会社の現金を今までより 30%多く残す! 法人保険の具体的活用術

会社の現金を今までより
30%多く残す!
法人保険の具体的活用術
詳細事例付き!
法人保険のメリットとデメリットも解説!
30%
UP
はじめに|会社のキャッシュを最大化するために絶対に押さえておくべきこと
経営者にとって「お金」は永遠に逃れられないテーマです。
会社を設立した直後は、ヒト・モノ・カネの三つの要素の全てでライバル企業と比べて圧倒的
に不利な状況で、とにかくがむしゃらに働いて毎月を乗り越えられたことでしょう。
そのような困難な時期を乗り越えて経営が軌道に乗ってくると、利益を上げれば上げるほど、
多額の法人税がかかることに驚かれたのではないでしょうか。「こんなに売上を増やしたのに会社
に残るお金はこんなに少ないのか?!」と感じられた方も少なくないと思います。しかも、これ
から経営をさらに磐石なものにして事業を発展させていこうとすると、よりいっそうの人件費や
設備投資の費用が必要になっていくのです。
そう、経営を続ける限り、お金のアウトフロー(=費用)は膨らみ続けるのです。
法人保険の書なのに、いきなりお金に関する生々しい話が続きました。しかし「お金(=現金)」
は全ての経営者にとって切実で大切なものです。
もちろん上手な経営をすることによって、お金のアウトフロー(=費用)以上にインフロー(=
売上)を増やし、利益を拡大させていくことはできます。大半の経営者はおそらく、この「より
多くの利益を生み出す戦略」の重要性についてはしっかりと認識し、時に経営コンサルタント等
の力を借りるなどして、熱心に取り組んでおられることでしょう。
しかし、その戦略に、もう一つ別の戦略を加えることで、「より資金効率の良い経営」を実現で
きることはあまり知られていません。これは非常にもったいないことです。
その、もう一つの戦略とは「会社の資金を守る(=管理する)戦略」です。これを使いこなすこ
とができれば、極論をお伝えすると、例えば以下のような状況を正当な方法で実現することもで
きます。
前年より利益が少なくなっているのに会社の現金が倍増している。
今期の決算は赤字なのに会社の現金が倍増している。
これは、会社の事業は変わらず好調なのに、支払う税金は大幅に減って、なおかつ会社の現金
が倍増していることを意味します。
一方、「会社の資金を守る(=管理する)戦略」を知っていなければ、最悪のケースでは以下の
ようなことも起こりえます。
会社は増収増益なのに倒産してしまった。(=黒字倒産)
1
これは、会社の事業は好調なのに、口座の現金が大幅に減っていて、何らかの支払が滞ってしまっ
たことを意味します。
このような話を聞いてもピンと来ないか、想像しがたいと感じられる方もいるかもしれません。
私がお伝えしたいことは、どのような企業も、
「会社の資金を守る(=管理する)戦略」を知って、
うまく活用すれば、より有利になるということなのです。有利というのは、より多くの現金を会
社に残すことができるということです。
つまり、「資金効率が良い経営」とは、同じ資産を使って同じ利益を生み出したとしても、より
多くの現金が会社に残る経営なのです。より多くの現金が会社に残るのなら、その多く残った部
分を使って、ビジネスをより成長させることができます。また、別の現金を生み出す資産の獲得
に使うこともできます。または、福利厚生の充実に使ってもよいでしょう。
会社の口座に残る現金が多ければ多いほど、それを有効活用することによって、より大きな成
長を遂げることができるのです。これが「キャッシュ(=現金)は企業にとって血液と同じだ。」
と言われている理由です。
どのような局面でも、何を始めるにしても、まず必要なのは現金なのです。経営者であれば、
決してそこから目を逸らすことはできません。
私たち保険のパートナーは、保険を扱う会社です。みなさんに保険という「商品」を売ること
によって売上を得ています。しかし、扱っている商品こそ保険ですが、私たちが保険をみなさん
に紹介することを通じて実現を目指しているのは、「クライアント企業様の口座に残る現金を最大
化すること」なのです。そのために、保険を通じて、「会社の資金を守る(=管理する)戦略」を
お伝えしています。
これをしっかりとものにして頂ければ、保険本来の目的である「保障」はもちろんのこと、同時
に以下のような恩恵も受けることができます。
経営者の退職金準備
従業員の福利厚生
事業承継のための対策
本書は、法人にとって、有用な保険にはどのようなものがあって、それぞれにどのようなメリ
ット・デメリットがあるのかを詳しく解説しています。
「会社の資金を守る(=管理する)戦略」の深い部分には入っていきません。まずは、それぞれ
の保険の内容や特徴を知ることによって、「資金効率が良い経営」とは何かということに関して、
改めて考えてみて頂きたいのです。それが結果的に、「会社の資金を守る(=管理する)戦略」
に近付くことになります。
本書が、貴社にとって何か良い気づきになれば幸いです。
保険のパートナー
2
1
《 本書でご紹介する法人保険一覧 》
◎:最も適している、又は最も多く利用されている
○:適している、又はある程度多く利用されている
△:利用できないことはないが有用性が低い、又は利用が少ない
損益計上の
タイミング調節・
資金準備
経営者・役員の
退職金を
準備する
長期平準
定期保険
○
◎
○
逓増定期保険
○
○
◎
ニーズ
保険の種類
従業員の退職金
準備・福利厚生を
整える
終身保険
養老保険
○
◎
○
医療保険
◎※
○
がん保険
(解約返戻金なし)
◎※
○
△
△
がん保険
(解約返戻金あり)
事業承継の
対策をする
△
※お金でなく、引退後に保障を受けられるようにする
3
1
目次
第一章:
法人保険の前に!年 240 万円・累計 800 万円までの
キャッシュを全額損金算入できる「中小企業倒産防止共済」 (p.7)
中小企業倒産防止共済のメリット (p.7)
法人保険への加入を優先した方が良い場合もある (p.8)
中小企業倒産防止共済の加入条件等の詳細 (p.8)
第二章:
必要な資金を準備しながら損益計上のタイミングを
調整できる法人保険4つ (p.9)
1. 損益計上のタイミングを調整する方法 (p.10)
「保険料」と「解約返戻金」で損益計上のタイミングを調整する (p.10)
おまけ:「+α」の機能Ⅰ|いざという時に
予備資金としての活用ができる場合がある (p.16)
