【相談 59】法定保存期間を超えてカルテを保存している病院に対して

【相談 59】法定保存期間を超えてカルテを保存している病院に対して、削除を請求できますか。
キーワード:カルテ、診療録、診療情報、プライバシー、個人情報保護、独立行政法人等個人情報保護法、医師法
患者です。
カルテの保存義務は 5 年と聞いたことがありますが、5 年以上保存されている医療機関もあると思いま
す。特に電子カルテなので、場所も取りませんし、そのまま保存されている病院も多いのではないかと
思います。5 年が経過した時点で「自分のカルテを削除してください」と病院にお願いすることはできる
のでしょうか?電子カルテ自体は病院のものですが、カルテに書かれている内容は私のものではないの
でしょうか?病院が削除してくれない場合、削除してもらうための強制手段はありますか?
【回答】
医師法第 24 条が医師に作成を義務付けている「診療録」
(いわゆる狭い意味での「カルテ」
)は、同条第
2 項で「前項の診療録であって、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又
は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、5 年間これを保存しなけ
ればならない。
」と規定されています。したがって、病院や診療所の勤務医の診療に関する記録は病院や診
療所の管理者が、勤務医以外の医師の診療に関する記録はその医師(以下、便宜上、これらの管理者や医
師をあわせて「病院」といいます)が、5 年間保存することとなっています。
それでは、この保存期間の 5 年を超えて患者さんのカルテを保存している病院に対して、患者さんは自
身の「診療録」
(以下、
「カルテ」といいます)の削除を請求できるのでしょうか。
この点、カルテに記載される医療情報は、個人情報の保護に関する法律(以下、
「個人情報保護法」とい
います)上の「個人情報」
(第 2 条第 1 項)
、
「個人データ」
(第 2 条第 4 項)等に該当しますので、個人情
報保護法が適用されます。そして、この個人情報保護法は、医療情報が誰のものかという点については、
誰のものかは問わないという立場を採っています。原則として、情報は利用の対象であって、所有の対象
ではないからです。したがって、個人情報保護法上、カルテに記載されている情報が患者さん個人のもの
であることを理由として、病院に削除請求をすることはできません。
もっとも、個人情報保護法上、
「本人」
(第 2 条第 6 項。相談事例でいう患者さん)が「保有個人データ」
(第 2 条第 5 項)について消去を求めることができる場合について規定があります(第 27 条)
。それは、
当該個人データが、利用目的の制限に違反して取り扱われている場合か、不正の手段により取得され、又
は同意なく取得された場合で、これらの場合には「本人」が消去を求めることができますが、これらに当
たらない場合には消去を求めることができません。したがって、相談いただいた事案の場合でも、病院の
保有データが、利用目的の制限に違反して取り扱われている場合か、不正の手段により取得された場合等
でない限り、患者さんは病院に対して保有個人データの削除を請求することはできませんし、病院に削除
を強制することもできません。
(回答者:荻野伸一、弁護士)
(2015 年 12 月執筆)
*会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明を掲載しております。
1
Medical-Legal Network Newsletter Vol.61, 2016, Jan. Kyoto Comparative Law Center