映像酔いの生態影響軽減のための ガイドライン作成を目指して (独)産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 氏家弘裕 共同研究者 本講演内容については、以下の人々との共同研究を含みます。 (敬称略;50音順) 飯島 敦彦 (新潟大学) 木竜 徹 (新潟大学) 斎田 真也 (神奈川大学) 田中明 (福島大学) 棚橋 重仁 (新潟大学) 二瓶 健次 (東京西徳洲会病院) 千葉 滋 (NPO映像評価機構) 板東 武彦 (新潟大学) 吉澤 誠 (東北大学) 渡邊 洋 (産総研) 映像酔いとは? 映像視聴により、いわゆる乗り物酔いのような症 状を発症した状態 映像酔いとは? 原因仮説: 感覚不一致説 身体の動きに関する視覚、前庭感覚、体性感覚 等の感覚情報の関係が、中枢系に記憶された過 去の経験から予期し得る状態から逸脱した時に 誘起される 自己の空間定位に関わる感覚情報 前庭感覚 視 覚 自己受容感覚 (筋、腱、関節) 聴 覚 触 覚 映像酔いとは? 運動酔い 車酔い 船酔い 列車酔い 飛行機酔い など 実空間での 身体運動 による サイバー酔い (VRシステム等で) “3D酔い” (ビデオゲームで) シミュレータ酔い (シミュレータにて) 以下の映像での酔い - 映画 - ビデオ - ウェブ・コンテンツ等 仮想空間での 身体運動 と 視覚運動 とによる 視覚運動 による 映像酔い対策の必要性 ・視野サイズを拡大する ・解像度を高める 映像のリアリティや 没入感の向上 没入感の楽しみ 映像の娯楽性や有用性の さらなる向上 臨場感による迫力 であればこそ同時に映像酔いに対する 対策を立てておくことも不可欠 映像酔いに関連すると思われる事例 ・2003年7月8日、松江市の中学校にて、授 業中にビデオ視聴していた生徒が気分が悪 くなる(294名中、少なくとも50名程度) ・このうち症状の比較的重い36名が近隣の 救急病院に搬送され、手当を受ける ・主な症状は、頭痛、発汗、吐き気、眼の痛 み(3名は嘔吐) ・ビデオの内容は、米国の中学校の日常生 活を紹介した20分程度のもので、手持ちのカ メラで撮影された。 スクリーン上での 表示画面の大きさ: 4.5 x 3.4 m 最前列: 33 x 25 deg 最後列: 15 x 11 deg 事例発生の現場(後日撮影) 映像酔いに関連する主な要因 動き: 映像中の視覚的な動き、特に一人 称的視点の動き(視覚的グローバル運動) 視野サイズ: 視野に占める映像の大きさ 明るさ: 映像自体や周囲環境の明るさ 時間ずれ: 特にHMD等の場合、頭部の動 きに対する映像の切り替えの遅れ 個人特性: 視聴時の構え、さまざまな個人 属性(※映像酔いは、個人差が非常に大きい) 視覚的グローバル運動 コンピュータで設定した仮想空間 RD ランダムドットパタン 5m yaw roll OR pitch 3m 一般的な部屋を 模擬したパタン 5m 刺激サイズ: 82 x 67 deg 視覚運動成分: ‐ 一方向回転運動: 2.6, 6.0, 14, 31, 70, 159, 360 deg/s 往復回転運動: 振幅. 30, 90 deg 周波数. 0.03, 0.06, 0.12, 0.24, 0.49, 1.0 Hz Yaw 一方向 Pitch 一方向 Roll 一方向 Roll 往復 視覚的グローバル運動 一方向回転運動 酔いに関わる主観評価 Pitch Yaw Roll Subjective score 2.5 2.0 n = 39 * * * 10 4.0 3.0 2.0 1.0 (*p<.05, Mann-Whitney) 0.0 1 n = 39 Pitch Yaw Roll 5.0 1.0 * 6.0 * * * 1.5 0.5 ベクション強度 Subjective score 3.0 100 Rotation speed (deg/s) 1000 0.0 1 10 100 1000 Rotation speed (deg/s) Ujike, Yokoi, Saida (2004) 特定の回転速度帯域(30~70deg/s)で、 主観評価スコアやベクション強度が増加 視覚的グローバル運動 重心動揺への影響 重心動揺軌跡長 (対静止時) 回転ドラム(Yaw軸回転) 回転速度(deg/s) S. Hu, R. M. Stern, M.W. Vasey and K. L. Koch (1989) 視覚的グローバル運動 往復回転運動 酔いに関わる主観評価 Sickness-related subjective score Amp. 90 deg