おまけ:「+α」の機能Ⅱ|契約者貸付の利用 (p.17)
2. 法人保険を損益計上のタイミング調整に利用する際の注意点 (p.17)
リスク1:保険料の支払のためにキャッシュフローが
悪化するおそれがある (p.17)
リスク2:早期解約等、返戻率が低いタイミングで解約すると損をする (p.18)
リスク3:解約返戻金を受け取った時に使い道がないと大幅な黒字が
計上されるリスクが高い (p.20)
3. 損益計上のタイミングを調整するのに役立つ保険の比較 (p.22)
4
第三章:
経営者・役員の退職金準備に役立つ法人保険2つ
+退職金代わりに使える法人保険2つ (p.23)
1. 長期平準定期保険|長期間かけての退職金積立と、
損益計上のタイミング調節ができる (p.24)
長期平準定期保険を利用した具体的な事例 (p.25)
長期平準定期保険を利用する際の注意点 (p.28)
2. 逓増定期保険|短期間で損益計上のタイミングを調整しながら退職金を
積み立てられる (p.29)
逓増定期保険を利用した具体的な事例 (p.31)
逓増定期保険を利用する際の注意点 (p.34)
3. 退職金代わりに一生涯の医療保障・がん保障を受けられる方法 (p.34)
第四章:
従業員の退職金準備・福利厚生に役立つ法人保険3つ (p.36)
1. 従業員の退職金準備・福利厚生に役立つ養老保険(福利厚生プラン) (p.37)
養老保険(福利厚生プラン)を利用した具体的な事例 (p.40)
養老保険(福利厚生プラン)を利用する際の注意点 (p.43)
2. 従業員の医療費をサポートする医療保険・がん保険(福利厚生プラン) (p.44)
医療保険(福利厚生プラン)を利用した具体的な事例 (p.45)
医療保険(福利厚生プラン)を利用する際の注意点 (p.49)
がん保険(解約返戻金のないタイプ) (p.49)
3. そのまま使える!「福利厚生規定」例 (p.51)
養老保険の福利厚生規定例|福利厚生型保険付保規定 (p.52)
医療保険・がん保険の福利厚生規定例|医療保険付保規定 (p.54)
複数の福利厚生プランに加入した場合の福利厚生規定例 (p.56)
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第五章:
事業承継対策に役立つ法人保険3つと経営者個人の生命保険 (p.59)
はじめに|誰を後継者にするかによって問題と対策が違う (p.60)
1. 「後継者=法定相続人」の場合の問題と対策 (p.61)
生命保険に個人加入して後継者のために必要な資金を準備する (p.64)
逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して自社株の評価額を引き下げる
(生前贈与の場合) (p.65)
終身保険・長期平準定期保険で会社が後継者から自社株を買い取る資金を
準備する(相続の場合) (p.66)
2. 「後継者 法定相続人」の場合の問題と対策 (p.69)
逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して自社株の評価額を
引き下げる (p.70)
あとがき
! お電話平日 9 :0 0 -1 9 :0 0 、 メ ー ル で は 24 時 間 受 け 付 け て お り ま す 。
ご 自 身 の 退職金準備
社員のための福利厚生も
フリーダイヤル
事業承継の対策も
01 20-957-713
受 付 時 間 平 日 : 9:00 ∼ 19:00
法 人 保険 の 相 談 を す る
6
第一章
法人保険の前に!年 240 万円・累計 800 万円までのキャッシュを
全額損金算入できる「中小企業倒産防止共済」
中小企業倒産防止共済は、掛金の全額が損金に算入できる上、40 ヶ月以上加入してい
れば掛金の全額を取り戻せるなど、メリットが非常に大きいので、利益が出ている企業が
キャッシュ最大化を考えるのであれば、まず最初に加入を検討していただきたい制度です。
とりあえず利益を圧縮したいとご希望ならば、まずはこの中小企業倒産防止共済に加入
して、掛金年間合計 240 万円・累計 800 万円という枠を使い果たすことを考えてください。
中小企業倒産防止共済のメリット
中小企業倒産防止共済のメリットは以下の 5 つです。
掛金の全額を損金に算入できる
40 ヶ月以上加入していれば解約時に掛金全額が戻ってくる
急な資金が必要になった時に無担保・低利率での貸付が受けられる
取引先が倒産して債権回収が困難な場合に共済金の貸付が受けられる
いつでも解約でき、またいつでも再加入できる
中小企業倒産防止共済の掛金は、全額を損金として算入できます。掛金は月 5,000 円
∼ 20 万円で、いつでも簡単に増額・減額できるので、キャッシュフローに悪影響を与え
ることは考えにくいと言えます。
そして、12 ヶ月以上加入していれば、解約した時には加入期間に応じた割合で「解約
手当金」を受け取ることができます。特に、40 ヶ月以上になれば解約手当金は掛金の
100%です。つまり、掛金の全額が返ってきます。この解約手当金は全額が「雑収入」と
して益金に算入されますので、たとえば、利益が出ている時には利益を圧縮しておき、赤
字が出そうな時に解約して解約手当金を受け取って赤字分をカバーするといった利用がで
きます。
7
第一章:続き
もちろん、解約手当金をご自身の退職金に充てることもできます。
さらに、取引先が倒産して売掛金等の回収が困難になった場合に、掛金の 10 倍、最大
8,000 万円まで共済金の貸付が受けられます。掛金を損金に算入しながら取引先の倒産の
リスクに備えられるという点で、きわめて有益と言えるでしょう。
掛金は支払っている段階では全額が損金に算入でき、連鎖倒産を防ぐことができ、しか
も最終的に掛金の全額が返ってくる。いつでも解約でき、またいつでも加入することがで
きる。これほどのメリットがありながらリスクはほとんどない・・・このような制度は他
にありません。
法人保険への加入を優先した方が良い場合もある
ただし、法人保険でご自身に万が一のことがあった場合の保障を備えたいとか、800 万
円を超える額の退職金を積み立てたいといったことをご希望かも知れません。もしそうで
あれば、中小企業倒産防止共済の掛金には限度がありますので、法人保険への加入を優先
した方がよい場合もあります。
