フィルタードアーク蒸着で作る高品質DLC 膜

2PM-F01
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
フィルタードアーク蒸着で作る高品質 DLC 膜
豊橋技術科学大学
○滝川浩史
1.はじめに
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は sp3 混成軌道構造成分を含んだアモルファル膜であり,保護膜,離型膜,
摺動膜,バリア膜などとしての機能がある。一言で DLC と言っても,成膜手法や条件によって実に様々なものが形
成されている。DLC の中でも,sp3 混成軌道構造成分がリッチなものをテトラヘドラルアモルファスカーボン(ta-C)
と呼び,sp2 混成軌道構造成分がリッチなものを単にアモルファルカーボン(a-C)と呼ぶ。更に,カーボン以外の成
分,多くの場合は水素(H)
,その他にシリコン(Si)やフッ素(F)
,金属などを含むものもある。各々特性が異なる
ため,応用に際しては適切なものを選定する必要がある。
2.フィルタードアーク蒸着
DLC 膜を量産的に形成する手法としては,プラズマ CVD 法,スパッタ法,真空アーク法などがある。プラズマ
CVD 法の場合,炭化水素ガスを原料として用いるため,またイオンエネルギーが高くないため,形成できる膜種は
a-C:H が基本である。スパッタ法の場合,原料を固体黒鉛とできるため H フリーの DLC を形成できるが,やはりイ
オンエネルギーが高くないため,形成できる膜種は a-C である。成膜速度を稼ぐために炭化水素ガスを混ぜるような
場合は,a-C:H となる。真空アーク法の場合,黒鉛が原料であり,雰囲気ガスが不要で,イオンエネルギーが数十~
100 eV 超と高いため,ta-C を形成できる。なお,バイアスや温度制御,雰囲気ガス制御を行えば,ta-C:H,a-C,a-C:H
も形成できる。
真空アーク法は,業界では,アーク PVD とか AIP(アークイオンプレーティング)と呼ばれている。この手法は,
固体原料を真空アーク放電の陰極とし,陰極表面に形成される高温の陰極点から原料を蒸発すると同時に蒸発物質を
イオン化するものである。前述のように高エネルギーのイオンが得られる。従来から,窒化物系の保護膜(TiN,TiAlN,
CrN)を形成するのに用いられてきた。最近では,ta-C 膜の形成に利用されるようになってきている。
真空アーク放電の特徴の一つは,蒸発起点である陰極点から,原子状蒸発物や電子の放出だけでなく,サブミクロ
ン~数十ミクロンの大きさの陰極材料の微粒子も大量に放出されることにある。この微粒子はドロップレットと呼ば
れる。このドロップレットが形成膜に付着すると,膜の均質性や平坦性を失うことになるし,剥離の起点となる場合
もある。ドロップレットの付着を防止する手法として,フィルタードアーク(FAD)が開発されてきた。DLC 形成
用の FAD 装置の一つとして,T 字状のフィルタを持つ T-FAD が考案されている。
3.高品質 DLC(ta-C)膜とその応用
T-FAD を用いるとドロップレットフリーの高品質な ta-C が形成できる。応用としては,次のようなものがある。
(1) 切削等工具
ta-C コートのエンドミルやドリルは比較的以前から市場に出回っている。主にアルミ合金の加工
に利用されている。FAD 成膜のものがより優れた性能を発揮するため,人気があるようである。銅合金に対しても有
効な性能を示す。プリント基板(PCB)穴あけ用ドリルにも利用され出している。
(2) モールドプレス用ガラスレンズ金型
レンズ数の削減を図るため,非球面ガラスレンズが用いられるようにな
ってきた。その製法として,モールドプレス法が開発された。この手法では,ガラスレンズを離型するための離膜性
保護膜が金型表面に必要である。この機能膜として最適なものが ta-C である。この応用では,光学レベルの面精度(凹
凸なし,ピンホールなし,異物なし,低表面粗さ)が要求される。
(3) 摺動部材
ta-C の摺動部材への応用として,バルブリフタやピストンリングがあるが,今のところ,FAD でな
く通常真空アーク法が用いられている。FAD 成膜の高品質 DLC への期待が高い。
(4) MEMS/NENS 用
