講義概要をダウンロード(PDF) - 大阪大学大学院医学系研究科・医学部

平成 27 年度 大阪大学大学院医学系研究科
修士課程(医科学専攻)公衆衛生学コース
「環境健康リスク論」 (通年)講義概要
担当:医学系研究科環境医学 祖父江 友孝 教授
実施場所: 大阪大学中之島センター4階講義室(404 号)
カリキュラム予定表:http://www.msc.med.osaka-u.ac.jp/info/lectureguide.html
9 月 26 日(土) 8:50〜10:20
ヘルスプロモーション事業のプログラム評価につい
て
萩原 明人 (九州大学医学研究院 基礎医学部門 環境社会医学 教授)
概要:健康増進のための取り組み(以下、プログラム)が地域、職域、学校等、様々な場所で行われているが、
それらが評価されることは殆どなかった。プログラム評価のあり方については、費用便益分析(Cost-Benefit
Analysis, CBA)や費用効果分析(Cost-Effectiveness Analysis, CEA)を除き、殆ど検討が行われていない。CBA
や CEA は経済的な視点からの評価に過ぎず、必要なデータが取れない場合が多い。また、事業の利害関係
者(stakeholders)の立場を踏まえて評価しなければならない場合もある。そこで、本講義ではプログラムの全
体的な評価の方法について論じる。
9 月 26 日(土) 10:30〜12:00
禁煙による健康改善
大島 明 (大阪府立成人病センター がん予防情報センター顧問)
概要:喫煙による疾患・死亡リスクは、1962 年の英国王立内科医学会報告、1964 年の米国公衆衛生長官報告
以来多くの研究がレビューされ(日本では 1987 年厚生省編集「喫煙と健康」)、すでに確立しているので、いまさ
らあれこれの個々の疾患と喫煙との関連を検討するよりは、喫煙への介入を対策として実施して、喫煙による
疾患・死亡リスクを少なくすることに重点を置くべきだ、と私は考えるものであるが、今回の講義では下記の 2
点に関してエビデンスを点検する。
1.これまでに確立したもの以外に喫煙関連疾患はないか。これに関連して、Carter et al. Smoking and
Mortality — Beyond Established Causes.N Engl J Med 2015;372:631-40.を紹介して議論する。
2.禁煙すると健康改善するか。介入研究である Lung Health Study の結果(Anthonisen NR et al The effects
of a smoking cessation intervention on 14.5-year mortality: a randomized clinical trial Ann Intern Med.
2005;142(4):233-9)といくつかの観察研究を紹介するとともに、禁煙が強制される受刑者における死亡状況は
どうか、について阪大環境医学学生実習で進行中の日本のデータ等を紹介し、議論する。
喫煙による健康障害は多くの証拠があるが、最近ではこれまで以上の受刑者の生活習慣は、刑務所に入る前
は一般人口に比して不健康と想像されるが、刑務所に収監されて以降は、禁煙・禁酒を強制されるなど健康的
なものとならざるをえない。それでは、受刑者の死亡状況は、一般人口に比してどうなっているだろうか。
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先ずは、海外での状況について論文を輪読する。
次いで、法務省の矯正統計の年報には、各年末の性年齢階級別収容者数と各年における死因別死亡者数
(2006 年から 2013 年まで)が掲載されているので
(http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kousei.html)、
これを用いて標準化死亡比(SMR, Standardized Mortality Ratio)を計算するなどの古典的な記述疫学の手法
を用いて検討する。
9 月 26 日(土) 13:00〜14:30
『エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン2013』
と透析予防
守山 敏樹 (大阪大学保健センター 教授)
概要:慢性腎臓病(CKD)は腎機能低下および尿異常所見等で規定される病態であり、末期腎不全のリスク因
子であるのみならず心血管疾患のリスクともなっており、医療現場のみならず社会全体として取り組むべき対
象である。CKD とされる者は成人人口の10%を超え、加齢とともにその頻度は増加するため、高齢者では高
頻度にみられる病態でもある。慢性維持透析導入患者は今なお増加を示し、導入患者は年々高齢化している。