つまり、今から中小企業倒産防止共済に加入して掛金の上限(年 240 万円、累計 800
万円)を充たそうとすると 40 ヶ月(3 年 4 ヶ月)かかりますが、法人保険ならば毎年
800 万円の損金を計上することも可能です。
また、生命保険の場合、加入する年齢が早いうちほど契約条件が有利になります。
したがって、あえて中小企業倒産防止共済に加入せず、ニーズに合った法人保険への加
入を優先することも一つの方法です。あるいは、中小企業倒産防止共済の掛金を抑えてお
いて法人保険に加入するという方法も考えられます。
倒産防止共済の加入条件等の詳細
倒産防止共済は、ほとんどの中小企業が利用できるようになっています。また月々の
掛け金の設定も自由度が高いです。詳しくは中小機構のサイトで確認するようにしまし
ょう。または、税理士などに頼むのも良いでしょう。
8
第一章:続き
加入条件について
掛金について
払い戻し率について
加入方法について
これから法人保険の機能別の活用法の説明に入りますが、もしも利益を圧縮したいとい
うことを第一にお考えであれば、法人保険に加入する前に、まずはこの中小企業倒産防止
共済を検討するようにしてください。
第二章
必要な資金を準備しながら損益計上の
タイミングを調整できる法人保険 4 つ
この章で紹介する保険
長期平準定期保険
逓増定期保険
養老保険
終身がん保険(解約返戻金のあるタイプ)
この章では、法人保険を利用して、利益の先送りなど損益の計上のタイミングを調節す
る方法と、そのデメリットについて説明します。この機能は、本書でご紹介する法人保険
7種類のうち4種類に共通するもので、最も重要な機能ですので、絶対に押さえておいて
いただきたいものです。
損益の計上のタイミングを調整する機能というのは、具体的には以下のことです。
1. お金を準備する段階で全部または一部を損金に算入して利益を圧縮できる
2. 積み立てたお金を支出する時の赤字幅を小さくできる、または黒字化できる
3. 積み立てたお金を予定通り利用すれば、最終的に現金・預金で積み立てた場合より多
くのお金を積み立てて支出したのと同じ効果が得られる
9
第二章:続き
ただ、とりあえず利益を圧縮することだけがご希望ならば、まずは中小企業倒産防止共済
に加入して、掛金年間合計 240 万円・累計 800 万円という枠を利用することを考えてく
ださい。
また、以下のような会社は法人保険の活用には適していません。ご自身の会社が以下の
条件にあたっていないかについても、確認してください。
① 来期以降、継続的に赤字を計上する可能性がある
② 新規事業への投資等を控えていて、その投資額以上のキャッシュがない
③ 決算まで1週間を切っている
これらに該当する会社は、法人保険を利用して損益計上のタイミングを調整するのには
向きません。
①②の会社は、むしろ、保険料の支払いのために経営が圧迫されたり、あるいは早期解
約しなければならなくなって解約時のリターンが少ないために損をしたりする可能性があ
ります。現段階では、事業を成長させて軌道に乗せることに専念した方が良いでしょう。
③の場合は、時間的に難しいです。というのも、加入手続として最低限、契約、医師の
診査、保険料の払込を済ませなければなりませんが、それには最低でも1週間はかかって
しまうからです。また、法人保険の保険料は高額なので、急いで加入するのは得策ではあ
りません。検討するならば次年度以降にしてください。
これから、法人保険を使って必要なお金を準備しながら損益計上のタイミングの調整を
する方法と、その際に気をつけなければならないデメリットを包み隠さずお伝えします。
1. 損益計上のタイミングを調整する方法
「保険料」と「解約返戻金」で損益計上のタイミングを調整する
前頁にも書きましたが、法人保険が損益計上のタイミングを調整するのに役立つというの
は、具体的には次の通りです。
10
第二章:続き
1. お金を積み立てる段階で全部または一部を損金に算入して利益を圧縮できる
2. 積み立てたお金を支出する時に赤字幅を小さくできる、または黒字化できる
3. 積み立てたお金を予定通り利用すれば、最終的に、現金・預金で積み立てた場合より
多くのお金を準備したのと同じ効果が得られる
これだけだとピンとこないと思いますので、同じ額の手持ちの資金を使って、自力で現
金・預金という形で積み立てる場合と、法人保険を利用する場合とを比較して、具体的に
説明します。
なお、法人実効税率は 36%と仮定して計算しています(実際には中小企業は 800 万円
の利益までは約 25%なので、最終的に支払う税金の総額はやや低くなります)。
■現金・預金という形で資金を積み立てる場合
たとえば、以下の会社で考えてみましょう。
数字がたくさん出てくるので、頭をすっきりさせるために手元に電卓を用意して読み進め
ることをおすすめします。
売上:2 億円
税引前利益:2,000 万円
この会社が、各年度に、税引前利益 2,000 万円のうち 500 万円を利用して、現金・預金
という形で退職金の資金を積み立て、10 年後に 2,500 万円の退職金を支払う予定を立て
たとします。
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第二章:続き
積立段階
500 万円
500 万円益金算入
益金
損金
税引き後に残る額
320 万円
10 年間の納税額
(500 万円(益金)-0 円(損金))
約 0.36(法人実効税率) 10 年間=約 1,800 万円
2,500 万円が一気に
損金算入
支出段階
その年度に 500 万円の税引前利益を利用して現金・預金という形で準備しようとすれば、
税金が 180 万円かかるので、納税後に残る額は約 320 万円になります。よって、キャッシュ
は 10 年間で 5,000 万円のうち約 3,200 万円しか残りません。そのため、退職金 2,500
万円を支払うと、手元には約 700 万円しか残らないことになります。
しかも、退職金 2,500 万円は一気に損金に算入されることになりますので、会計上も
大きな赤字を計上するというリスクが発生します。
大きな赤字(経常損失)が生じてしまうと、最悪の場合、会計上、債務超過とみなされ
てしまい、次年度以降に銀行からの融資審査が厳しくなるなど、キャッシュの調達が厳し
くなるなどの事態も考えられます。
このことからすれば、現金・預金という形で資金を積み立てるのは、積立の段階でも支
