徐々に進行する右下腹部・ 大腿部痛を主訴に受診した 58歳男性 喜界徳洲会病院 宇治徳洲会病院 影井 祐介 [Back Ground] 高血圧で内科通院中のADL自立した58歳男性 [主訴] 右腹部・大腿部痛 [現病歴] 来院2か月前から食欲はあったが、大好きだったお酒が全く欲しくなくなってしまった。 (2ヶ月で5Kgの体重減少) 1ヶ月ほど前から右下腹部・大腿部に違和感認め、次第に痛くなっていった。 来院6日前(6/4)から何かに掴まらないと歩行困難となった。 疼痛が全く良くならないため受診。 [既往歴] 高血圧、アルコール性肝障害、手術歴なし [内服歴] オルメテック10mg、アテノロール25mg、アムロジン5mg、デパス0.5mg頓用 [社会歴] ADL自立、職業:遺跡発掘作業員 smoking:20本/日×25年程度 alcohol:焼酎3合/日 来院時現症 [vital sign] GCS E4V5M6 BP:114/66mmHg HR:76bpm BT:35.2℃ SpO2:98% [身体所見] 全身状態良好 眼瞼結膜貧血なし、眼球黄染なし 呼吸音・心音異常なし 腹部:平坦、軟、腸蠕動音nomal、右下腹部に圧痛あり、 tapping painなし 背部:脊柱叩打痛・圧痛なし、CVA叩打痛なし 右股関節屈曲時に疼痛著明 来院時検査所見 [LABO] 白血球数 赤血球数 ヘモグロビン 血小板数 CRP定量 AST(GOT) ALT(GPT) γ-GTP 総ビリルビン 14400/μl 382万 /μl 11.8 g/dl 64.9万 /μl 15.70mg/dl 43 IU/l 48 IU/l 165 IU/l 0.5 mg/dl アルブミン クレアチニン TG Glu ナトリウム カリウム クロール PT-INR APTT 3.1 g/dl 0.96 mg/dl 103 mEq/l 108 mg/dl 142 mEq/l 5.1 mEq/l 103 mEq/l 1.23 36.5 SEC CEA CA19-9 1.7 U/ml 8.4 ng/ml [腹部エコー] 盲腸部に88×44mmの腫瘤あり、腫瘤内に豊富な血流認める 周囲にリンパ節腫大あり [腹部造影CT] [腹部造影CT] 盲腸部に腫瘤あり 腸腰筋内に辺縁に 造影効果のある 腫瘤あり Problem Lists #盲腸部腫瘤・膿瘍 #腸腰筋膿瘍 #炎症反応高値 #右下腹部・大腿部痛 #肝機能障害 盲腸部(虫垂)の膿瘍が腸腰筋に波及した? 盲腸癌? 虫垂癌? 腸腰筋膿瘍が盲腸(虫垂)へ波及? 初期方針 ・内科的には抗生剤投与で膿瘍を散らしてみる ・CFして盲腸・虫垂部を観察 → 悪性腫瘍疑わしければ 外科手術へ ・セフメタゾール 1g×3回/日 ・入院2日目(6/11)にCF予定 入院後経過 2日目(6/11) CF施行 所見:上行結腸まで挿入 盲腸みえる範囲でn.p. →7日後(6/18)に再検査を予定。 3日目(6/12) 抗生剤にバンコマイシン 1g×2回/日を追加 症状、身体所見は著明に改善 9日目(6/18) CF再検 所見:回腸末端まで挿入 虫垂開口部は狭窄し、粘膜下 腫瘍様を呈する隆起を伴う硬結として触知 診断:虫垂癌疑い 入院後経過 入院10日目(6/19) 血培陰性確認し、バンコマイシン投与終了 外科手術必要な旨ムンテラするも、本人拒否 入院15日目(6/24) セフメタゾール終了し、抗生剤は経口(オグサワ)へ変更 本人、外科手術受け入れ 入院21日目(6/30) 退院。 手術加療目的に名瀬徳洲会病院へ 手術所見① 尾側 頭側 回盲部に硬く触れる 腫瘤あり、右腸腰筋 に高度に癒着 ・回盲部から上行結腸を 剥離して右半結腸切除 ・右腸腰筋内にabscess 遺残あり、開いて洗浄 切除標本 腫大した虫垂 切開すると2か所 に憩室あり →虫垂憩室穿孔 虫垂開口部に硬結あり →悪性否定できず ところで ここは?? と聞かれたら。 そう、 フィジカルの国 ! ! 本症例における身体所見(腹部)は? やや前かがみ姿勢 McBurney圧痛店(+)、Lanz圧痛店(-) Rosenstein徴候(-)、Rovsing徴候(-)、 Psoas徴候(+) こういう所見を見たとき。まずは? ①まずはエコーから ②いやいやCT切っちゃえ ③炎症反応みたい。はやく採血! ④興奮する。 虫垂炎の身体所見 • 腹痛(初期は心窩部痛の内臓痛、進行すると右下腹部に限局する 体性痛)。通常、悪心・嘔吐症状に先行する。 • 圧痛点(McBurney点、Lanz点、Kummel点) • 腹膜刺激徴候 Rovsing徴候 Rosenstein徴候 Psoas sign Heel Drop sign 腹痛、圧痛点 • 疼痛→嘔気・嘔吐→圧痛→発熱→白血球増加 の順で起こるとされる。 • 嘔吐が腹痛に先行してあればかなり否定的。 • 右下腹部の圧痛は最も重要な身体所見。 感度は84%、特異度90% 腹膜刺激徴候 • Heel dropが有効(感度93% 特異度92%) • 反跳痛(感度63%特異度69%)、筋性防御(感度73%特異度52%)、 筋硬直(感度20%特異度89%) • 立位がとれない場合には、咳をさせたり、tappingをすることで反跳 痛より有用な診察ができると考えられている。 虫垂炎の徴候 • Psoas徴候(腸腰筋への炎症波及) 股関節を進展させると痛みが誘発される • Obuturator徴候(閉鎖筋・骨盤内への炎症波及) 右股関節内旋で疼痛が誘発される • Rovsing徴候 下行結腸のガスを押しやると右下腹部痛が誘発される • Rosenstein徴候 左側臥位でMcBurney点の圧痛が強くなる 腸腰筋膿瘍を形成したとき • 発熱や下腹部痛、腰部痛など 非特異的な症状。 • 腹膜刺激徴候は無いこともある。 • 股関節が屈曲し進展制限を認 める(Psoas position) →患者は前屈みの姿勢をとる • Psoas徴候(右図) ちなみに腸腰筋って? 腸腰筋膿瘍といえば、 大腰筋、腸骨筋どちらか 一方のみに膿瘍を形成 する場合もある。 ジャマイカの短距離トップ選手は大腰筋の筋量 が日本人選手の約2倍あるそう… Psoas徴候・・・本当に痛い人を寝かせて横に向けて足曲げるの 大変そう… 立位 + 前かがみ姿勢 をヒントに。 こんな所見はどうでしょうか? 結語 • 徐々に進行する右下腹部・大腿部痛を主訴と し、盲腸部腫瘤・腸腰筋膿瘍の診断で内科的 治療から外科手術に至った一例を経験した。 • 血液検査や画像所見だけでなく、日々ベッドサ イドで身体所見をとることで病状の変化を鋭 敏に感じることが出来た。
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