集団的自衛権行使容認と立憲主義の関係について

法と教育学会
第 6 回学術大会
第 6 分科会-①
集団的自衛権行使容認と立憲主義の関係について
-政府の憲法解釈の批判的法学習-
松井克行(西九州大学こども学部)
集団的自衛権行使容認に対し,なぜ多数の憲法学者が反対するのか,その理由を検討しよう。
集団的自衛権行使を限定的に容認する安倍晋三内閣の閣議決定(2014 年7月1日)
「…略…我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず,我が国と密接な関係にある他国
に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福
追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において,これを排除し,我が国の存立
を全うし,国民を守るために他に適当な手段がないときに,必要最小限度の実力を行使するこ
とは,従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として,憲法上許容されると
考えるべきであると判断するに至った。」
(「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のな
い安全保障法制の整備について 」
)
(安倍内閣閣議決定,2014 年7月1日より抜粋)。
「集団的自衛権行使容認」論への憲法学者ら専門家の主な反対論と法的根拠
・立憲主義の観点から,
「集団的自衛権行使容認」という,憲法9条の解釈の枠を逸脱する解釈変
更は許されない。
「憲法九条を集団的自衛権が可能な意味に解釈変更すること…略…は,解釈の限界を超え違憲で
あるから,このような解釈は立憲主義に反する」
(高橋和之「立憲主義は政府による憲法解釈変更
を禁止する」奥平康弘・山口二郎編著『集団的自衛権の何が問題か-解釈改憲批判-』岩波書店,
2014 年,pp.196-197)
。
「立憲主義の核心は権力の抑制にある」
(愛敬浩二「立憲主義・法の支配:安倍『改憲・壊憲』と
立憲主義・法の支配」森英樹編『別冊法学セミナー:集団的自衛権行使容認とその先にあるもの』
日本評論社,2015 年,p.46)
。
・
「集団的自衛権行使」容認の根拠に「砂川事件最高裁大法廷判決(1959 年 12 月 16 日)
」を用
いる高村正彦自民党副総裁(弁護士)の説明は,論理的に破綻しており,誤りである。
「簡単に言えば,
『米軍に駐留してもらうことによって自分の国を守る権利はあるよ』という判決
を根拠に,自衛隊については合憲とすら言っていないのに,
『他国を守るために自衛隊で戦ってい
いよ』という結論を導くのは,どう考えても無理だろう」
(小林正弥「憲法政治における集団的自
衛権と憲法解釈―コミュニタリアニズム的観点(一)」千葉大学法経学部法学科『千葉大学法学論
集』第 29 巻第 1・2 号,2014 年 8 月,pp.289-290)
。
・
「集団的自衛権行使容認」の閣議決定にも関わらず,憲法上,集団的自衛権行使の権限を定めた
規定がないので認められない。
「これまで政府は,九条の存在ゆえに,防衛作用を行政作用の一部として,憲法七三条にいう『一
般行政事務』と理解してきた。しかし集団的自衛権の典型としての他国の防衛は『一般行政事務』
で説明することは不可能である。そして当然のことながら,七三条で内閣に認められた職務の中
には,宣戦布告や講和など軍事に関わる権限(参照,大日本帝国憲法一三条)が明記されていな
い。したがって,そもそも閣議決定によって変更できる内容であるのかについて,大きな疑問が
ある」
(青井美帆「私たちに何が求められているか」奥平康弘・山口二郎編著『集団的自衛権の何
が問題か-解釈改憲批判-』岩波書店,2014 年,p.88)
。