払の段階でもあまり効率が良いとは言えません。
■法人保険を利用して資金を積み立てる場合
それでは、同じ会社で、法人保険を利用するとどうなるでしょうか。
たとえば、こんな保険があります。「保険料」と、解約の時に受け取れる「解約返戻金」
に注目してください。
資金を積み立てる段階では「保険料」
支出する段階では「解約返戻金」
を活用するのです。
12
第二章:続き
保険料:500 万円 / 年 うち損金計上:1/2
10 年後の解約返戻金:5,000 万円(返戻率(※)100%)
※返戻率:支払った保険料のうち何%が返ってくるかということ。
返戻率=解約返戻金
保険料総額
まずはこの図をご覧ください。現金・預金で積み立てる場合と違う点を赤で示しています。
解約返戻金(5,000 万円)受取
積立段階
500 万円
500 万円益金算入
※(500 万円
5,000 万円―2,500 万円
(資産計上分)
=2,500 万円が益金算入
1/2 10 年分=2,500 万円)が資産計上
益金
損金
各年度に 500 万円
2,500 万円が一気に
損金算入
1/2=250 万円が損金算入
10 年間の納税額
支出段階
積立段階
(500 万円(益金)−250 万円(損金))
約 0.36(法人実効税率) 10 年間=約 900 万円
解約返戻金受取+支出段階
2,500 万円(益金)−2,500 万円(損金)=0 円(税金なし)
〈保険料の支払段階∼解約返戻金の受取段階〉
税引前の利益 500 万円の利益を保険料の支払いに充てます。すると、まず、1/2 の
250 万円が「前払保険料」として資産に計上されます。そして、残りの 1/2 の 250 万円
が「支払保険料」として損金に算入されるため、利益が 250 万円に圧縮されます。そのため、
そこにかかる税金を計算すると、約 90 万円ということになります。
13
第二章:続き
したがって、保険料を 10 年間支払うと、約 900 万円税金を納めることになります。
そして、加入から 10 年後に解約返戻金 5,000 万円を受け取ると、5,000 万円−約 900
万円=約 4,100 万円のキャッシュが残ることになります。
※保険料支払段階の経理処理
損金算入
(借方) 支払保険料 250 万円
(貸方) 現金預金 500 万円
前払保険料 250 万円
資産計上
〈解約返戻金の受取段階∼支出段階〉
解約返戻金を受け取ると 5,000 万円が会社の財布に入ってきます。ここで思い出して
いただきたいのですが、加入から 10 年後の時点で 10 年間にわたって資産に計上されて
きているのは「前払保険料」250 万円の 10 年分の 2,500 万円です。それが、解約返戻金
5,000 万円を受け取ることによって、前払保険料との差額 2,500 万円が突然帳簿上に現
れることになります(下図)。したがって、この契約の場合、10 年加入していれば、帳簿
外に 2,500 万円を貯めておいたのと同じだということです。
※解約返戻金受取段階の経理処理
(借方) 現金預金 5,000 万円
資産に計上されてきた分
(貸方) 前払保険料 2,500 万円
雑収入 2,500 万円
簿外にあった資産が
一気に現れる(益金に算入)
14
第二章:続き
そして、この簿外に貯めておいた 2,500 万円は「雑収入」として益金に算入されます。
その結果、現金・預金で積み立てた場合と比べて、退職金 2,500 万円の支出による赤字
の幅を小さくできます。
また、解約返戻金 5,000 万円のうち益金に算入されるのが 2,500 万円で、退職金とし
て支出するお金(損金)が 2,500 万円ですので、差し引き 0 円になります。そのため、
解約返戻金を受け取るのと同じタイミングで退職金を支給すればこの益金 2,500 万円に
対して税金はかからないことになります。
したがって、現金を約 4,100 万円を積み立てて、そこから退職金 2,500 万円を支払っ
たのと同じ効果が得られることになります。
結局、現金・預金で準備する場合と比較すると、
1. 積立段階で保険料 500 万円のうち 250 万円を損金に算入して税負担を抑えられる
2. 受け取った解約返戻金を同じタイミングで退職金に充てることによって、現金・預金
で積み立てた場合より 900 万円多くキャッシュを準備できたのと同じ効果が得られる
3. 退職金 2,500 万円を支出すると収支を
0 円にできる
ということになります。
同じ税引前利益で 10 年間かけて積み立てたにもかかわらず、現金・預金で積み立てる
場合は 3,200 万円しか残らないのに対し、法人保険を利用した場合は 4,100 万円のキャッ
シュを積み立てられるのです。その差は 900 万円と、大きい金額です。
しかも、同じ 2,500 万円の退職金を支出しても、赤字が出ないようにすることができ
るのです。
15
第二章:続き
5,000 万円
(税引前利益 10 年間)
900 万円
3,200 万円
積立
4,100 万円
積立
現金・預金で
積立
法人保険で
積立
つまり、現金・預金で積み立てるより、法人保険を利用して積み立てる方が、会社にキャッ
シュをより多く残せるということなのです。
おまけ:「+α」の機能Ⅰ|いざという時に予備資金としての活用が
できる場合がある
予期しない天災や損害が発生するなどして、緊急に多額の資金が必要になるということ
があるかも知れません。そんな時、タイミングによっては保険を解約して対応することも
できます。
ただし、これはあくまで、タイミングが合えば、の話です。後で説明しますが解約返戻
金はタイミングによっては返戻率が低くて支払った保険料の 30%程度しか返ってこない
こともあります。明確な解約返戻金の使い道を定めず「いざという時に備えて」という理
由だけで保険に加入するというのはおすすめできません。
また、解約返戻金をいざという時の予備資金として活用しやすい、つまりタイミングが
合いやすい保険とそうでない保険とがありますので、注意してください。
16
第二章:続き
予備資金として利用しやすい保険:長期平準定期保険、養老保険、終身がん保険
(解約返戻金あり)
予備資金として利用しにくい保険:逓増定期保険
おまけ:「+α」の機能Ⅱ|契約者貸付の利用
損益計上のタイミングの調整に利用できる法人保険は、いずれも満期前に契約者貸付が