次世代応用として,NEMS や MEMS への展開の可能性を探るため,マイクロパーツやナ
ノインプリント原版の試作が行われている。
(5) 軟 X 線用回折格子
近年開発された軟 X 線分光器(SXES)の感度改良のため,軟 X 線用回折格子の増回折膜
として ta-C が適切であることが提案されている。
4.おわりに
高品質 DLC(ta-C)の工業的生産には FAD が必要である。同装置は一般的なプラズマ CVD 装置やスパッタ装置
よりも高価であるため,装置の拡販が緩やかであったが,近年導入する企業が増えてきている。今後,高品質 DLC
(ta-C)の特性・特徴の更なる把握・理解とともに成膜装置の普及によって,広範な分野における魅力的な応用が展
開されると期待している。また,自動車部品等への応用に際しては,高成膜速度が要求されるため,成膜システムの
更なる進展が望まれる。
2PM-F02
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
大気圧プラズマ法による硬質薄膜の作製と応用
~ストリーマ放電法による硬度 10GPa レベルの薄膜室温合成~
慶應義塾大学理工学部 教授
慶應先端技術研究センター所長
鈴木 哲也
本発表では,近年の大気圧プラズマ法,特に誘電体バリア放電法による非晶質炭素膜及び SiOx
膜の合成と応用に関して述べる。ガスバリア性を利用した紙容器への応用,保護膜としての応用等
である。
当研究室では、誘電体バリア放電のグローおよびフィラメント状ストリーマを使用して、大気圧
下で硬質薄膜の室温合成について研究している。通常、グロー放電からストリーマ放電に移行する
とプラズマが不均一かつ不安定になり、均一な薄膜形成に利用することが困難であった。また集中
した放電によって基材表面が高温となり、プラスチック基材では熱損傷を受けることもあった。し
かし 1 年ほど前に、電圧を印加した電極面の近傍に生じたグローから接地された電極に向かって
延伸するフィラメント状のストリーマ放電を生成させる技術を開発し、これらのフィラメント状の
ストリーマ放電を基材表面で高速運動させることにより、結果として大気圧下で非常に均一な薄膜
が得られることを見出した(図1)
。
これらのストリーマの先端部では真空法プラズマレベルのイオン密度とエネルギーに達すると
予想されており、大気圧下において真空法と同等の高機能性(高硬度、耐擦傷性、ガスバリア性等)
を有する薄膜を基材上に形成が可能となった。また低温成膜できる(室温から 100 ℃程度)ので、
プラスチック基材への適用が可能である。
図1 誘電体バリア放電 (DBD) の形態
2PM-F03
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
DLCコーティングのエンジン摺動部品への適用技術の進展と将来展望
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部
1. はじめに
ここ数年,自動車の燃費改善を目的としたエンジン摺
動部品へのDLCコーティングの適用が急激に増加して
いる.約20年前にドイツを中心にDLCコーティング
の適用開発が始まったものの,現在では日本が自動車エ
ンジン摺動部への量産適用において世界のトップを走っ
ている.この大きな要因として,日本のコーティング会
社,
潤滑油メーカ,
自動車会社の優れた研究開発技術力,
特にトライボロジー技術の強みが挙げられる.技術進展
の経緯に加え,最近の研究成果を基にしたDLCコーテ
ィング適用技術の将来展望について報告する.
2. エンジン摺動部品への適用の進展
DLCコーティングの歴史は浅く,DLCが論文に登
場してからまだ40年強しかたっていない.最近までの
論文掲載件数の推移 1)を, 図1に示す.1990年頃ま
では,主にDLC膜の製造方法の開発や形成された膜特
性にかかわる発表が多く,ドイツ・Fraunhofer を中心
に開発されたタングステンドープの水素化DLC
(WC:a-C:H)の成膜技術,成膜装置の実用化が1990年
以降に始まり,それとともに論文件数が急増していった
ものと思われる.自動車エンジン部品適用開発は200
0年前後から始められたものと思われる。実際の量産ガ
ソリンエンジン部品への適用は,2000年中期から始
まり,その後は拡大し続けている.
