活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 114 川口幸治 衣料用液体洗剤基剤 当社活性剤研究部 ユニットマネージャー [ 紹介製品のお問い合わせ先 ] 当社生活・繊維本部生活産業部 国内の衣料用洗剤の市場規模 ぼしのしみなど)があり、衣類の 鎖の一部にプロピレンオキシド (2013年) は販売数量で約75万㌧、 種類、部位、季節などによって汚 (PO)を付加させた非イオン界面 販売金額で約1,900億円である。 れの組成、付着量は変化する。一 活 性 剤 が 主 に 使 用 さ れ て い る。 図1に示すとおり、販売数量から 般的には皮脂を主体とする油脂汚 AEは、アニオン界面活性剤と比 みると国内の衣料用洗剤市場は横 れやタンパク質汚れと泥などの無 * が 較して臨界ミセル濃度(c.m.c) ばい傾向であるが、節水タイプの 機汚れからなる複合汚れである。 低く、低濃度で油脂に対する界面 ドラム式洗濯機の普及やすすぎ回 洗剤基剤としては、油脂汚れに対 張力を低下させるため、少量で優 数を低減したコンパクト型液体洗 して洗浄力の高い非イオン界面活 れ た 洗 浄 力 を 示 す。 こ の た め、 剤の普及に伴い、2011年には液 性剤と無機汚れの分散能の高いア AEは液体洗剤基剤として最もよ 体洗剤市場が粉末洗剤市場を追い ニオン界面活性剤が併用される。 く使用されている。 越し、2013年には液体洗剤比率 このなかでも液体洗剤には高級 当社の衣料用液体洗剤基剤 が約60%と液体化が進んでいた アルコールのエチレンオキシド 液体洗剤には、①低温流動性に 欧米並みの水準まで拡大している。 (EO)付加物(AE)や、さらに低温 液体洗剤のなかでは、近年、洗 *臨界ミセル濃度 (c.m.c) :界面活性剤のミセルが 流動性を向上させるためAEのEO 形成される最低濃度 剤中の界面活性剤濃度を高め、ボ 90 トルサイズをコンパクト化した濃 80 70 粉末洗剤販売数量 ( 左目盛 ) 液体洗剤販売数量 ( 左目盛 ) 液体洗剤比率 ( 右目盛 ) 60 縮洗剤の普及が急速に進んでいる。 70 つまり、界面活性剤を従来の2倍 きるため、洗剤ボトルのコンパク ト化(ボトルサイズが1ℓから0.5 ℓ)が可能となる。しかしながら、 40 50 40 (万㌧) 30 (%) 30 20 20 高濃度化に伴って液体洗剤そのも のの粘度が上がってしまうため、 10 10 0 このコンパクト化を実現するには、 ,06 ,07 ,08 ,09 ,10 図1●国内の衣料用洗剤市場 活性剤が求められる。 表1●衣料用洗剤に使用される代表的な界面活性剤 衣料用洗剤基剤として使用され る代表的な界面活性剤を表1に示 す。衣類に付着する汚れは、人体 由来の汚れ(皮脂、汗など)と外部 由来の汚れ(泥、ほこり、食べこ ,11 ,12 ,13 0 出所:経済産業省統計データ 特に低温時の流動性に優れた界面 衣料用液体洗剤基剤 液体洗剤比率 回当たりの洗剤使用量を半分にで 50 60 販売数量 近く配合することにより、洗濯1 イオン性 代表的な界面活性剤 長鎖脂肪酸塩 (せっけん) 構 造 R−COO−Na+ (LAS) R−C6H4−SO3−Na+ アニオン 直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩 アルキルエーテル硫酸エステル塩 (AES) R−O−(CH2CH2O)n−SO3−Na+ ポリオキシエチレンアルキルエーテル (AE) R−O− (CH2CH2O)n−H 非イオン ポリオキシアルキレンアルキルエーテル R−O− (AO)n−H 洗剤への適用性 粉末洗剤 液体洗剤 ○ △ ◎ ○ ◎ ○ ○ △ ◎ ◎ R:アルキル基、AO:エチレンオキシド、プロピレンオキシドなど ◎:主剤として非常によく使用される ○:主剤として比較的よく使用される △:ときには使用されることもある 三洋化成ニュース ❶ 2015 春 No.489 表2●当社の主な衣料用液体洗剤用非イオン界面活性剤 製品名 主成分 特 長 エマルミンNLシリーズ ポリオキシエチレン ラウリルエーテル 天然アルコール系EO付加物 ナロアクティ−CLシリーズ ポリオキシアルキレン アルキルエーテル 従来のAEよりEOの分子量分布の狭いナロー化高級アルコールエトキシレート。 界面張力低下能良好、浸透力および洗浄力に優れる。