活用できます。借入限度額はその時点の解約返戻金の 90%程度です。利率は年 3%程度
ですが、担保を立てる必要はないし、面倒な審査もなく、申請から 1 週間程度で受け取れ
ます。これによって、急なまとまった額の出費に対応することができます。
2. 法人保険を損益計上のタイミング調整に利用する際の注意点
これまで、必要な資金の準備とそのための損益計上のタイミング調整に、4 種類の法人
保険が利用できるという話をしました。
しかし、その反面、リスクがあることも忘れてはなりません。
リスクは以下の通りです。
1. 保険料の支払のためにキャッシュフローが悪化するおそれがある
2. 早期解約等、返戻率が低いタイミングで解約すると損をする
3. 解約返戻金を受け取った時に使い道がないと結果的に税効果の恩恵を受けられなくなる
リスク1:
保険料の支払のためにキャッシュフローが悪化するおそれがある
年払保険料 500 万円の法人保険に加入する場合、単純に年間 500 万円がキャッシュア
ウトしてしまいます。また、保険料は毎年支払わなければなりません。つまり、その分、
会社の現金が減りキャッシュフローが悪くなります。
17
第二章:続き
会社にとって最も重要なことは、キャッシュを最大化して事業を発展させ、利益を安定
して出し、従業員の生活を守ることです。キャッシュフローの悪化は、経営にとって致命
傷になるリスクがあります。そのため、法人保険に加入することでキャッシュフローが悪
化して経営に悪影響が出そうなのであれば、加入するべきではありません。法人保険に加
入する前に、必ずキャッシュフローの試算をしておくようにしてください。
リスク 2:
早期解約等、返戻率が低いタイミングで解約すると損をする
損益計上のタイミングを調整するのに、積立段階では「保険料」の 1/2 を積み立てて利
益を圧縮し、退職金等の支払いの段階では「解約返戻金」を受け取って大赤字のリスクを
小さくするということを説明しました。
ただ、解約返戻金の額は時間とともに変化します。早期解約の場合は解約返戻金の返戻率
が低く損をしてしまうのはもちろんのこと、契約内容によって解約返戻金の額の変動パター
ンが違います。
変動のパターンは大きく分けて2つあります。「ピークがあるタイプ」と「ピークがないタ
イプ」です。
〈ピークがあるタイプ〉
長期平準定期保険
逓増定期保険
これは、解約返戻金の額が契約期間の途中まで増え続け、ピークを迎えると、今度は満
期へ向けて減っていきます。金額の変化をグラフにすると、以下のように釣鐘型を描きま
す。
18
第二章:続き
《「ピーク」があるタイプの解約返戻金額の推移(イメージ)》
解約返戻金
の金額
解約すべき
タイミング
解約
返戻金
時間
始期
解約返戻金
のピーク
満期
このタイプの保険では、ピークの前後に解約しないと、それまで支払った保険料の総額
よりもかなり低い額の解約返戻金しか受け取れません。
ただ、ピークが来る時期、ピーク時の解約返戻金の返戻率、ピークの長さ等は商品によっ
て違います。したがって、自分の計画やニーズに合ったものを選ぶことが重要です。
〈ピークがないタイプ〉
養老保険
終身がん保険(解約返戻金のあるタイプ)(※)
※本当はピークがあるがきわめて遅いため、そこまでに契約が終わることが
ほとんどなので事実上ピークがないのと同じ
このタイプは、解約返戻金の額が増え続けます。増え続けるといっても、ペースは一定
ではなく、最初のうちは返戻率がかなり低くなっています。
19
第二章:続き
《「ピーク」がないタイプの解約返戻金額の推移(イメージ)》
解約返戻金
の金額
解約すべき
タイミング
(返戻率 90 ∼ 100%)
解約返戻金
時間
始期
保険料
払込終了
なお、養老保険の場合は解約返戻金だけでなく、最終的に「満期保険金」が受け取れます。
イメージとしては、解約返戻金が最後の最後に満期保険金に変わると思っていただければ
けっこうです。
「ピークがあるタイプ」と「ピークがないタイプ」のどちらも、もしも解約返戻金の返戻率
が低い時期に解約してしまうと、それまでにせっかく毎年高額な保険料を支払ったのに、
それよりも低い額しか取り戻せないことになります。
よく聞く話ですが、保険に加入したはいいが早い時期に経営が苦しくなって保険料が支払
えなくなり、解約せざるを得なくなったため、保険料総額の 30%程度の解約返戻金しか受
け取れなかったなどという話があります。そうなってしまうくらいならば、加入せずに現
金・預金で積み立てた方がキャッシュは多く残ります。
リスク3:解約返戻金を受け取った時に使い道がないと
大幅な黒字が計上されるリスクが高い
解約返戻金(養老保険の場合は満期保険金も)を受け取ると、そこから、保険料のうち
資産に計上された額があれば差し引かれ、残りが「雑収入」として益金に算入されます。
そして、そこに一気に法人税が課税されるということになります。
20
第二章:続き
つまり、保険料の全部または一部の損金算入という扱いは、法人税の課税のタイミングを
解約返戻金の受取時まで引き延ばす「課税の繰り延べ」にしかならないということです。
もう一度、P.13 と同じ図で、5,000 万円の使い道がなかったらどうなるでしょうか。
保険料:500 万円 / 年 うち損金計上:1/2
10 年後の解約返戻金:5,000 万円(返戻率 100%)
解約返戻金(5,000 万円)受取
積立段階
500 万円
500 万円益金算入
※(500 万円
5,000 万円―2,500 万円
(資産計上分)
=2,500 万円が益金算入
1/2 10 年分=2,500 万円)が資産計上
益金
損金
各年度に 500 万円
1/2=250 万円が損金算入
(使い道なし
=損金計上できず)
10 年間の納税額
積立段階
(500 万円(益金)−250 万円(損金))
約 0.36(法人実効税率) 10 年間=約 900 万円
解約返戻金受取段階
2,500 万円(益金)−0万円(損金)
合計約 1,800 万円
約 0.36(法人実効税率)=約 900 万円
この場合、2,500 万円が益金に算入されるだけで使い道がありませんので、大きすぎる
黒字を計上してしまうおそれがあります。
また、資金の準備という点だけに注目すると、保険料を支払っている段階で税金を合計
約 900 万円支払い、解約返戻金を受け取った年度に税金を約 900 万円支払うことになる