3. エンジン摺動部品への量産適用事例
DLCコーティングのエンジン摺動部品への適用によ
る,自動車燃費改善効果は数%と低いものの,コストパ
ーフォーマンスが良好で,量産品質も大幅に向上されて
きているため,種々のエンジンおよび異なる摺動部品へ
の適用拡大が進んでいる.日本では,水素化DLCに比
べエンジン油中での摩擦を著しく低減できる,水素を含
まないDLC(ta-C)のバルブリフタへの量産適用につな
げている.さらには,2010年頃からガソリンエンジ
ン用のピストンリングやピストンピンへの適用が進んで
いる.このように,エンジン摺動部品への適用は,生産
量の増大だけでなく,異なる部品への適用や苛酷な要求
条件に合ったDLC種の適用へと進展して行っている.
4. 今後の展望
耐摩耗性と低摩擦特性を兼ね備えたDLCコーティン
グがエンジンの主要摺動部品に使われ始めた今,鉄鋼材
摺動面へのトライボ化学反応を基に設計されてきた潤滑
油設計を大きく変更できるチャンスが来ている.
一例として,同種のDLC同士のピン側面とディスク
との線接触でのすべり摩擦において,オレイン酸を一滴
(0.01ml)供給した潤滑状態での摩擦特性を,図2に示す.
すべり速度が 50mm/s 以上で,プラズマCVD成膜した
水素を 20at%程度含有したDLC(a-C:H)同士の摩擦係
数は約 0.02 程度の値を示すのに対して,フィルタードア
加納 眞
ーク蒸着法で成膜した水素フリーDLC(ta-C)同士では
摩擦係数 0.01 以下の超低摩擦特性発現する 2).また,
1mm/s 以下のすべり速度領域でも,ta-C の摩擦係数は
0.05 と非常に低い値を示している.この超低摩擦特性は
オレイルアルコールにおいても認められている.
従って,
これらの有機酸,アルコールといった環境にやさしい潤
滑剤とDLCの組合わせで,超低摩擦特性が発揮できる
摺動部材をエンジンに適用することにより,環境にやさ
しい究極の省燃費化が得られるものと期待される.
Application to
engine components
2010
2000
1990
1970 1980
図1 DLC コーティングの論文掲載件数の推移
図 2 オレイン酸潤滑下におけるDLCの摩擦特性
5. おわりに
潤滑剤とDLCを組み合わせた超潤滑特性は,トライ
ボロジー技術が主体となり種々の産業の摺動部品の摩擦
損失を著しく低減させ,地球環境改善に直接大きく貢献
できるチャンスを持っている.今後,いかに早く,効率
的かつ大規模に実用化につなげるかが地球環境破壊スピ
ードを抑制させる大きな課題と思われる.
参考文献
1)
K.Bewilogua and D.Hofmann, Surface & Coating
Technology, 242(2014) 214.
2)
K.Yoshida, M.Kano & M.Masuko, Tribology,, 9,1 (2015)
54
2PM-F04
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
DLC 膜の密着・耐摩耗性評価について
神奈川県産業技術センター
機械・材料技術部
1. はじめに
DLC 膜は、高硬度、低摩擦性、耐凝着性等の特徴から
摺動部分や金型、工具等に用いられることが多い。その
際、
特性が異なる数多くの膜種が製品化されているため、
これらの候補の中から実際に使用する膜を選定(スクリ
ーニング)することが必要となっている。特に DLC 膜
は、薄膜、高硬度、共有結合等を有しているため、密着
力が弱い、下地の変形に対する追従性が悪い等の特徴が
ある。それゆえ使用する DLC 膜選定の際に、密着・耐
摩耗性を評価することは重要となっている。
そこで本発表では、DLC 膜の密着・耐摩耗性評価につ
いて、選定する際に用いられている評価手法およびそれ
らを用いる際のポイント等について紹介する。
2. スクラッチ試験
(1)単純引っ掻き方式
ダイヤモンド圧子(ロックウェル C スケール)を押付
け、垂直荷重を連続的に増加させながら引っ掻く方法で
ある。引っ掻きや基材の変形で生じる膜損傷に伴う摩擦