Amp. 30 deg * p<0.05 (Mann-Whitney) 2.5 2 Pitch 2.5 * 2 * 2.5 Yaw 1.5 1.5 1 1 1 0.5 0.5 0 10.00 * 100.00 1000.00 0 10.00 n = 41 * Roll 2 1.5 * * * * 0.5 * 100.00 1000.00 0 10.00 * 100.00 1000.00 Peak velocity (deg/s) Ujike, Kozawa, Yokoi, Saida (2005) 異なる振幅でのスコアが、時間周波数に 対して(PitchとYawは)1つの関数形を示す ⇒映像酔いの速度次元による支配 視野サイズによる影響 松江市映像酔い事例での映像視聴距離等 15 x 11 deg 液晶 プロジェクタ 9 deg 32 x 22 deg 0.4 3.4 m 側面図 21 deg 前方 0.3 A 7.1 m 0.1 C 1.84 m 0 D 後方 10.2 m 0.2 (スクリーン側) B Ujike, Nihei, Ukai (2008) 8, 7 左側 6, 5 4, 3 2, 1 最後列付近に かけて減少 右側 クラス番号 実験室での映像サイズによる効果(松江市事例映像) 影響小 n = 138 0.8 映像酔い事例の映像を 視距離一定で、4種類 のサイズで提示 酔いに関する 主観評価スコア 1 0.9 Ra tio of viewers floor “かなり気分が 0.6 悪くなった” 0.5 生徒の割合 スクリーン 最前列 最後列 最前列付近 2割程度 0 and smaller 1 to 4 5 to 8 9 to 12 13 to 16 17 to 20 21 to 24 25 and larger halt 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 影響大 the 11smallest x8 smaller 15 x 11 23larger x 17 the 34largest x 26 Size of display Size of display (deg) 最前列から最 後列に相当する サイズの間で、 影響の減少が明 らか。 Ujike, Yokoi, Saida (2005) 映像の見かけのサイズ 34 x 26 deg以上 ⇒ 映像酔いの可能性が高まる 視野サイズによる影響 2分ごとの不快度主観評価スコア(0~3の4段階)にも 視野サイズの効果 Averaged score 映像提示区間 0.8 0.7 11 x 8 deg 0.6 0.5 0.4 0.3 11 13 20 37 0.2 0.1 0 2 4 6 * 15 x 11 deg 23 x 17 deg 34 x 26 deg * * * P<.05 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 time (min) Ujike, Yokoi, Saida (2005) 映像の見かけのサイズ 34 x 26 deg以上 ⇒ 映像酔いの可能性が高まる 周囲の明るさによる影響 周囲の照度を増加させることで、不快感が減少する Averaged subjective score of “General Discomfort” 不快度に関する 主観評価値 2.5 1.5 遊園地(抜粋) 手ブレシーン Intro Vertical Horizontal Roll Zoom 照度 50 lx 2 1 1.5 250 lx 50 lx 1 0.5 0.5 照度 250 lx 0 0 00 5 5 10 10 15 15 20 2025 25 Time (min) 250 lx 50 lx 立体表示による効果 デモ映像 立体表示による効果 シミュレータ酔いアンケート(SSQ) についての評価値 *: p<0.1 **: p<0.05 ***: p<0.01 映像提示区間 0.5 *p<0.05 Scores before watching the video was subtracted from those after watching, then averaged across the observers. 30 2D 3D 25 0 n = 34 2D ** ‐0.5 ** ** 2D 3D 15 10 3D ‐1 20 Score SS of “comfortability” 1分ごとの快適度主観評価 * * * n = 34 *** 5 ‐1.5 0 5 10 15 20 Time (min) 2D映像よりも立体映像において、映像提示期間に より”不快”な方へと主観評価値が低下した 0 Nausia Oculomotor Disorientation Total Score “吐き気”に関わるサブスコアのみ優位で あったが、いずれも立体映像の方がより高 い値を示す場合が多かった。 