ので、準備できたお金は結果的に 5,000 万円(解約返戻金)−約 1,800 万円(税金)=約
3,200 万円となり、現金・預金だけで積み立てた場合との違いがなくなってしまいます。
21
第二章:続き
このことからすれば、解約返戻金を受け取るタイミングと、受け取ったお金を支出する
タイミングを合わせる必要があるということが分かると思います。したがって、解約返戻
金の使い道・タイミングについての計画、つまり「出口戦略」を立ててから契約すること
はたいへん重要です。出口戦略が立てられないのであれば、当面の間は必要な資金を現金・
預金で積み立てていく方が無難でしょう。
3. 損益計上のタイミングを調整するのに役立つ保険の比較
以下の表は、損益計上のタイミング調整に利用できる 4 つの法人保険について、保険料、
保険金額・解約返戻金のピークの有無等を比較したものです。
保険種類
保険料の額
保険料の扱い
保険金額・
給付金額
保障範囲
解約返戻金の
ピークの有無
解約返戻率の
高さ
解約返戻金の
ピークの長さ
長期平準
定期保険
高額
1/2 損金
高額
死亡・高度障害
有
90 ∼100%程度
(ピーク時)
長
逓増定期保険
超高額
1/2 損金
1/3 損金
1/4 損金
超高額
( 逓増)
死亡・高度障害
有
90 ∼100%程度
(ピーク時)
短
養老保険
高額
1/2 損金
高額
死亡・高度障害、
満期に生存
無
90 ∼100%程度
(満期には満期保
険金が受け取れる)
―
高額
1/2 損金
高額
がん
無
80 ∼ 90%程度
(当初は低い)
―
終身がん保険
(解約返戻金あり)
注意していただきたいのは、
「 資金が何年後に、何のために必要か 」という点です。
特に、「終身がん保険(解約返戻金ありのタイプ)」は、解約返戻金の返戻率が低いため、
加入にあたっては注意が必要です。たとえば、生命保険に加入しようとして診査で引っか
かってしまった場合であれば、がんの場合への備えと退職金の準備・損益計上のタイミン
グ調整を兼ねて加入するのは合理的だと思います。また、生命保険には保障の限度額とい
うのがあるので、それ以上の額で加入したいというのであれば、ひとつの選択肢になりま
す。
結局のところ、どの会社にも合う保険というものはありません。それぞれの会社が、自
分の会社のニーズを総合的に考えて検討する必要があります。そこで、第三章以降では、
それぞれの法人保険の保障内容・性質に応じた具体的な活用法と、それぞれの保険に特有
のリスク・デメリットについてお伝えしていきます。
それぞれの保険商品の特徴を見極め、自分の会社のニーズに合った保険を選択するよう
にしてください。
22
第三章
経営者・役員の退職金準備に役立つ法人保険2つ
+退職金代わりに使える法人保険2つ
この章で紹介する保険
長期平準定期保険
逓増定期保険
終身がん保険(解約返戻金のないタイプ)
医療保険
この第三章では、経営者・役員の退職金準備に役立つ法人保険 2 種類について説明しま
す。また、おまけとして、退職金の代わりに一生涯の医療保障・がん保障を受けられるよ
うにできる保険 2 種類についても説明します。
なお、保険で経営者・役員の退職金を準備するということは、老後の生活資金を準備す
るということの他にも、事業承継にも役立つ面があります。それは第五章で説明します。
経営者・役員の退職金準備に利用される法人保険は、以下の2種類の定期保険です。
いずれも、解約返戻金のピークがあるタイプです。保険料の一部を損金に算入しながら
退職金を「解約返戻金」として積み立てておき、ピーク時に解約すると同時に退職金を支
給することで、損益計上のタイミングを調整して効率よく資金を積み立てるのに役立ちま
す。
また、特に長期平準定期保険の場合、解約返戻金のピークが長いので、急に多額の資金
が必要になった場合の予備資金としても活用しやすいと言えます。
保険種類
保険料の額
保険料の扱い
保険金額・
給付金額
保障範囲
解約返戻率の
高さ
解約返戻金の
ピークの長さ
長期平準
定期保険
高額
1/2 損金
高額
死亡・高度障害
90 ∼100%程度
(ピーク時)
長
逓増定期保険
超高額
1/2 損金
1/3 損金
1/4 損金
超高額
( 逓増)
死亡・高度障害
90 ∼100%程度
(ピーク時)
短
23
第三章:続き
1. 長期平準定期保険|
長期間かけての退職金積立と、損益計上のタイミング調節ができる
保険料の額
保険料の扱い
保険金額・
給付金額
保障範囲
解約返戻率の
高さ
解約返戻金の
ピークの長さ
高額
1/2 損金
高額
死亡・高度障害
90 ∼100%程度
(ピーク時)
長
長期平準定期保険は、保険期間が大変長く、その間の死亡保険金額が変わらない(=平
準の)定期保険です。
経営者の身に万が一のことがあった場合の事業保障のための保険なので、死亡保険金は
高額で、保険料も高額です。
保険料は 1/2 が損金に算入されます。
また、解約返戻金のピークは 20 ∼ 30 年後のかなり遅い時期に設定されていて、しか
も長く続くのが特徴です。
《イメージ》
死亡保険金額
死亡保険金
解約返戻金
解約返戻金のピーク
(20 ∼ 30 年後)
保険期間
死亡保険金額は高額で一定している
解約返戻金のピークが来るのが 20 ∼ 30 年目と遅く、ピークの時期が長い
保険料が高額
24
第三章:続き
たとえば 40 歳で長期平準定期保険に加入した場合、ピークが来るのは 60 歳∼ 70 歳
ということになります。それほど先の資金といえば、明確な目的は、退職金の準備である
場合がほとんどです。
ただ、ピーク期間が長いことを考えれば、いざという時のための緊急予備資金も兼ねて
ということも考えられます。
したがって、長期平準定期保険は、以下の条件を充たす場合に向いています。
現在 30 代か 40 代で、向こう 20 年∼ 30 年にわたり損益のタイミングを
調整しながら退職金を効率的に積み立てたい
退職金の準備と並行して緊急時の予備資金をプールしておきたい
自分の身に万一のことがあった場合の事業保障を備えたい
利益とキャッシュフローが概ね安定していて長年にわたり
保険料を支払い続けられる
それでは、長期平準定期保険に加入したらどのような効果があるのか、事例で詳しく説
明していきます。
長期平準定期保険を利用した具体的な事例
以下の契約例をもとに説明します。
税金は、法人実効税率を 36.0%として計算しています。
〈契約者のデータ〉
〈契約内容〉