係数や膜が破壊する際に生じる弾性波(AE 信号)の変
化、試験後の膜損傷状況の観察等により評価を行う。厚
膜でも定量的な密着性評価が可能である。摺動を伴う部
品適用の際には実際との相関性が低いことが課題である。
図 1 スクラッチ試験(単純引っ掻き)
(2)励振方式 1)
センサ全体を励振させた状態で先端に取り付けられた
圧子を膜面に押付け、垂直荷重を連続的に増加させなが
ら引っ掻く方法である。励振の繰り返しや基材の変形で
生じる膜損傷状況について評価を行う。負荷できる荷重
が小さいため、ナノレベルの薄膜評価に用いられる。
堀内 崇弘
は難しく、目視による定性的な評価が主となる。
図3
4.摩擦摩耗試験
(1)ボールオンディスク方式
① 回転型
成膜された基材にボールを押し付け、垂直荷重をかけ
ながら繰り返し回転摺動させる方法である。摩擦係数や
AE 信号の変化、試験後の膜損傷状況の観察等により評
価を行う。繰り返し摺動を用いることにより、密着性と
耐摩耗性を複合要因とした評価結果となる。当センター
では連続荷重増加法 2)等を用いて評価を行っている。
図 4 摩擦摩耗試験(回転型)
② 往復型
直線方向の異なる向きから繰り返し摺動を行うことに
より、DLC 膜の密着・耐摩耗性を評価する方法である。
SRV 試験(往復型)3)に代表される評価手法である。
(2)ブロックオンリング方式
リングと基材を押し付け、荷重を負荷させながら回転
摺動させる方法である。摩擦係数の変化や試験後の膜損
傷状況の観察等により評価を行う。
DLC 膜をリング側に
成膜すれば繰り返し摺動、基材側に成膜すれば常に接触
した摺動状態となり摩耗に厳しい評価が可能となる。
図5
図 2 スクラッチ試験(励振)の概要
1)
3.ロックウェル圧痕試験
ロックウェル硬度試験機(ロックウェル C スケール圧
子)を用いて圧痕を形成した後、圧痕周辺の DLC 膜の
損傷状態を観察する方法である。基材の変形で生じる膜
損傷状況(剥離の有無等)について評価を行う。手間も
少なく、短時間で密着性の評価ができる。定量的な評価
ロックウェル圧痕試験
ブロックオンリング試験
5. おわりに
DLC 膜に関するご相談および評価の際には、
当センタ
ーをご利用下さい。
参考文献
1) 新井大輔, 表面技術, vol58, no.5, 295-299 (2007)
2) 堀内崇弘他, 神奈川県産業技術センター研究報告
no.13, 40-41 (2007)
3) SRV4 振動摩擦摩耗試験機カタログ, OPTIMOL
2PM-F05
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
大気圧プラズマ技術を用いた薄膜作製
- PEN シート上の非晶質炭素膜の密着性について-
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部 ○ 渡邊 敏行 ,曽我 雅康
化学技術部
田中 聡美
慶応義塾大学 大学院 理工学研究科
鈴木 哲也
1.はじめに
当センターでは,大気圧プラズマ CVD (Chemical
Vapor Deposition) 法による大面積成膜技術について研
究している.これまでロール・ツゥ・ロール型大気圧プ
ラズマ CVD 装置で作製した非晶質炭素膜は,小型の大
気圧プラズマ CVD 装置で作製した非晶質炭素膜より
密着性に優れることを報告した 1).今回は,膜密着性に
及ぼす成膜条件,膜構造,および膜の C 1s 結合状態の
影響について報告する.
ズマによる基材温度の上昇は大きくないと推定される.
これらのことから,試料 A が 試料 B より良好な密着
性を示すのは,大気圧プラズマに起因する基材の温度上
昇によるものではなく,窒素-炭素結合が生成されること
によって応力が緩和されたためと考えられる.
4.企業支援について
大気プラズマ CVD 法に関する問い合わせについて
は,技術相談として随時対応している.今後,大気圧プ
ラズマ CVD 法の量産技術が進歩し,DLC コーティン
グに近い特性を持つ非晶質炭素膜のコーティングサービ
スの充実とともに,産業用途が拡大していくと考える.