立体表示による効果 LF/HF 交感神経 優位 LF/HF は、心電より求めたR-R間隔の時間変動 分に関する2分間の時間枠で計算した高周波成 分に対する低周波成分の比 映像提示区間 7 2D LF/HF 5 * 4 3 2D 2 n = 34 1 副交感神経 優位 *: p<0.1 **: p<0.05 ***: p<0.01 3D 3D 6 0 0 5 10 15 20 Time (min) 交感神経の活動指標であるLF/HF は、2D映像よりも立 体映像を観視中により高い値となる傾向を示した 個人特性による影響 ・男性より女性の方が影響が大きいか? ⇒ 平均値はその方向での相違があったが、 有意差は無し ・年代的に若い方が影響が大きいか? ⇒ 平均値はその方向での相違があったが、 有意差は無し ・車酔いしやすい方が影響が大きいか? ⇒ 平均値はその方向で有意差あり 映像酔い評価システムの開発 Vpan, Vtilt, Vroll, Vzoom Pan 映像を制作した人自らが容易に利用できる 3D映像評価システムの構築を目指す Tilt Roll Biomedical model and Zoom 2D/3D DR(t) = f (V , Vtilt, Vroll, Vzoom, 2D/3D, VC1, VC2, VC3, …) pan VC1, VC2, VC3, … Visual conditions related to 3D visual fatigue 0 1 2 3 none moderate slight severe 主観評価値の推定 映像酔い評価システムの開発 往復回転運動 酔いに関わる主観評価 Sickness-related subjective score Amp. 90 deg Amp. 30 deg * p<0.05 (Mann-Whitney) 2.5 2 Pitch 2.5 * 2 * 2.5 Yaw 1.5 1.5 1 1 1 0.5 0.5 0 10.00 * 100.00 1000.00 0 10.00 n = 41 * Roll 2 1.5 * * * * 0.5 * 100.00 1000.00 0 10.00 * 100.00 基準値設定 1000.00 Peak velocity (deg/s) Ujike, Kozawa, Yokoi, Saida (2005) 異なる振幅でのスコアが、時間周波数に 対して(PitchとYawは)1つの関数形を示す ⇒映像酔いの速度次元による支配 映像酔い評価システムの開発 不快度主観評価値 2.00 A B C D 1.50 1.00 それぞれ異なる研究機関での結果を示す 0.50 0.00 生体影響モデルの出力 5 10 camera shake 15 ride 20 Intro Vertical Horizontal motion motion 25 Roll Zoom 映像酔い評価システムの開発 (財)JKA機械工業振 興事業補助金交付に よるJEITAへの委託 事業において開発 Video 映像モニタ 映像操作 映像情報 影響を与える可能性 のある映像区間のリ スト表示 視聴環境条件 カメラ要素運動の推定速度 氏家:Synthesiology (2010) 映像酔いレベルの時系列推定値 本講演のまとめ 1.映像の技術革新の進展による恩恵を誰もが享受で きるように、映像酔いについての対策が不可欠。 2.映像酔いの主な影響要因として、視覚的グローバル 運動、視野サイズ、映像や周囲の明るさ、個人差な どがある。 3.映像酔いの影響要因を正しく理解した上でのガイド ライン作成が1つの対策となり得る。 4.また映像制作に携わる人々が利用しやすい映像酔 い評価システムを実用化を目指したい。 ご静聴、ありがとうございました 本講演内容の一部は、(財)JKAの機械工業振興事業補助金の交付を 受けて行った(財)機械システム振興協会の委託による事業であり、平成 19年度「映像酔いガイドライン検証システムの実用化に関するフィージ ビリティスタディ」として実施しています。 映像酔い評価システムの開発にあたり、共同研究等でご尽力いただい た当該委託事業研究開発委員会関係者に感謝します。
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