福岡県工業技術センター 研究報告 No.14(2004) 流下液膜式氷蓄熱器に関する研究開発 解氷特性 *1 吉村賢二 小山 繁*2 福田俊仁*3 大庭英樹*4 Development of Falling-Water-Film-Type Ice Thermal Energy Storage Vessel Ice Melting Characteristics Kenji Yoshimura , Shigeru Koyama , Toshihito Fukuda , Hideki Ohba 本研究では,流下液膜式氷蓄熱器の開発を目的に,実機規模の装置の解氷特性に関する実験を行い,液膜流量及び散水 温度が,解氷量,解氷速度,冷却能力及び熱伝達係数に及ぼす影響を調べた。液膜流量が大きいほど,解氷速度が大きく なる。散水温度が高いほど,解氷量,解氷速度及び冷却能力は大きくなる。液膜流量が大きいほど,解氷の初期段階及び それ以降の平均熱伝達係数はいずれも大きくなり,解氷の初期段階の平均熱伝達係数の方がそれ以降より大きい。散水温 度と氷の融解温度との差が大きいほど,解氷の初期段階では平均熱伝達係数は大きく,それ以降では徐々に減少する。 1 はじめに 近年,電力需要の平準化のために深夜電力を活用した 熱槽内に設置された鉛直平板型伝熱面(10),圧縮機(1), 凝縮器(2),膨張弁(5),散水ノズル(9),水循環ポンプ(11), 氷蓄熱が注目を集めており,種々の形式の氷蓄熱器が開 解氷用水タンク(13),冷媒配管,水配管から構成される。 発され,実用化されている。その中で,内融式浸水型氷 全ての解氷実験において,所定の重量の氷を均一厚さ 蓄熱器は,構造が最も簡単なため広く用いられているが, に生成させた後,所定の散水温度に設定された散水用水 凝固速度及び融解速度が小さい。これらの欠点を解決す タンク内の実験水を,所定の散水流量で散水ノズルから る手段として, 薄い液膜による大きい氷-水界面の熱伝 鉛直平板型伝熱面上の氷に散水させることにより,解氷 達を利用する流下液膜の利用が考えられる。著者らは, 実験を開始した。実験時は,鉛直平板型伝熱面全体の重 水平伝熱管周りの流下液膜の凝固問題を取り上げ,流下 量をロードセルを用いて測定することにより,解氷した 液膜の凝固過程における熱伝達特性の整理を行うと共に, 氷重量を測定した。 通常の浸水型における凝固との比較検討を行った結果, 流下液膜式の方が浸水型に比較して,凝固速度が大きい 3 結果と考察 ことを明らかにした。更に,流下液膜式氷蓄熱器の開発 図-2に散水温度Twa=20[℃]における,単位伝熱面積当 を目的に,実機規模の装置を設計・製作して実験を行い, & [kg/m2s]の時間変化特性に及ぼす液膜 たりの解氷速度 w 製氷能力に対する運転条件の影響を調べた。 流量 Γ [kg/ms]の影響を示す。液膜流量 Γ が大きい場合 本研究では,実機規模の流下液膜式氷蓄熱装置の解氷 &は (0.196~0.261[kg/ms])は,解氷の初期段階で解氷速度 w 特性に関する実験を行い,液膜流量及び散水温度が,解 急激に増加し,時間の経過と共に急激に減少する。一方, 氷量,解氷速度,冷却能力及び熱伝達係数に及ぼす影響 液膜流量Γが小さい場合(0.098~0.131[kg/ms])は,解氷速 を調べた。 & は解氷の初期段階で上昇し,その後長時間に渡って 度w 徐々に減少する。 2 研究,実験方法 図-1に実験装置の概略を示す。実験装置は,主に蓄 図-3に散水温度Twa=20[℃]における,解氷の初期段階 ( τ =0~0.00005)とそれ以降 ( τ =0.00005~)の平均熱伝達 係数hm[W/m2K]と液膜流量Γ[kg/ms]の関係を示す。液膜 *1 機械電子研究所 流量Γが大きいほど,解氷の初期段階( τ =0~0.00005)及 *2 九州大学先導物質化学研究所 びそれ以降( τ =0.00005~)の平均熱伝達係数hmはいずれ *3 昭和鉄工(株) も大きくなる。また,解氷の初期段階の平均熱伝達係数 *4 熊本大学工学部知能生産システム工学科 hmの方がそれ以降の平均熱伝達係数hmより大きい。 福岡県工業技術センター 研究報告 No.14(2004) Chilling unit Water flow 3 13 T 16 7 12 8 2 16 16 15 5 11 T 16 T 15 16 17 15 1 4 7 10 13 16 16 6 16 6 16 17 Compressor Capillary tube Heat storage tank Heat exchanger plates Water tank Gate valve 2 5 8 11 14 17 10 14 T 16 1 9 T 4 16 T 16 18 11 T Condenser 3 Expansion valve 6 Load cell 9 Pump 12 Constant temperature bath 15 Check valve 18 16 18 16 drain Mixing chamber Tank Accumulator Sight glass Water spray nozzle Flow meter T Temperature measuring point Electromagnetic valve Cross valve 図-1 流下液膜式氷蓄熱装置 0.04 500 ○ ● △ ▲ ○ ● 400 hm / W/m2K w / kg/m2s 0.03 Γ=0.098[kg/ms] Γ=0.131[kg/ms] Γ=0.196[kg/ms] Γ=0.261[kg/ms] 0.02 0.01 τ=0~0.00005 τ=0.00005~ 300 200 100 0 0 0 0.00005 0.0001 0.00015 0 0.05 0.1 τ 図-2 解氷速度 w と無次元時間τの関係 図-3 0.15 0.2 Γ / kg/ms 0.25 0.3 平均熱伝達係数hmと液膜流量Γの関係 4 まとめ また,散水流量を制御することにより,解氷速度の (1) 液膜流量が大きいほど,解氷速度が大きくなる。 制御が容易である。従って,所定の冷熱量が短時間 (2) 散水温度が高いほど,解氷量,解氷速度及び冷却能 で必要な場合は,浸水型氷蓄熱器と比較して,本流 力は大きくなる。 (3) 液膜流量が大きいほど,解氷の初期段階及びそれ以 降の平均熱伝達係数はいずれも大きくなり,解氷の 初期段階の平均熱伝達係数の方がそれ以降より大き 下液膜式氷蓄熱器は小さい氷表面積で良いというこ とになり,氷蓄熱槽設備を縮小できる可能性がある。 (5) 本流下液膜式氷蓄熱器は平成 14 年度に昭和鉄工㈱ で実用化された。 い。また,散水温度と氷の融解温度との差が大きい ほど,解氷の初期段階では平均熱伝達係数は大きく, それ以降では徐々に減少する。 (4) 本流下液膜式氷蓄熱器は,高い解氷速度が得られ, 5 掲載論文 吉村賢二,小山繁,福田俊仁,大庭英樹:日本冷凍空 調学会論文集,Vol.20,No.4,p.509(2003).
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