A 発 熱

208
蠹
各科編
1 小児科
A 発 熱
fever
1
小
児
科
ここが大事!
時間外受診で最も多い主訴で,ほとんどが軽症の急
性気道感染症によるが,髄膜炎や脳炎・脳症などの重
症疾患を見逃さないよう,常に疑いをもって診察に当
たることが重要である
緊急度
見逃すと致死的
見逃すと危険
緊急性なし
多い 急性化膿性髄膜炎, 気管支炎・肺炎,脱水 急性気道感染症
脳炎・脳症,熱中症 症,虫垂炎,川崎病 (かぜ症候群),
尿路感染症
まれ 心筋炎
化膿性関節炎・骨髄炎,
尿崩症
緊急処置
蘆病歴から明らかに熱中症が疑われる場合のみ,積極的なクーリ
ングを行いながら小児科にコンサルトする。
蘆全身状態の悪い患児では,蘇生の ABC が完了次第,速やかに
小児科にコンサルトする。決して検査やライン確保のために無
駄な時間を費やさない!
鑑別診断
病歴聴取・身体所見
蘆発熱の程度と持続時間,随伴症状,哺乳量・食欲,尿量,泣き
声・活動性,育児環境,母親を含む周囲の発熱者の有無などを
聴取する。
蘆一般状態,髄膜刺激症状,大泉門,皮膚,関節,鼓膜などの診
蠹
各科編 209
察を行う。
乳児の診察の際は,必ずオムツ 1 枚にして,全身を診察する。
小児診察のキモ!
蘆意識障害やけいれんはないか?
A
蘆顔色や全身状態は悪くないか?
発
熱
蘆強い頭痛や嘔吐はないか?
蘆激しい痛みを伴っていないか?
蘆多呼吸や呼吸困難はないか?
蘆極端な頻脈または徐脈はないか?
蘆生後 3 か月未満の発熱ではないか?
蘆発育の遅れを伴う基礎疾患を持った小児ではないか?
検 査
蘆血液検査(白血球や CRP などをチェック)と胸部 X 線検査
(気管支炎や肺炎を鑑別する)を行う。
蘆これ以上の精査は小児科医に依頼すべきである。
必要な処置・治療
一般状態が良好であり,3 日以内の発熱であれば,通常,血液
検査や点滴加療は必要ない。しかし,生後 3 か月未満の場合は,
初日の発熱で一般状態が良好であっても,必ず小児科にコンサル
トする。
解熱薬の使用法
蘆体温が 38.5 ℃以上の場合(1 歳未満なら 39 ℃以上が好ましい)
蘆小児では,アセトアミノフェンが第一選択であり,インフルエ
ンザ罹患時にも使用可能である。それ以外の解熱薬は処方しな
い方が賢明である。
処方例
アンヒバ坐剤またはカロナール
10 mg/kg/回(成人の 1 回量
は 300 ∼ 500 mg) 6 時間以上あけて 1 日 3 回程度が好ましい
※機嫌が良く,元気があれば使用しなくても良い。特に,生後
6 か月未満の場合ではできる限り使用しないこと。
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蠹
各科編
診療後の患児の処遇
蘆緊急度を判断することが当直医の役割であることを家族に伝え,
必ず翌日にかかりつけの小児科を受診するように指導する。
1
小
児
科
蘆新たに気になる症状などがみられる場合は,朝まで待たずに必
ず再診するように伝える。
まさかの
落とし穴
普段一緒にいる家族の訴えが非常に参考になります。「いつ
もの熱のときと様子が違うんです」,「今日は何か変なんです」
などの訴えに敏感であるべきです。また,異常に大げさな家族
は,後日トラブルケースになる可能性があり,逆に,反応が悪
く,児にあまり関心を示さない家族の場合は虐待の可能性も否
定できません。このような場合は,念のため小児科にコンサル
トしましょう!