今後さらに進展する日本の高齢化における医療課題として、適切な CKD 対策とそれによる透析導入予防は医
療面、公衆衛生的観点いずれにおいても重要な位置を占めている。本講義では CKD 対策について、食事生活
指導の実際を中心に解説し、社会として取り組む CKD 対策の理解の一助としたい。
9 月 26 日(土) 14:40〜16:10
日本人におけるダイオキシン類およびその他の
化学物質の曝露量および関連要因について
有澤 孝吉 (徳島大学大学院医歯薬学研究部医科学部門社会医学系 予防医学分野 教授)
概要:日本人におけるダイオキシン類およびその他の環境汚染物質の血液中濃度、食事摂取量とその関連要
因について、 環境省主導で 2002 年から実施されている疫学調査の結果をもとに概説する。また、低濃度の
ダイオキシン類曝露と健康影響との関連について、最近の海外の調査結果をまじえて考察する。
9 月 26 日(土) 16:20〜17:50
レギュラトリー・サイエンス
祖父江 友孝 (大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 環境医学 教授)
概要:レギュラトリー・サイエンス(規制科学)とは、根拠に基づいて有効性(メリット)と安全性(デメリット)を予測、
評価することで、科学技術の成果を人と社会の調和の上で最も望ましい姿に調整する科学である。科学的知
見と行政が行う規制措置等との橋渡しとなる研究(regulatory research)と、行政が行う安全確保のための規制
措 置 や そ の 規 制 措 置 と の 調 和 を 図 る 取 組 (regulatory affairs)を 包 含 す る 。 本 講 に お い て は 、 regulatory
research の基軸にあたるリスク評価(risk assessment)を中心に概説する。
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10 月 3 日(土) 8:50〜10:20
大腸癌予防のための臨床試験
石川 秀樹 (京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的癌予防医学 特任教授)
概要:本邦において大腸癌は増加している。この増加している大腸癌を予防するために、食物繊維、乳酸菌、
運動指導、緑茶抽出物、アスピリンなどを用いた臨床試験が行われてきた。本講義では、これまでに実施され
てきた臨床試験を紹介し、大腸癌予防の今後の方向性などを討論したい。
10 月 3 日(土) 10:30〜12:00
アルコールと健康:個別化健康増進へ向けて
竹下 達也 (和歌山県立医科大学医学部 公衆衛生学教室 教授)
概要:飲酒は、Global Burden of Disease 2010 において DALYs(傷害調整生存年数)への寄与の大きい要因と
して、高血圧、喫煙(受動喫煙を含む)に次いで第3位と報告されており、重要な課題である。アジア人は2つの
アルコール代謝酵素の遺伝子型により飲酒行動、健康度ともに大きな影響を受けている。遺伝子―環境交互
作用の重要なモデルを提供するとともに「個の健康増進」の良いモデルでもある。遺伝子情報を社会的にどの
ように利用していけばよいか倫理的課題を含めて考えてみたい。
10 月 3 日(土) 13:00〜14:30
環境・健康リスクの予見的評価手法の現状と
その問題点
東海 明宏 (大阪大学大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 教授)
概要: 一般化学物質(生活空間で使用、機器等に組み込まれた化学物質等)は経済産業省、環境省、厚生労
働省の3省による共管であり、世界的にもヒト健康リスクに基づく管理が行われてきた。最終的には、リスクと
ベネフィットの比較に基づいて管理がなされることになるが、膨大な数の化学物質が屋外・屋内を問わず生活
環境に存在し、人々は曝露され続けていることから有害性等に関する実験事実のみならず、それらを踏まえた
予見的な評価が必要となる。本講義では、現状と問題点について解説する。
10 月 3 日(土) 14:40〜16:10
健康と医療のリスクコミュニケーションを考える
中山 健夫 (京都大学大学院医学研究科 健康情報学分野 教授)
概要:近年、健康と医療の問題を考える重要な鍵の一つが「コミュニケーション」であることは、世界的に広く認
識されつつあります。コミュニケーションの中でもリスクコミュニケーションは、さまざまな立場の stakeholders が、
不確実性を伴う健康・医療の情報を共有して、社会的な脅威に向き合い、意思決定・問題解決に取り組む上で
