科学者が見つけた「人を惹きつける」文章方程式 第9章

科学者が見つけた「人を惹きつける」文章方程式
第9章 「知性」の名文方程式
3021-6021
塚本可奈子
はじめに
夏目漱石 『草枕』
谷崎潤一郎 『蓼喰う虫』
加藤周一 『言葉と人間』
橋爪大三郎 『政治の教室』
まとめ
あれに嫉妬を加えたら、どうだろう。嫉妬では不安の感が多過ぎる。
憎悪はどうだろう。憎悪は烈し過ぎる。怒?怒では全然調和を破る。
恨?恨でも春恨とか云う、詩的のものならば格別、ただの恨では余
り俗である。いろいろに考えた末、しまいにようやくこれだと気がつ
いた。多くある情緒のうちで、憐れと云う字のあるのを忘れていた。
夏目漱石 「草枕」
『夏目漱石全集3』 ちくま文庫 130ページ
 漢字羅列・・・たくさんの漢字を羅列することで、歯切れの良
いリズムができ、知的な雰囲気つくる。
 思考中断禁止・・・漢字は多いが、読めば分かるものばかり。
知らない言葉が出てきても、思考が中断しないような配慮。
 状況証拠・・・結論の「憐れ」を際だたせるため、多くの言葉を
費やしながら試行錯誤する。「状況証拠」と呼ばれる付随的
な証拠をたくさん集めて、説得力を増す。
もともとこの本は今迄完全な欧洲語訳がなかったと言われる亜剌
比亜の物語を、リチャード・バアトンが始めて逐字的に英語に移し
て、バアトン倶楽部から会員組織で出版した限定版であって、殆ど
各ページ毎に附いている親切な脚注を拾い読みして行くと、彼には
何の興味もない語学上の研究もあるけれども、中には亜剌比亜の
風俗習慣に関する解説や、多少話の内容のうかがわれる記載がな
いこともない。
谷崎潤一郎 『蓼喰う虫』 新潮文庫 101ページ
 漢字の多用・・・「欧洲語訳」「亜剌比亜」「逐字的」など、
日常生活ではあまり使わない漢字を並べることで、重々
しく知的な印象を与える。
 長く読みにくい文・・・接続詞と読点だけで延々とひっぱ
り、漢語を多くし読みにくくすることで、読者を途方もなく
深遠な世界に迷い込んだような錯覚におちいらせる。
私が英国の学者ミル(John Stuart Mill)に感心することは、二つあ
る。その一つは、『自叙伝』のなかに語られている恋愛であり、もう一
つは『自由論』にあらわれた理路整然たる熱情である。
(中略)ミルの議論の要点は、個人の意見と行動は、それが他人
に害をあたえないかぎり、法的権力によっても、社会的圧力によっ
ても、決して制限せられるべきでない、ということにあった。
加藤周一 『言葉と人間』 朝日新聞社 187、189ページ
 最初から結論・・・文頭に結論を明示することで、続く文
章に緊張感をもたせ、すっきりとした文章にする。
 錯綜文型・・・長い文で、一読でサラリと内容が頭に入
るものではない
→読み手に頭を使わせ、知的満足を提供する。
 事実だけを淡々と・・・著者の感想を一切書かないこと
で、論理をきっちり追いかけられるような美しい文章構
造をつくりだす。
政治はこれまで、泥にまみれ、金にまみれてきた。そういうイメー
ジが先行して、日本人は、政治を軽蔑してきた。政治を軽蔑するか
ら、政治に関わらない。政治に関わらないから、政治がよくならない。
政治がよくならないから、政治を軽蔑する。――こういう馬鹿ばかし
い悪循環を、断ち切ろう。この社会を生きる大部分の人びとの健全
な良識を信じて、政治を立て直そう。
橋爪大三郎 『政治の教室』 PHP新書 4~5ページ
 短い文章・やさしい言葉・・・短く読みやすい文章にす
ることで、政治というとっつきにくい分野を、読み易い
ものにする。
 理論の段階をゆっくりと・・・論理の展開を小さいステッ
プに分けることで、読み手を置いてきぼりにしない、分
かりやすい文章にする。
まとめ
漢字を多く使い、歯切れの良い文章をつくる。
難しい内容を分かりやすく読ませ、理論の段
階を追わせる。
読み手にも頭を使わせ、知的満足を与える。