先輩からのアドバイス
子供によって症状の訴え方は違うし(大げさな児,我慢強い
児,あるいはまだ言語を獲得していない児など),暴れたり大
泣きしてうまく診察させてくれない児もいます。うっかり,子
供のペースに持ち込まれて重症な疾患を見落とすこともありま
す。イライラしてしまったときこそ“冷静かつ慎重に!”
蠹
各科編 211
1 小児科
B 腹 痛
abdominal pain
B
ここが大事!
小児の腹痛の原因で最も多いのは便秘である。しか
し,幼児は息苦しさや頭痛でも「ポンポン痛い」と訴
えることがあるため,腹部疾患にこだわり過ぎないよ
う注意する!
緊急度
多い
腸重積症,鼠径ヘル
ニア嵌頓
見逃すと致死的
見逃すと危険
緊急性なし
虫垂炎,
血管性紫斑病, 便秘症,ウイル
ス性胃腸炎,心
胃潰瘍,気管支喘息
因性腹痛
まれ
腸回転異常症,イレ
ウス,心筋炎
精巣捻転症,卵巣腫瘍
茎捻転
緊急処置
診断が確定するまでは,むやみに鎮痛薬を使用すべきではない。
鑑別診断
病歴聴取・身体所見
蘆腹痛は,いつから,どういうときに,どのように,どこが?
を聴取する。
蘆随伴症状の有無,月経の有無,家族や周囲の状況なども聴取す
る。
蘆一般状態,腹部を含む全身の所見,姿勢や歩き方などの診察を
行う。
検 査
蘆浣腸:便秘症や腸重積症の診断に有用
腹
痛
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蠹
各科編
1 小児科
F 気管支喘息
bronchial asthma
1
小
児
科
本症は気道の粘膜と筋層にわたる可逆性の狭窄性病変と,持続性
炎症および気道リモデリングにより生じる呼吸障害である。
ここが大事!
急激に症状進行することがあるので,呼吸障害の程
度を素早く判断し,速やかに初期治療(酸素吸入とβ2
刺激薬の吸入)に移る
緊急度
発作程度の判定による
小発作
喘鳴
軽度
陥没呼吸
なし∼軽度
呼気延長
なし
呼吸状態
起坐呼吸
横になれる
チアノーゼ
なし
呼吸数
軽度増加
呼吸困難感(安静時)
なし
生活状態
ほぼ普通
意識障害(意識低下)
なし
吸入前
> 60 %
PEF
吸入後
> 80 %
PaCO2(Torr)
< 41
中発作
大発作
呼吸不全
明らか
著明
減少・消失
明らか
著明
著明
あり
明らか
著明
座位を好む 前かがみ
あり
なし
可能性あり
あり
増加
増加
不定
あり
著明
著明
やや不良
不良
不能
なし
ややあり
あり
30 ∼ 60 % < 30 %
測定不能
50 ∼ 80 % < 50 %
測定不能
< 41
41 ∼ 60
> 60
鑑別診断
蘆主症状は,呼気性喘鳴(笛声音),咳嗽,陥没呼吸,入眠困難,
チアノーゼ,呼気延長,起座呼吸である。典型例は“元気がな
く,肩で息をし,吸気より呼気に時間を要し,ヒューヒューゼ
イゼイの呼気が聞こえる”などを呈している。
蠹
各科編 225
蘆β2 刺激薬の吸入に反応しなかった場合は,気道異物(突然の
発症と異物誤嚥の病歴),細気管支炎(乳幼児で感染症状を伴
う),クループ症候群(吸気性喘鳴,嗄声,犬吠様咳嗽を伴う)
,
先天奇形(大血管奇形や喉頭気管軟化症など),肺炎などの疾
患を考慮する。
F
必要な処置・治療
気
管
支
喘
息
まず吸入治療(小発作∼大発作はβ2 刺激薬の吸入)を行い,
検査,輸液,注射へと以下の順で治療レベルを上げていく。治療
に反応が悪い中発作の遷延や大発作は,基本的に入院治療の適応
と判断し,小児科へコンサルトする。
蘆酸素吸入:SpO295 %未満またはチアノーゼを認めた場合に実施。
蘆β2 刺激薬の吸入
処方例