経営者:40 歳 男性
死亡保険金:3 億円
経営者の退職予定年齢:65 歳
保険料:613 円 / 年
売上:年 3 億円
解約返戻金のピーク:25 年後(65 歳)
税引前利益:1,000 万円
解約返戻金のピーク時の額:
1 億 5,394.2 万円(返戻率 100.3%)
従業員数:30 名
25
第三章:続き
経営者の退職予定年齢は 65 歳なので、解約返戻金のピーク(25 年後)はそれに合わ
せて設定されています。
※返戻率 = 支払保険料総額に対して解約した時に何%戻るか表したもの
経過年数
( 保険年度 )
年齢
ご契約時
1
40
2
42
3
4
41
43
44
病気死亡時保障金額
災害死亡時保障金額
支払保険料累計
30,000.0
30,000.0
-
30,000.0
30,000.0
30,000.0
30,000.0
( 万円 )
30,000.0
30,000.0
( 万円 )
(円)
18,407,700
1,452.0
78.8
30,679,500
2,658.9
86.6
36,815,400
3,273.9
88.9
4,527.0
92.2
12,271,800
30,000.0
24,543,600
6
46
7
47
30,000.0
30,000.0
8
48
30,000.0
30,000.0
9
49
30,000.0
10
50
30,000.0
30,000.0
15
55
20
60
30,000.0
30,000.0
25
65
30,000.0
30,000.0
122,718,000
30
70
30,000.0
184,077,000
35
75
30,000.0
30,000.0
40
80
45
85
50
90
55
95
60*
100
30,000.0
30,000.0
44.9
30,000.0
30,000.0
276.0
30,000.0
30,000.0
( 万円 )
返戻率
6,135,900
45
5
解約返戻金額
859.8
2,051.4
42,951,300
3,896.7
55,223,100
5,164.5
49,087,200
70.0
83.5
90.7
93.5
61,359,000
5,808.9
94.6
92,038,500
8,986.2
97.6
153,397,500
15,394.2
100.3
30,000.0
214,756,500
20,318.1
94.6
30,000.0
30,000.0
245,436,000
91.6
30,000.0
30,000.0
276,115,500
22,483.5
306,795,000
82.5
30,000.0
30,000.0
337,474,500
25,318.8
0.0
0.0
30,000.0
30,000.0
30,000.0
30,000.0
30,000.0
30,000.0
368,154,000
12,117.3
17,916.9
98.7
97.3
24,253.8
87.8
24,090.9
71.3
26
第三章:続き
この契約の場合、解約返戻金の返戻率は、7 年目(47 歳)から 90%を超えて、退職予
定の 25 年目(65 歳)にピークの 100.3%になります。また、30 年後(70 歳)でも
97.3%と高い率を維持しています。つまり、逓増定期保険と比べて、ピークが来るのが
遅く、また、ピークは長く続きます。
そのため、長期平準定期保険は解約時期の幅を持たせやすいと言えます。もちろん、長
期の契約になるので、解約返戻金はいざという時のための予備資金として役立てることも
やりやすいでしょう(P.16 参照)。
(保険料支払∼解約返戻金受取段階)
まず、税引前利益 1,000 万円のうち約 614 万円を保険料に充てると、その 1/2 の約
307 万円を損金に算入することができます(残りの 1/2(約 307 万円)は資産計上)。そ
の結果、その年度は益金に約 614 万円、損金に約 307 万円が算入されるので、法人税の
額は約 110.5 万円です。そのため、25 年間で税金を約 2,763 万円支払うことになります。
そして、解約返戻金のピーク時に解約すると 1 億 5,394.2 万円を受け取れます。その
ため、この時点で実質的に手元にあるキャッシュは、税金の総額約 2,763 万円を差し引
くと約 1 億 2,631.2 万円ということになります。
他方、同じ約 614 万円の利益から現金・預金で積み立てようとすると、1 年度につき
税引後利益約 393 万円、25 年間で約 9,824 万円しか残りません。
したがって、会社に残るキャッシュは、長期平準定期保険に 25 年間加入した場合約 1
億 2,631.2 万円、現金・預金で積み立てた場合約 9,824 万円なので、長期平準保険の方
が約 2,807.2 万円多く残ることになるわけです。
(解約返戻金受取∼退職金支給段階)
加入から 25 年後に解約して解約返戻金約 1 億 5,394.2 万円を受け取ると、そのうち、
それまで 25 年間にわたって資産に計上されてきた約 7,675 万円を差し引いた額・約
7,719.2 万円が益金に算入されます。したがって、たとえば退職金を 7,000 万円支払う
とすると 719.2 万円が残ります(そこに税金が 258.9 万円かかります)。
なお、これとの比較で、毎年約 614 万円の税引前利益から現金・預金で積み立てて退
職金 7,000 万円を支給する場合はどうなるか見てみましょう。この場合、上で述べたよ
うに、25 年間で約 9,824 万円しか手元に残りません。
27
第三章:続き
しかも、退職金 7,000 万円の支給によりそれが損金に算入されるので、何とかそれをカ
バーする益金を計上できないと、大幅な赤字を計上してしまうリスクが高くなってしまい
ます。
以上、「保険料の支払」→「解約返戻金の受取+退職金の支払」というプロセスを全体と
してみると、毎年約 614 万円の利益の中から 25 年間で約 1 億 2,631.2 万円の退職金を
積み立てて退職金を支払ったことになります。同じ約 614 万円の利益の中から現金・預
金で積み立てられるお金は約 9,824 万円にとどまるので、それと比べると約 2,807.2 万
円多く積み立てられたことになります。
しかも、退職金の支払いにより大きな赤字を出してしまうリスクがあったところ、約