すすぎ性良好 ナロアクティ−IDシリーズ ポリオキシエチレン アルキルエーテル 従来のAEよりEOの分子量分布の狭いナロー化高級アルコールエトキシレート。 浸透力に優れる エマルミンFLシリーズ ポリオキシアルキレン ラウリルエーテル 天然アルコールのアルキレンオキシド付加物。 低温流動性に優れ、冷水への溶解速度が速い サンノニックFNシリーズ ポリオキシアルキレン アルキルエーテル 合成高級アルコールのアルキレンオキシド付加物。 低温流動性に優れ、冷水への溶解速度が速い サンノニックSSシリーズ ポリオキシエチレン アルキルエーテル 二級アルコールのエチレンオキシド付加物で浸透力に優れている 表3●『ピュアミール』シリーズの物性と特長 製品名 ピュアミール PPE 103 ピュアミール CF 60 淡黄色∼ 黄色液状 EP 300S』、右が従来型ポリ オキシアルキレンアルキルア ミン EO付加反応時の反応条件を調整 外 観 pH 曇点 (℃) 凝固点 (20±5℃) (1%水溶液)(1%水溶液) (℃) ピュアミール EP 300S 写真 1 ●左が『ピュアミール 特 長 9.0 81 −8 脂肪酸汚れの洗浄力良好 (液体洗剤に好適 ) 10.0 >95 5 鉱物油汚れの洗浄力良好 10.0 76 <0 食物油汚れの洗浄力良好 し、EO付加時に発生する不純物 の生成を抑制することでポリオキ シアルキレンアルキルアミンの淡 色化に成功した。 2011年に皮脂汚れの主成分で 優れること、②洗浄力に優れるこ な洗浄基剤が求められている。こ ある脂肪酸や油脂汚れの洗浄性に 優れた『ピュアミールEP-300S』 と、③すすぎ性が良好なことが求 のニーズに応えるべく、当社はポ を開発し、好評を得ている。さら められている。当社もこのような リオキシアルキレンアルキルアミ に、脂肪酸のような皮脂汚れだけ 要求性能に応えるべく各種非イオ ン型非イオン界面活性剤『ピュア ではなく、機械油(鉱物油)や食物 ン界面活性剤を取りそろえている ミール』 シリーズを開発した。 油(トリグリセリド)などの疎水性 [ 表2] 。天然アルコール系EO付 これまでポリオキシアルキレン の高い頑固な汚れに対応するため、 加物である『エマルミンNL』シリ アルキルアミン型非イオン界面活 アルキル基の鎖長および親水性/ ーズや合成アルコール系EO付加 性剤は、脂肪酸や油脂類の乳化性 物で当社独自の合成技術(ナロー に優れることは知られていたが、 疎水性のバランスを調整した『ピ ュアミールPPE-103』と『ピュア 化技術)を用いてEOの分子量分布 写真1に示すように従来型のもの ミール CF-60』を開発した。 『ピ を従来より狭くした高級アルコー は着色が大きく、透明感や清潔感 ュアミールPPE-103』は機械油汚 ルエトキシレート『ナロアクティ といったイメージが求められる家 れの付着が多い作業着用洗剤の洗 ー CL、ID』シリーズなどの各種 庭用の衣料用洗剤には適用できな AEを有する。また液体洗剤への かった。当社は、独自のアルキレ 剤基剤として、 『ピュアミール CF 60』は食物油汚れを落とす洗 配合に適し低温流動性に優れる ンオキシド付加技術により淡色化 [表3] 。 剤基剤として適している 『エマルミンFL 』シリーズ、 『サン に成功し、家庭用衣料洗剤への適 『ピュアミール』 シリーズの特長 ノニックFN』シリーズおよび『サ 用を可能とした。 ①洗浄力 ンノニックSS』シリーズなども取 アルキルアミンへEOを付加す 前述のように、対象となる汚れ りそろえる。 る方法としては、アルカリ触媒を は皮脂を主体とする油脂汚れやタ 用いて高温(130 ∼ 150℃)で行 ンパク質汚れ、泥などの無機汚れ シリーズ うのが一般的である。アルキルア である。特に、皮脂汚れの主成分 さらなる液体洗剤のコンパクト ミンはアルカリ存在化でカチオン は脂肪酸やトリグリセリドなどで 化に伴い、従来のAEと比較して 化し、このカチオン化物が熱によ あり、これらを除去することが洗 少量で高い洗浄力を有し、低温流 り分解して着色原因となる不純物 浄力向上のポイントとなる。洗浄 動性に優れ、かつすすぎ性が良好 が生成する。