避けることのできない課題です。本講義ではいくつかの事例を通して、国内外のリスクコミュニケーションの知
見と課題を紹介する予定です。
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10 月 3 日(土) 16:20〜17:50
臨床データベース構築のピットフォール
北村 哲久 (大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 環境医学 助教)
概要:近年、様々な分野においてビックデータが叫ばれる時代である。特にヒトを対象とした臨床研究を行う場
合に患者集団データセットを構築することは重要である。本講義では、演者の経験に基づいた臨床データベー
ス構築する際のノウハウを概説する。
10 月 10 日(土) 8:50〜10:20
手づくり RCT と臨床予測モデル
川村 孝 (京都大学 環境安全保健機構 健康科学センター長)
概要:無作為化対照試験(RCT)は、先端的な医療を評価するばかりでなく、身近な疾患に対するありふれた治
療や予防の有効性の確認するためにも有用であり、プライマリ・ケアの現場でも実践することができる。また、
コホート研究は、危険因子の探索やその量反応関係を知るために行われるが、得られた結果を利用して個別
の患者の転帰を予測する臨床予測モデルをつくることができる。いずれもリサーチ・クエスチョンを立て、明確
なプロトコールを作成して実践する。その手順や背景知識を紹介する。
10 月 10 日(土) 10:30〜12:00
長寿社会と職場の健康管理
垂水 公男 (尼崎市産業医・尼崎保健所次長)
概要: 従来、職場の健康管理は、働き盛りの中高年、生産年齢人口を主たる対象として取り組まれてき
た。
しかしながら、近年の人口構成の高齢化とその帰結としての年金受給者の増加は、年金制度の破綻を予測
させ、その結果として定年延長や「生涯現役社会」といった議論の発端となっている。事実、健康長寿社会
推進基本法の制定が進められており、その中でも明確に生涯現役社会の実現が志向されている。こうした
社会全体の潮流は、当然に事業所における健康管理のあり方にも影響を与えつつあり、中高年に対する健
康の保持増進から、継続的な労働能力の維持向上への移行が必要と考えられる。現在の健康管理とこれ
から健康管理のあり方について考えてみたい。
10 月 10 日(土) 13:00〜14:30
がん統計資料の読み方とがん対策
中山 富雄 (大阪府立成人病センター がん予防情報センター 疫学予防課長)
概要: がん対策基本法の制定後、国や都道府県は地域の実情・現状に則したがん対策を計画・立案し実行
するとともに、その進捗状況を評価・修正していくことが必要とされている。これらの対策の重要な資料として、
地域がん登録が位置づけられている。この講義では、がん登録資料に基づく主ながんの罹患・死亡・生存率・
早期割合などの情報から我が国のがんの問題点・方向性を明らかにし、それを元にどのようながん対策が講
じうるかを議論する。
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10 月 10 日(土) 14:40〜16:10
医療情報の収集と活用〜「がん情報サービス」
による情報提供を例に〜
高山 智子 (国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報提供研究部部長)
概要:病気にかかったときに、多くの人にとって“情報は力”となる。医療に関する情報がどのようにして人々の
力になることができるのか、またその情 報を提供する際にはどのような配慮と体制が必要になるのかなど、が
ん対策情報センターで提供されている「がん情報サービス」の情報提供方法と体制整備を例に一緒に考えた
い。
10 月 10 日(土) 16:20〜17:50
こころの健康と社会
喜多村 祐里 (大阪大学大学院医学系研究科 社会医学講座 環境医学 准教授)
概要:社会医学とは、人間の安全かつ健康的で幸福な生活を支えるとともに、人間らしい医療の在り方を模索
することにある。専門分野である精神疾患(心の病)領域において、“医療の均てん化”や地域や職域などの集
団における“予防”対策を講じる上で重要となるのは患者調査や受療行動調査などによる実態把握と疫学的
解析による基づく客観的なエビデンスであると考える。ここでは精神医学領域における疫学的アプローチの重
要性について述べる。さらに、「社会脳」プロジェクトと呼ばれる脳科学研究のトピックにも触れながら、精神疾
患領域において今後、推進すべき対策とその実践にむけた研究展開について概説する。
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