折しにくい。バンパー損
傷の位置はブレーキをかけることによりバンパーの位置は低くなることに注意。
*Messerer の骨折:長管骨の骨折が楔型となり、衝突の方向を示すこと。
・跳ね上げ損傷:スピードが 30km/hを超すとボンネットにはね上げられ、70km/hでルーフ、100km/hで後方に
飛ばされる。
・礫過損傷:礫過は車両に跳ね飛ばされた後に生ずる場合と、なんらかの理由で路上に伏せていて生ずる場合
とがある。
*タイヤマーク傷:タイヤの凸部やショルダーが表皮剥脱として、凹部(非接着面)が皮下出血として印象されや
すい。
<高温による障害>
・熱傷の定義:①火傷…火焔、高温個体、強い輻射熱などによる②湯傷…高温液体、高温蒸気による
・熱傷の程度:①第 1 度:紅斑性熱傷②第 2 度:水疱性熱傷③第 3 度:壊死性熱傷④第 4 度:炭化(←化学薬品
でも熱傷は生じる)
・熱傷の重症度:面積、深部、部位で規定される。
*9 の法則:頭 9%、腕 9%、足 18%、体幹 18%、陰部 1%
・焼けた死体の所見:①生活反応(熱傷、筋肉と臓器のうっ血紅色調、口腔・気道粘膜の熱変化と煤の膠着、
COヘモグロビン 50-60%)②非生活反応(拳闘家姿勢:屈筋>伸筋による、燃焼血腫:外傷性硬膜外出血との
鑑別が必要)
・うつ熱(体温がうっ積し体温が上昇した状態)の結果おこった全身性障害を熱射病という。うつ熱の他に脳に対
する熱線の直達的作用も加わって起こった全身性障害を日射病という。
<寒冷による障害>
・死体所見①死体が低温にさらされたための所見②死斑とは無関係な鮮紅色斑③左心室内血液の鮮紅色④心
筋・骨格筋・肝細胞のグリコーゲン消失⑤肝臓・膵臓・副腎の空胞形成⑥胃粘膜の出血・潰瘍
<医事法>
・安楽死:耐えがたい肉体的苦痛が前提条件であり、死が不可避で死期が迫っている、他に苦痛を除去する方
法がない、患者本人が明確に承諾していることが必要である。消極的安楽死(不作為)、積極的安楽死(作為)、
間接的安楽死(副作用)に分類される。森鴎外の「高瀬舟」にも描かれる。
・尊厳死:積極的治療を控え、なるべく自然な死を迎えること。Living willが不可欠である。法制化はまだ。
<窒息>
・生活反応:顔面のうっ血、皮膚・眼瞼結膜・口腔粘膜下の溢血点、著名な死斑、糞便・尿失禁、精液の漏出
・急死の 3 主徴:①暗赤色流動性血液②漿膜下、粘膜下の溢血点③臓器のうっ血
・溢死:①定型:顔面蒼白、溢血点がない②非定型:顔面うっ血、溢血点が認められる
・絞死:体重以外の力による。ほとんどが他殺。顔面うっ血。
・扼死:手、腕による圧迫。他殺のみ。顔面うっ血。
<溺死>
・症状:①Ⅰ期:前駆期②Ⅱ期:抵抗期③Ⅲ期:呼吸困難期(けいれん期)④Ⅳ期:無呼吸期⑤Ⅴ期:終末呼吸器
・死体所見
①外部所見:直腸温低下、水中で体位が変わるため死斑(鮮紅色)は著名でない、鼻口から白色泡沫(生活反
応)、漂母皮化(白いしわ)、ときに結膜の溢血点、巨人様化(腐敗ガスによる)
②内部所見:気道、食道内に砂泥の存在、胃・十二指腸に溺水の存在、プランクトンの存在、
・診断(生前溺死)①鼻口および気道内に微細泡沫の存在②溺水肺の証明③食道・気管分岐部まで泥砂、藻な
どの存在④実質臓器内にプランクトンの証明⑤草や砂などを手につかんでいる。
<内因性急死>
・突然死:WHO「発症から 24 時間以内の予期されなかった死亡」
・内因性急死の原因疾患:循環器疾患(最も多い)、SIDS(鼻腔閉塞による窒息との鑑別は困難)
<嬰児殺>
・新生児の正常値
身長:50cm、体重:3100g、頭囲:33cm、胸囲:32cm、腹囲:28cm、胎盤:450g、臍帯長:50cm
徴候
生産児
死産児
胸囲、腹囲
胸囲>腹囲
胸囲<腹囲
肺浮揚試験
陽性
陰性
肺組織学所見
肺胞の開大あり
肺胞の開大なし
胃腸浮揚試験
陽性
陰性
・虐待:虐待を発見したものは、福祉事務所または児童相談所に通告しなければならない。加害者は実母、実父、
継母の順で多い。
<遺伝子多型>
・SNPs:①サイレント変異(変異によって指定するアミノ酸が変わらない)②ミスセンス変異(変異によって指定
するアミノ酸が変わる)③ナンセンス変異(変異によって指定するアミノ酸が停止コドンとなる)④フレームシフト変
異(読みわくがずれる)
<血液型>
○ABO式血液型(糖鎖系血液型)
・ABO式血液型はヒトで最初に見つかったメンデル遺伝形質である。
・Landsteinerの法則:A型は抗B抗体を、B型は抗A抗体をO型は抗A抗B抗体を自然抗体として規則的に持っ
ていること。
○Rh式血液型(タンパク系血液型)
・RhDとRhCEの 2 つの遺伝子にコードされる。
・Rh(-)はRhDの欠失による(頻度 イギリス人:16% 日本人:0.5%)。
○MNSs式血液型
・MNはグリコフォンA上の特異的なアミノ酸の配列をコードしている。SsはグリコフォンB上に位置する(2つの
多型は連鎖不平衡の関係にある)。
<親子鑑定>
・検査方法
①MLP法:VNTR部分(ミニサテライト:十数-数十塩基)を特定し、電気泳動で視覚化する。このバンドのパター
ンは個人個人で異なるので、「DNAフィンガープリント(DNA指紋)」と呼ばれる。ある程度の試料の量が必要。
②STR法:マイクロサテライトの型(STR型:2-5 塩基)を検出し、父由来と母由来の遺伝子合計 2 本のピークとし
て表すDNA分析法。PCRを用いる。