2. 実験方法
厚さ 50 µm のPEN (polyethylene naphthalate)シー
トを基材とし,アセチレンと窒素の混合ガスを原料にし
て,ロール・ツゥ・ロール式装置で非晶質炭素膜を蒸着
したものを試料 A とし,
小型平板搬送式装置で非晶質炭
素を蒸着したものを試料 B とした.表 1 に作製条件を
示す.
膜密着性はプルオフ法 (Elcometer, 106 Pull Off
Adhesion Tester) で臨界剥離強度を測定した.非晶質炭
素膜の構造をフーリエ変換赤外分光法(日本分光
FT/IR-4100 型,FT-IR) で,また C 1s 結合状態は X 線
光電子分光分析法(アルバック・ファイ,Versa Probe Ⅱ,
XPS)で評価した.成膜中の大気圧プラズマの電力密度
については,プラズマ電極の静電容量,印加電圧,パル
ス条件および電極面積から計算した.
1) 渡邊敏行,畔栁智栄子,曽我雅康,鈴木哲也,神奈
川県産業技術センター研究報告,20,29(2014).
2) 垣内弘章,大参宏昌,安武潔,コンバーテック,36,
96 (2008).
表1 試料作製条件
試料 A
試料 B
Roll-to-Roll 式
小型平板搬送式
C2H2 流量 / L・min -1
1
0.1
印加電圧 / kV
17
18
周波数 / kHz
30
10
電極面積 /cm2
254
10
搬送方式
2.0
試料 A
Absorbance
臨界剥離強度 Ad / MPa
試料 B
1.8
1.6
1.4
試料 A
試料 B
1.2
基材(PEN)
1.0
1.E+01
1.E+02
1.E+04 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000
1.E+03
波数 / cm-1
プラズマの電力密度 P / W・m-2
図 1 プラズマ中の電力密度
に対する膜密着性
図 2 非晶質炭素膜の
FT-IR スペクトル
p
3500
a) 試料 A
3000
b) 試料 B
2500
2000
c/s
3.実験結果
図1にプ大気圧ラズマ中の電力密度に対する非晶質炭
素膜の密着性の測定結果を示す.試料 A では電力密度
60 W・m-2 に対し,密着性が 1.6 MPa であった.一方,
膜-基材界面から剥離が生じた 試料 B では,約 10 倍の
電力密度 (8× 102 W・m-2) で密着性が 1.2 MPa であっ
た.図 2 に非晶質炭素膜の FT-IR スペクトルを示す.
波数 2200 cm-1 付近には,試料 A には吸収(図中矢印)
が見られたが,試料 B および基材には相当するピーク
は見られなかった.図 3 に非晶質炭素膜における C1 s
ピークの XPS スペクトルを示す 1).試料 A では 285
eV から 286 eV にかけて肩が見られたが,試料 B に
は該当するピーク形状は見当たらなかった.FT-IR およ
び XPS の測定結果から,試料 A には窒素-炭素結合が
含まれる可能性が高い.
一方,大気圧プラズマは低圧プラズマと同程度の電子
密度であり 2),気体分子の衝突頻度が高いことから,荷
電粒子 1 個あたりの運動エネルギーが小さくなり,プラ
文献
1500
1000
500
0
298
296
294
292
288
286
290
Binding Energy (eV)
284
282
280
278
298
296
294
292
286
288
290
Binding Energy (eV)
284
282
図 3 非晶質炭素膜の C 1s スペクトル
280
278
500
DLC の摩擦特性に及ぼす摩擦前洗浄溶剤の影響
神奈川県産業技術センター 機械・材料技術部
3. 実験結果と考察
摩擦係数の経時変化を図1に示す.900 秒後の摩擦係
数は,「DLC 膜_ 洗浄溶剤」の組合せで定義した
「 a-C:H_IPA 」 , 「 ta-C_IPA 」 , 「 a-C:H_n-hep 」 ,
「ta-C_n-hep」
,各試験について,それぞれ 0.09, 0.02,
0.03, 0.09 を示した.
a-C:H 膜についてはn-hep の方が,
また ta-C 膜については IPA の方が低い摩擦係数を示し
た.同じ DLC 膜でも,洗浄溶剤によってオレイン酸潤
滑下の摩擦特性が大きく異なることが明らかとなった.
