深く考える道徳の授業を演出する 『ゆたかな心

うとする生きものであり、善に向かう心も実
践力ももち合わせているという人間理解を基
本とする。
「登場人物がよ
だ か ら、 発 問 ス タ イ ル も、
かったと思っている場面の気持ち」を聞くの
で は な く、
「よかったという気持ちがどこか
らきているのか」を問う。
「 聞 く 」 発 問 と「 問 う 」 発 問 は、 本 質 的 に
大きく違う。深く考えさせる発問は、
「聞く」
のではなく「問う」のである。
このような、考えさせる発問とそれに伴う
資料の「仕掛け」は、光文書院の副読本の大
きな特徴のひとつである。しかも、文科省が
前述のような問題提起をする以前から提唱し
ている。先取りして世に出していたのである。
『ゆたかな心 新しい道徳』 1年~6年
6
) 月 日 図書教材新報 第3種郵便物認可
深く考える道徳の授業を演出する『ゆたかな心』
(筑波大学附属小学校 教諭)
―発問の工夫を促す多様な「仕掛け」―
道徳部主任、淑徳大学・筑波大学講師、日本
道徳基礎教育学会事務局長、KTO 道徳授業研
究会主宰。著書に、
『道徳授業を変える 教
師の発問力』
(東洋館出版社)
、
『道徳授業が
深まる国語教材活用の実践』
(学事出版)他。
る。なぜなら、場面毎に登場人物の言動を追っ
ていけばよいからである。
しかし、このような、価値観を自分の外の
社会的慣習から得ようとする学習スタイルで
は、深く考えることをしない、ただの指示待
ち人間を育てることになりかねない。
それに対して、「深く考える道徳」は、「答
え」は外にあるのではなく、自分自身のなか
にあるとする。つまり、資料に「答え」はなく、
自らの人間性のなかに見いだそうとする学習
スタイルなのである。これは人間性を善とす
る考え方である。人は本来、よりよく生きよ
加藤 宣行
2015年 平
(成 年
いて、実際の授業における活用例、より効果
6
が得られるポイント(場面・方法)などをご
25
紹介します。
1. 深く考える道徳の授業とは
㈱光文書院 『ゆたかな心 新しい道徳』
1年~6年
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☆日図協加盟出版社の発行している教材につ
道徳の教科化に伴い、昨今声高に叫ばれて
いるのが「資料を読む道徳から、考える道徳
へ」というキーワードである。この背景には、
資料を読み解き、エッセンスを獲得するとい
う 性 質 の 授 業 論 へ の 警 鐘 が あ る。 資 料 に は、
はじめから「道徳的な解」があり、その「答
え」を言い当てたり、再認識したりすること
が目的となっているが、それでよいのかとい
うことである。ただ、このようなスタイルの
授業は、ある意味展開しやすいのも事実であ
のぶゆき
かとう
第 79 回
教材活用シリーズ 25
の「よかった」がいいですか。
C やまがらの方の「よかった」がいい。な
んだかあたたかい。
② 図解することでひと目で課題がみえる
■『心の管理人』(五年生)
この資料は、自由とはどういうことか、ど
のような自由が一番よいか、ということにつ
いて考えさせやすい。なぜなら、三つの場面
が特徴的に描かれており、図解ということも
あって、ひと目で把握できるからである。
三 つ の 場 面 の 違 い を 考 え さ せ る う ち に、 次
第に核心に迫っていくことができる。
イ
ウ
○実際の授業場面
T どれが一番自由ですか。
C アの場面。好き勝手に置いているから。
T どれが一番楽ですか。
ア
2. 資料の特徴
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C イの場面。管理人に任せ
ればいいから。
T どれが一番いいですか。
C ウの場面。自分たちで考
えて、任されている感じが
いい。
C 先生、どれにも自由があ
るね。自由の使い方が大切
なのではないかな。
○場面絵の活用
これら三つの場面を印刷
して掲示したり、拡大表示したりすることで、
子どもたちがそれを見ながら考えることがで
きる。指導書付録の「デジタル道徳」
(DVD)
に は、 副 読 本 掲 載 の す べ て の さ し 絵 や 写 真 が
収録されている。これらを有効活用すること
で、「問い」を深める手立てとなる。
3.結び
授業が終わるやいなや、黒板に出てきて補
足の説明を始める子どもたち。深く考えるよ
う に な る と、 授 業 が 終 わ っ て も 思 考 は 終 わ ら
な い。 考 え る 主 体 に な っ た 子 ど も た ち は、 自
らの生き方を模索し始める。
そのような授業を可能にするための発問と
資 料 の 工 夫( 仕 掛 け ) に つ い て 述 べ て き た。
深く考えさせる発問が本来の力を発揮するた
めには、考えたくなる 考
・ えやすい資料が必
要である。魅力的な資料とそれに適う本質に
向かう授業展開、その両方が提案されてこそ
本物である。
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① 比較させて考えやすくする
■『二わのことり』
(一年生)
『 二 わ の こ と り 』
に は、
「よかった」
という言葉が二度出
てくる。一度目は
「う
ぐいすの家に行って
よかった」
、そして
二 度 目 は「 や ま が ら
の家に行ってよかっ
た」である。
同じよかったとい
う気持ちを表す言葉
で あ る が、 そ の 意 味
合いがまったく違
う。 そ れ を 子 ど も た
ちに比較し考えさせ
る こ と で、 質 の 違 い
が見えてくる。
○実際の授業場面
) 月 日 図書教材新報 第3種郵便物認可
T(教師) うぐいすの家の「よかった」と、
「よかった」
は何が違うかな。
やまがらの家の
C( 子 ど も た ち )
う ぐ い す の 方 は、 ご ち そ
うがあってよかった。みんながいてよかった。
C やまがらの方は、心からよかった。心と
体があたたまった。
C うぐいすの方は、大人数のよかった、形
だけのよかった。
T なるほど、うぐいすのグループはその他
大勢、誰でもよいということかな。どちら
2015年 平
(成 年
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