脳は神を見るか

脳は神を見るか
峰尾欽二
2015.4.8 わかみず会
前回発表(「『利己的遺伝子』論と反キリスト教
ーR.ドーキンスを読む」2013.12.4)
の反省
・本論(『神は妄想である-宗教との決別』)には至らなかっ
た
・発表方法(厳密な引用)が冗長になった
文献①:脳はいかにして<神>を見るか
(A.NEWBERG,et all,2003,PHP研究所)
文献②:神は妄想である
(R.DAWKINS, 2007, 早川書房)
※宗教の起源に関して同じ洞察を持ちながら、なぜ相反する結
論に至るか(神経学と遺伝子学の立場から)
文献①より
<神は死んだ>
(ニーチェ)
<ニーチェは死んだ> (神)
・神(宗教)は、なぜしぶとく生き残るのか
文献①から
視覚連合野:
視覚情報処理、記憶領域と
の結合、瞑想時のヴィジョン
処理(仮説)
宗教体験に関与する三つの連合野
・方向定位連合野ー自己を世界に位置付ける
・注意連合野ー意志の座
・言語概念連合野ー世界に名前をつけ、分類する
・瞑想(仏教)時に放射性液体を注射し、写真に撮ると方向定位連
合野の機能が低下している
・修道女の祈りのときも同様な現象→神(イエス)と同一、神が身
近に居る
・神秘家や信者にとっては、直接的な神秘的出会いを通じ
て、その背後に立っている神の存在が、文字通りの絶対的
な真実として受け取られる。
神話の創造
・いずれの時代、いずれの地域でも神(宗教)は存在した
・ネアンデルタール人の墓には、数々の埋葬品があった。肉体の
死を超えて生きられることを保証するような信仰の体系を持って
いたと考えられる
・宗教には神話の存在が不可欠
・世界中の神話のモチーフ
・ヒトのみに「認知強制」(抽象的危険の認知から、世界を分析し理
解しようとする)が生まれた
・実存的な不安(自分はなんてちっぽけな存在なんだ)に対する
答えを見つけられなかった心は、代わりに物語を創作して提案し
、それが宗教的な神話になる
・「世界はいかにして創造されたか」「悪はいかにして生まれたか
」→解決策として神々や霊的存在を生み出す
・伝統的な科学的批判
神秘主義は、精神病や脳機能障害
フロイト派(自己と非自己との分離がない幼児体験へ
の回帰)
・反論
神秘主義者:恍惚的で喜ばしい経験
精神病患者:神に叱責されたり、恐怖にすくむ例
が多い
・ヒトは、自己超越の才能に恵まれた、生まれながらの神
秘家である
美しい音楽に「心を奪われる」
愛国的演説に「我を忘れて」高揚する
宗教的儀式はそれを狙ったものである
・求心路遮断によって「方向定位連合野」への情報の流れがせき
止められる2つのアプローチ
①受動的アプローチ(仏教など)
すべての思考、感情、知覚を心から追い出すタイプ
(「絶対的一者」の状態)
②能動的アプローチ(キリスト教など)
神や聖人、あるいは十字架などの象徴などに心を集中させる
注意連合野は、情報の流入を遮断するのではなく、逆に、促
進する(「神秘的合一」の状態)
・ヒトは神秘的合一状態になる才能を遺伝的に受け継いでい
て(おそらくは、性的機構の副産物として)、特定の人がそ
の能力を発揮していると考えられる
・スピリチュアルな超越体験が神経生物学的過程に起源を持っ
ているのなら、神秘家たちが経験する絶対的一者は、それなりに
妥当性があり、ひょっとすると、実在すらしているのかもしれない
神の存在を仮定することへの批判
*神の存在、不在を議論するとき、神の存在を主張する側には神
の存在を証明する義務を負うが、存在しないという側には、その
責はない。(B. ラッセル流)
理論からの結論(文献①)
・神話は、生物学的過程によって強制的に作られてくる
・宗教儀式は、神秘的合一状態に入るために直感的に考案され
た動作である
・神秘家は、必ずしも狂気に陥っているわけではない
・すべての宗教は、一つのスピリチュアルな木から突き出てい
る枝である
・この究極の合一状態を合理的に支持できる
*科学的非科学
『神は妄想である』(R.ドーキンス)
・神経学を基礎にしたニューバーグ説と遺伝子学を基礎としたドー
キンス説との間で、宗教の起源について矛盾していない
・いつの時代、どの文明にも宗教は存在するのだから、宗教には
ダーウィン主義的な生存価があると見なければならない。宗教の
直接の生存価を考えるのではなくて、他の生存価の副産物として
考えたい(宗教否定の伏線?)
・ガの「焼身自殺行動」=役に立つコンパスが「誤作動」した副産
物なのである
・自然淘汰は、親や長老のいうことはなんであれ正しいと信じる傾
向を持つ脳を創り上げる
・親(もしくは長老)の言うことに「疑いを持たずに従う」という行動
には生存上の価値がある。同時に悪い忠告も受け入れてしまう
・子供は心の二元論(肉体と精神の分離)を信じる性向がある(宗
教への心理学的準備)
・ならば、二元論性向を導いた自然淘汰が問われる。
しかし、その説明は分かりづらい。
・志向姿勢(トラを見たとき、それがやりそうな行動の予測を遅ら
せないために、実際に志向している以上を意識化する)は、危険
な状況における意思決定を迅速化する脳のメカニズムとして生存
価を持つ。二元論は志向姿勢に不可欠な付随物。
・結局、宗教は、親から子へと伝承する能力の副産物(?)