ベネトリン 0.01ml/kg/回+生理食塩水 2ml
副作用(頻脈,嘔
吐,振戦)に注意し,20 ∼ 30 分ごとに 3 回まで反復吸入が可能
※直前に自宅で吸入していたら,他の治療へステップアップを
考慮する。
蘆検査:呼吸器感染や無気肺の合併の確認のため,血液検査(血
液ガス,血算,生化学)と胸部 X 線検査(2 方向)を行う。
蘆輸液:発作による飲水困難が続いていた場合,脱水に陥ってい
る可能性があるため輸液を開始する。
蘆副腎皮質ステロイド静注
処方例
サクシゾン
7mg/kg/初回(最大 300mg)
以降 3 時間毎に症
状軽快するまで 3 ∼ 4mg/kg/回を静注
※ただし,ヒドロコルチゾンはミネラルコルチコイド作用を有
するため,3 日以上使用する場合はプレドニゾロン 1mg/kg
(最大 20mg)6 時間毎に変更する。この時点で中発作の遷延
と判断し,入院治療を考慮する。
蘆β2 刺激薬の反復吸入
処方例
ベネトリン 0.01ml/kg/回+生理食塩水 2ml
快するまで反復吸入
3 時間毎に症状軽
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蠹
各科編
蘆β2 刺激薬の持続吸入
処方例
アスプール 5 ∼ 10ml +生理食塩水 500ml
インスピロンで持
続吸入(FiO2 0.5 ∼ 1.0,O2 5 ∼ 10l/分)
1
小
児
科
蘆アミノフィリンの持続点滴:アミノフィリンを以下の速度で持
続点滴するように主液バッグに混入する(輸液速度を正確にす
るためポンプを使用すること)。
6 か月∼ 12 か月…0.4mg/kg/時
1 歳∼ 10 歳………0.8mg/kg/時
10 歳∼ …………0.6mg/kg/時
2 歳未満の幼児は,テオフィリン中毒の危険性があるため,持続
点滴は治療に精通した医師のもとでの使用が推奨されている。
蘆経口・貼付薬治療
処方例
【去痰薬】
ムコダイン DS 30mg/kg/日 分 3
ムコソルバン DS 0.9mg/kg/日 分 3
【抗ロイコトリエン薬】
オノンドライシロップ
7mg/kg/日 分 2
朝・夕食後
【気管支拡張薬:β2 刺激薬】
ベラチンドライシロップ
ホクナリンテープ
0.04mg/kg/日 分 2
0.5mg : 0.5 ∼ 2 歳,1.0mg : 3 ∼ 8 歳,
2.0mg : 9 歳以上
【気管支拡張薬:テオフィリン製剤】
テオドールドライシロップ
補足
10mg/kg/日 分 2
朝・就寝前
テオフィリン関連けいれん
テオフィリンを投与した乳幼児にけいけんが出現する事例が
報告されており,これがテオフィリン関連けいれんである。テ
オフィリンは phosphodiesterase を阻害したり,adenosine
receptor を介する刺激を阻害することにより,けいれんなどの
中枢神経症状を起こすと考えられている。しかし,テオフィリ
ン血中濃度が有効域でも報告例があり,かつ乳幼児は中枢神経
蠹
各科編 227
が未熟であり,けいれん発現の域値が低いと言われている。よ
って日本小児アレルギー学会では,2 歳未満の児へのテオフィ
リン投与は治療に精通した小児科医の元での使用が推奨されて
いる。また,このけいれんは頓挫しにくく後遺症を残した報告
があるため,けいれん発現時は高次医療機関への搬送を考慮す
るべきである。
先輩からのアドバイス
気管支喘息は呼気性喘鳴が特徴的である。しかし,重症化す
ると,呼吸音の減弱とともに喘鳴も消失していることがある。
したがって,吸入後の診察で初めて喘鳴が聞こえてくることが
あるため,注意が必要である。
F
気
管
支
喘
息