そこで、当社では 力を高めるためには、油脂と洗浄 当社開発品『ピュアミール』 三洋化成ニュース ❷ 2015 春 No.489 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 衣料用液体洗剤基剤 AE(ラウリルアルコール EO10 モル付加物) 従来型ポリオキシアルキレンアルキルアミン ピュアミール EP-300S 10 界面張力 8 洗浄力 良好 洗浄力 12 皮脂汚れ 60 機械油汚れ 50 6 (mN/m) 4 (%) 40 2 30 0 0 0.005 0.01 0.015 0.02 界面活性剤濃度 (%) 0.025 [ 測定方法 ] ペンダントドロップ法:25℃の油脂中に針先より界面活性剤の液滴を作り、 その形状から界面張力を測定した 図2●非イオン界面活性剤水溶液の油脂に対する界面張力低下能 ピュアミール ピュアミール PPE‐103 EP‐300S 0.03 濃度 120ppm 120ppm 240ppm [ 洗浄力の試験方法 ] 洗浄方法:ターゴトメーター 温度:25℃ 時間:10 分 洗浄前後の試験布の反射率から算出した 図3●『ピュアミール』シリーズの洗浄力 EL>@G?I 8,000 高級アルコール型 非イオン界面活性剤 AE(ラウリルアルコール EO10 モル付加物) ピュアミール EP-300S )+'FLHABD@IBJK@IB ゲル化 % ゲル化 7,000 96@IC?I 従来型ポリオキシアルキレンアルキルアミン #3 96@IC?I #3 EO 付加物 高級アルコール 親水基 高級アルコール EO/PO 付加物 粘度 5(:=; 疎水基 6,000 5,000 4,000 (mPa・s) 3,000 ポリオキシアルキレン アルキルアミン型 非イオン界面活性剤 2,000 親水基 疎水基 親水 基 1,000 0 20 30 40 50 60 70 界面活性剤濃度 (%) 80 90 -*"2( [ 試験方法 ] 界面活性剤を水で希釈し、5℃のときの各濃度での粘度を B 型回転粘度計にて測定した 図4●非イオン界面活性剤の構造 図 5 ●非イオン界面活性剤水溶液の低温流動性 溶液の界面張力を小さくすること ②低温流動性 面活性剤水溶液の流動性が優れる が必要となる。 コンパクト化に伴い界面活性剤 だけでなく、すすぎ時の泡切れ性 ポリオキシアルキレンアルキル を高濃度で配合するため、低温時 が良好なこと、すすぎ後の衣類へ アミン型である『ピュアミール EP -300S』は、水溶液中では弱い の流動性に優れていることが求め の界面活性剤の残留量が少ないこ られる。ポリオキシアルキレンア とが求められる。 カチオン性を示すため、汚れの主 ルキルアミン型である『ピュアミ 『ピュアミールEP-300S』の起 成分である脂肪酸や水中でアニオ ール』シリーズは、アルキルアミ 泡力はAEと比較して低く、泡切 ン性に帯電した汚れに対しての吸 ンにアルキレンオキシドを付加し れ性も優れることから、衣類への 着性が高く、低濃度でも優れた界 たものであり、親水基部分が2鎖 残留が少なくすすぎ性が良好であ 面張力低下能を示す。したがって 型の構造[図4]をとり高い親水性 [図6、 7] 。最近のコンパクト型 る 衣料用洗剤基剤として代表的な非 を示す。そのため高濃度に配合し 液体洗剤の特長である、すすぎ1 イオン界面活性剤(例えばラウリ た場合でもゲル化せず、AEと比 回で洗濯可能な節水型洗剤の洗剤 ルアルコールEO10モル付加物) 較して水溶液の低温流動性にも優 基剤として有用である。 と比べて、1/2の濃度でも高い洗 [図5] 。 れていることがわかる 浄力を発揮することができる。ま ③すすぎ性 用例 た、作業着などに付着した頑固な 最近の液体洗剤はコンパクト化 『ピュアミール』シリーズを使用 機械油汚れに対して組成を最適化 した『ピュアミールPPE-103』も に加え、洗濯時の節水化に伴い、 した液体洗剤の配合処方例を表4 すすぎ回数を低減(従来の2回か に示す。従来のAEを用いてコン 同様に従来のAEと比較して高い ら1回)するニーズが高まってい パクト化するためには、界面活性 [図2、 3] 。 洗浄力を示す る。