教科書採択への政治介入に対して抗議する緊急声明 近年、安倍政権・自民党をはじめ、各地方自治体においても、教育現場に対する政治介 入の度をますます進めてきており、現在の教育現場はきわめて危険な状態にある。 実際の教科書採択の現場では、露骨な政治介入が見られる。既に、義務教育課程のため 影響力のたいへん強い中学校の教科書に関しては、2011 年の教科書採択の際、自民党は侵 略戦争を美化する育鵬社の歴史教科書や公民教科書の採択を全国各地で推進した。また、 高校の教科書に関しては、2013 年に東京都・神奈川県・大阪府・大阪市の教育委員会が、 実教出版『高校日本史』の記述が当該の各教育委員会の考え方と異なるなどとの見解を発 表し、検定に合格しているにもかかわらず当該教科書を採択しないよう圧力をかけ、東京・ 神奈川の都県立高校での採択はゼロになった。 さらに、2014 年に検定申請の中学校社会科教科書に関して、安倍政権は 2014 年 1 月、 教科書検定基準の「見直し」を行った。あわせて安倍政権は「学習指導要領の解説書」の 改訂も行い、領土教育の強化を目的に、尖閣諸島と竹島を「我が国固有の領土」と明記、 尖閣諸島には解決すべき領有権の問題は存在しないことなどを盛り込んだ。このような措 置は、教科書記述に対する統制の度合いを強め、特に領土問題に関しては政府見解を丸写 ししたような教科書記述になるよう仕向けるものである。 これら教育に対する政治介入を進める根拠として、安倍政権は教科書採択の権限を有す る教育委員会制度を改悪する法案を、2014 年 6 月の参議院本会議で可決・成立させた。こ の法律は、教育委員長と教育長を一本化した新教育長を首長が直接任命し、教育委員会の トップにすえ、これまで教育委員会にあった教育長に対する任命権や指揮監督権をなくす ものである。つまり、この法律は、教育委員会の独立性・自主性をなくし、国と自治体首 長の支配下に置く改悪であり、決して認めるわけにはいかない。 そして、本年 2015 年は、 「教育再生」を掲げる安倍政権の下で初めての、中学校教科書 採択の年である。現在の教育に対する政治の露骨な介入の流れを見ると、私たちは強い危 機感を持たざるをえない。 以上述べてきた近年の教育に対する政治介入の危険性に対して私たち歴史科学協議会は 抗議の声をあげるとともに、各教育委員会が政治介入に屈せず、教育現場と市民の声に真 摯に耳を傾けて教科書採択をするよう、強く求めるものである。 2015 年 7 月 10 日 一般財団法人 歴史科学協議会
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