次に各試験後のディスク表面について XPS 分析を行
った.
摩擦部の XPS 分析から得られたスペクトルの C1s
ピークについてピーク分離を行い,4 種類の分離成分に
関して,面積比を求めた.
「a-C:H_n-hep」「
, ta-C_n-hep」
のピーク面積比について図2に示す.
最表面から約7 nm
までにおいては,ta-C 膜に比べて a-C:H 膜の方が C-O,
C=O, O=C-O の含酸素結合の割合が大きいことが示さ
れた.低摩擦係数を示す DLC 膜の方が含酸素結合の割
合が大きいこの傾向は,IPA についても同様であった.
a-C:H_IPA
a-C:H_n-hep
ta-C_IPA
図1 各種 DLC 膜・洗浄剤によって異なるオレイン酸
潤滑下の摩擦係数経時変化
(a)
Detection angle , °
2. 実験方法
摩擦特性の評価は,回転式ピンオンディスク摩擦試験
にて行った.基材には,SUJ2 鋼のディスク(φ 33 mm ×
t 3 mm)およびピン(φ 9 mm × L 9 mm)を使用した.
これらの基材に,プラズマ CVD 法による a-C:H および
T 字型フィルタードアーク法による ta-C の 2 種類の
DLC 膜を成膜し,試験片とした.
これらの試験片について,極性基(-OH)を有する 2-プ
ロパノール(IPA),無極性の n-へプタン(n-hep)の 2 種類
の摩擦前洗浄溶剤を用いて 5 分間の超音波洗浄を行い,
送風乾燥した後,a-C:H 膜同士,および ta-C 膜同士の組
合せで摩擦試験を行った.潤滑剤として試験開始前にオ
レイン酸 0.01 ml を摩擦面に滴下した.
ディスク摩擦部の化学結合状態を調べるために XPS
分析を行った.光電子取り出し角度を 15°(検出深さ 1-2
nm)から 65°(検出深さ 6-7 nm)まで 10°刻みで測定
を行う角度分解法を採用し,
深さ方向の違いを評価した.
ta-C_n-hep
15
1 - 2 nm*
25
C-C
C-O
C=O
O=C-O
35
45
55
65
6 - 7 nm*
0
0.7
80
0.8
90
0.9
100
1
*Estimated
depth
Component ratio , %
(b)
Detection angle , °
1. はじめに
我々はこれまでに,
DLC 膜や潤滑剤の種類によって摩
擦特性が異なることを見出した 1), 2).しかしながら表面
性状の違いにより摩擦係数が大きく異なる DLC 膜の摩
擦においては,摩擦前洗浄溶剤も摩擦特性に影響を与え
ると考えられる.これらの影響について報告例はなく,
DLC 膜の工業適用において重要な課題である.
そこで本
研究では,極性基である水酸基(OH 基)を含む溶剤と
含まない溶剤,2 種類の洗浄溶剤で脱脂洗浄を行い,こ
れらの DLC 膜表面の化学的な結合状態が摩擦特性に及
ぼす影響を,表面分析を用いて明らかにする.
○吉田 健太郎、加納 眞、
曽我 雅康、長沼 康弘
15
1 - 2 nm*
25
C-C
C-O
C=O
O=C-O
35
45
55
65
6 - 7 nm*
0
0.7
80
0.8
90
0.9
Component ratio , %
100
1
*Estimated
depth
図2 C1s ピークの分離に基づいた各結合成分のピー
ク面積比 (a) a-C:H_n-hep (b) ta-C_n-hep
4.まとめ
摩擦前洗浄溶剤を変えた DLC 膜の化学的な結合状態
が摩擦特性に及ぼす影響について,同じ DLC 膜でも洗
浄溶剤によってオレイン酸潤滑下の摩擦特性が大きく異
なり,低摩擦係数を示す組合せでは表層の含酸素結合の
割合が大きいことが明らかになった.
文献
1) 吉田ほか:トライボロジー会議 2012 秋室蘭予稿集,
(2012)75.
2) 吉田ほか:トライボロジスト, 58, 10(2013)773.