・宗教的観念の中には、ミームとして生き残るものがあるかもしれ
ない
・「ミーム」とは、遺伝子のように真の自己複製子として振る舞う
単位が、文化における模倣という現象についても存在する、とす
る仮説(『利己的遺伝子』)
・ミームの例:大工の親方から徒弟への技術伝承、編み物の運針
、ロープや漁網の結び方、折り紙の折順、大工や陶芸における技
巧、・・
・ミームとして生存価をもっていてもおかしくない宗教的観念の例
一覧
ーあなたは自分が死んでも生き延びる
ーもしあなたが殉教すれば、天国の中で特別に素晴らしい場所に行け、そ
こで72人の処女を楽しむことができる。
ー異教徒、冒涜者、背教者は殺されるべきだ
ー神を信じるのは至上の美徳である
ー信仰(証拠なしに信じること)は美徳である
ー理解されることを意図したものではない奇妙な事柄(三位一体、実体変
化、受肉といった)について、そのうちの一つを理解しようと試みること
さえしてはならない
ー宗教的な美しい音楽、美術、聖典は、それ自体が自己複製するミームた
り得る
『モラルの起源ー道徳、良心、利他行動はどのように
進化したのか』
(クリストファー・ボーム、2014、白揚社)
• 『人間の進化と性淘汰』(R.ダーウィン、1871)
• 道徳の起源ー大型動物を狩る狩猟集団の成立、簒奪者に対する
服従者連合による対抗、自制の進化と内面化、自己判断による
善悪の観念の発達
• ”宗教がなければ倫理は乱れる”に対する反論
宗教は根絶できるか
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遺伝子を人間固有の遺伝子の副産物と考えるなら可能?
遺伝子操作技術の進歩はそれを可能とするか?
コンドームは人間本能への抵抗の偉大な発明
放置すれば、宗教は亡くなるか?
話題から
最近の読書から興味あるものを
『日本人のための宗教原論』
(小室直樹、2000、徳間書店)
原理主義は、経典に書いてあることそそのまま事実とし
て信じることで、キリスト教に限って成立する。その理
由は経典が確立し、行動についての命令(外面的行動に
関する規範)が全くないからである。
イスラム教では、イスラム法の行為に関する命令(コーラ
ン以下の補充法源)を守らなければならない。
「イスラム原理主義」は、必然的にイスラム法学者(ウル
マー)による寡頭政治にならざるを得ない。
イスラム教の法源
(「世界がわかる宗教社会学入門」(橋爪大三郎、筑摩書房、2001)
第一法源:『クルアーン』(コーラン):神の啓示
第二法源:スンナ(伝承):ムハンマドの行為、言葉。(それを編纂
したものがハディース)
第三法源:イジュマー:法学者全員の一致
第四法源:キヤース:法学者が論理的推論により判断を下す
日本の法源は、憲法ー法律ー命令(政令・省令)ー条例(規則)
ー慣習法ー判例法ー条理
(wikipediaより)
『イスラムの法ー法源と理論』
(アブドル=ワッハーブ・ハッラーフ、1888-1956、エジプト生
中村廣治郎訳、東大出版、1984、初版1942)
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法理論とは、法の一般的指標であり、それによって一般的判断
を定立すること
法学とは、行為に対する法判断は何か、明らかにすること
法源とは、行為上の法判断を導き出す基になるもの
訳者注:19世紀中期以降、西洋列強の圧力のもとに、法改革を余
儀なくされた。当初は、伝統的なイスラム法には手を触れず、国際
的に必要な商法や刑法を導入し、新旧2系統が併存した。20世紀
中期以降、統合化へと進んでいる。
『日本人のためのイスラム原論』
(小室直樹、集英社、2002)
イスラムはどうして近代化に遅れをとったか
・ムスリムの行動規範を確定し尽くしているコーランからは「資本
主義の精神」=「行動的禁欲」は生まれない
・「アッラーは頸動脈よりも近くにいる」からはヨコの契
約は生まれない
(イスラムの「宿命論的予定説」
キリスト教の「救済
予定説」)
『世界は宗教で動いている』(橋爪大三郎、光文社文庫、2013)
宗教改革とアメリカの行動原理ーウォール街の”強欲”をどう考え
るか
・ピューリタン(カルヴィン派)→徹底した個人主義→人間不信→
信頼できる共同体が作れない→人間と人間の関係は法律に基づ
く→弁護士だらけの社会
・選挙は民意であるけれど、神の意志が現れていると考える→大
統領命令には従う
・大儲けした人は、市場と神によって祝福されたと考える→”強欲
”自体が批判されることはない
『ふしぎなキリスト教』
(橋爪大三郎、大澤真幸、講談社現代新書、2011)
宗教的一貫性という点では、イスラム教はキリスト教より優ってい
る。にもかかわらず、近代化の過程でキリスト教に主導権を奪わ
れてしまったのは、何故か?
・イスラム教、ユダヤ教では宗教改革は起こり得ない。
・根本的に重要なことは、キリスト教徒が自由に法律を作れるこ
と。
『池上彰の宗教が見えれば世界が見える』
(池上彰、文春新書、2011)
・宗教についての関心が高まっている←団塊の世代が「死」の準
備をする時期になったと感じ始めた。自分の葬式や墓をどうする
か。
・直葬が増えている/霊魂信仰は薄らいでいる(島田裕巳)