そのため、洗剤基剤である界 剤の高濃度化と洗剤の低温流動性 三洋化成ニュース ❸ 2015 春 No.489 『ピュアミール』 シリーズの使 活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス 衣料用液体洗剤基剤 界面活性剤の残存率 すすぎ性 良好 14 直後 25 5 分後 AE(ラウリルアルコール EO10 モル付加物) ピュアミール PPE-103 ピュアミール EP-300S 12 20 10 15 泡高さ 10 (%) 8 6 4 (%) 5 2 0 0 ピュアミール EP‐300S 洗浄後 すすぎ 1 回 [ 試験方法 ] 各種界面活性剤水溶液(240ppm)20mℓを 100mℓメスシリンダーに入れ、 手振りにて 20 回振とうした後、直後と 5 分後の泡高さを測定した 図6●『ピュアミール EP‐300S』の泡切れ性 図7●『ピュアミール』シリーズのすすぎ性 液体洗剤の今後の課題 表4●『ピュアミール』シリーズを使用した液体洗剤の配合処方例 洗剤構成成分 すすぎ 2 回 [界面活性剤の残存率測定方法]ターゴトメーターで洗浄し、脱水後、すすぎ 1 回目と 2 回 目で用いた試験布 (70g) をイオン交換水(1000mℓ)にて試験布に含まれる界面活性剤残存 分を抽出し、LC-MS(島津製作所製 LC-MS2010EV)にて界面活性剤の定量分析を行い、 各サンプルの使用量と残存量から界面活性剤残存率を算出した LC-MS での検出濃度 (ppm) 界面活性剤残存率 (%)= ×100 サンプルの使用濃度 (ppm) AE(ラウリルアルコール 従来型 ポリオキシアルキレン EO10 モル付加物) アルキルアミン 含有量 (%) これまで述べてきたとおり、最 処方例−1 処方例−2 処方例−3 処方例−4 比較例−1 比較例−2 比較例−3 近の洗濯事情から、節水化、時間 ピュアミールEP -300S ピュアミールPPE -103 20 − 20 − − 20 − 20 − − 短縮や環境負荷低減などの消費者 エマルミンNL-100 5 5 − − 25 20 − ニーズの高まりにより、より高性 LAS − − 5 5 − 5 50 ポリカルボン酸塩 1.5 1.5 − − 1.5 − − アルカリ剤 トリエタノールアミン − − − − 3 3 3 特にドラム式洗濯機の普及やすす プロピレングリコール − − − − − − 10 ぎ1回コースの選択による節水化 73.5 73.5 75 75 73.5 75 47 界面活性剤 ビルダー 溶 剤 水 − − 能の洗剤基剤が求められている。 の流れは加速化している。 使用量(g/30ℓ) 20 10 20 10 20 10 20 10 20 20 10 洗浄力(%) 65 58 60 52 55 50 59 53 49 44 49 そのため長期間での繰り返し洗 再汚染防止率(%) 94 90 93 91 91 88 94 90 92 89 82 濯により、汚れの再付着などの要 ており、短時間での高い洗浄力が 因による衣類の黒ずみを防止する 『ピュアミール』 シリーズは、 低温流 求められている。 『ピュアミール』 ニーズも顕在化してきており、液 動性に優れており、溶剤を使用す シリーズを使用した洗剤では、従 体洗剤のみならず衣料用洗剤全体 る必要がない。さらに少量でも優 来のAEを使用した洗剤と比較し の今後の課題といえる。当社はこ れた洗浄力を示すため、AEを用 て短時間でも高い洗浄力を示す れらのニーズに対応した衣料用洗 の両立のために溶剤が用いられる。 いたコンパクト型洗剤と同じ洗剤 使用量でも、洗剤中の界面活性剤 75 濃度を1/2以下に減らすことがで 70 き、環境への排出量を低減できる。 65 AEに対して優れているだけでな く、従来型のポリオキシアルキレ ンアルキルアミンと比較しても、 着色、低温流動性、泡切れ性が優 れている。 最近は消費者のニーズとして洗 濯時間のさらなる短縮化が高まっ " [試験方法] 洗浄方法:ターゴトメーター 温度:25℃ 時間:10 分 試験布:湿式人工汚染布 (洗濯科学協会製) 洗浄前後の試験布の反射率から 60 ! ように『ピュアミール』シリーズは 処方例‐1 処方例‐4 比較例‐1 比較例‐2 洗浄力 また、写真1、図5、図6で示す 剤基剤の開発を今後も進めていく。 [図8] 。 55 (%) 50 算出した 45 [洗剤使用量] 処方例‐1:10g/30ℓ 処方例‐4:10g/30ℓ 比較例‐1:20g/30ℓ 比較例‐2:20g/30ℓ 40 35 3 4 5 6 7 8 洗浄時間(分) 図8●各種洗剤の洗浄時間と洗浄力の関係 三洋化成ニュース ❹ 2015 春 No.489 9 10 11 ※処方例および比較例は表4を参照
© Copyright 2024 ExpyDoc