719.2 万円の黒字を計上できています。
したがって、貯蓄で積み立てるよりも、手持ちのキャッシュを有効活用できたことにな
ると言えます。
長期平準定期保険を利用する際の注意点
長期平準定期保険を利用する際に特に注意していただきたい点は以下の 2 点です。
高額な保険料がキャッシュフローを悪化させるリスクがある
解約返戻金のピーク期間に引退しないと損をする
キャッシュフロー悪化のリスクについては P.17 ∼ 18 で説明しましたので、ここでは、
「解約返戻金のピークがくるまでに後継者が見つからないと損をする」というリスクにつ
いて説明します。
長期平準定期保険の解約返戻金のピークの期間は長いので、その間に解約できないとい
うリスクはそれほど高くはありません。しかし、そうは言っても、たとえば、後継者がど
うしても見つからずどうしても引退できなくなってしまうことが絶対にないとまでは言い
切れません。
28
第三章:続き
もしそうなってしまった場合、対処法はあるにはあります。長期平準定期保険の場合、
ピークの期間が比較的長いので、ピークの期間内に何年度かに分けて少しずつ段階的に死
亡保険金額を減額していくのです。保険金の減額=保険契約の一部解約ということになり
ますので、死亡保険金の減額の割合に応じた解約返戻金が返ってきて、その都度、ちびち
びと益金に計上されます。そのため、とりあえず、ひとつの年度に大幅な黒字を計上して
しまうという事態だけは避けられます。ただ、これはあくまでダメージを最小限にとどめ
る措置にすぎません。やはり、ピーク時にきちんと引退できるに越したことはありません。
2. 逓増定期保険|
短期間で損益計上のタイミングを調整しながら退職金を積み立てられる
保険料の額
保険料の扱い
保険金額・
給付金額
保障範囲
解約返戻率の
高さ
解約返戻金の
ピークの長さ
超高額
1/2 損金
1/3 損金
1/4 損金
超高額
( 逓増)
死亡・高度障害
90 ∼100%程度
(ピーク時)
短
逓増定期保険とは、死亡保険金額が加入時から短期間のうちに当初の 5 倍程度まで増
えていく定期保険を言います。
死亡保険金は莫大で、最初は1億円からスタートして5億円まで増える商品もあります。
また、解約すれば「解約返戻金」を受け取ることができます。逓増定期保険で退職金を準
備する場合、この解約返戻金を退職金の財源に充てることになります。
解約返戻金のピークは加入 5 ∼ 10 年目くらいであることが多いです。また、ピーク時
の解約返戻金の額は、それまでに支払われた保険料の総額の 90%∼ 100%程度に設定さ
れることが多いです。つまり、5 ∼ 10 年目という早い時期に保険料総額と同程度の解約
返戻金を受け取れます。そのため、保険料も非常に高額です。
保険料は、一部を損金に算入することが認められています。損金に算入できる割合が
1/2、1/3、1/4 の3タイプが認められています。
29
第三章:続き
《イメージ》
最終的な
死亡保険金額
当初の5倍
死亡保険金
解約返戻金
当初の保険金
解約返戻金のピーク
(5 ∼ 10 年後)
保険期間
逓増定期保険は、5 年∼ 10 年の短期間で多額の解約返戻金が積み上がるものなので、
資金の用途は、退職金だけでなく、大規模なプロジェクトの計画等も考えられます。
ただ、「いざという時の緊急予備資金のため」といった不明確な目的だと、解約返戻金
のピークが短いので、たまたま解約返戻金のピークにアクシデントが重ならないと損金を
計上できず、莫大な益金だけが計上されてしまうことになりかねません。したがって、解
約返戻金の明確な使い道が必要です。
以上を考えると、逓増定期保険は、以下の条件を充たす場合に向いていると思います。
5 年∼ 10 年以内に退職金等のまとまった資金が必要なので、損益のタイミング
を調整しながら資金を効率よく準備したい
自分の身に万一のことがあった場合の事業保障を備えたい
キャッシュフローが潤沢で 5 年∼ 10 年にわたり高額な保険料を支払い続けられる
具体的に逓増定期保険に加入したらどのような効果があるのか事例で詳しくお伝えして
いきます。
お手元に電卓を置いてお読みください。
30
第三章:続き
逓増定期保険を利用した具体的な事例
以下の契約例をもとに説明します。
税金は、法人実効税率を 36.0%として計算しています。
〈契約者のデータ〉
〈契約内容〉
経営者:55 歳 男性
死亡保険金:1 億円→5 億円
経営者の退職予定年齢:65 歳
保険料:約 878 万円 / 年
売上:年 2 億円
解約返戻金のピーク:10 年後(65 歳)
税引前利益:1,000 万円
解約返戻金のピーク時の額:
87,322,300 円(返戻率 99.5%)
従業員数:20 名
経営者の退職予定年齢は 65 歳なので、解約返戻金のピーク(10 年後)はそれに合わ
せて設定されています。
解約返戻金の推移については、以下の表をご覧ください。
31
第三章:続き
経過年数
年齢
保険料累計
解約時受取金額
単純返戻率
1
56 歳
8,780,285 円
1,500 円
0.0%
2
57 歳
17,560,570 円
3,145,800 円
17.9%
3
58 歳
26,340,855 円
9,680,000 円
36.7%
4
59 歳
35,121,140 円
19,683,950 円
56.0%
5
60 歳
43,901,425 円
33,207,800 円
75.6%
6
61 歳
52,681,710 円
50,341,350 円
95.6%
7
62 歳
61,461,995 円
59,334,650 円
95.5%
8
63 歳
70,242,280 円
68,477,650 円
97.5%
9
64 歳
79,022,565 円
77,790,200 円
98.4%
10
65 歳
87,802,850 円
87,322,300 円
99.5%
15
70 歳
131,704,275 円
89,140,550 円
79.2%
20
75 歳
175,605,700 円
0円
0.0%
この契約の場合、解約返戻金の返戻率は、6 年目から 95%を超えて、退職予定の 10 年
目にピークの 99.5% になります。10 年目に解約したとすると支払保険料の総額が約
8,780 万円になっているため、解約返戻金はその 99.5%の約 8,732 万円受け取れること
になります。
10 年間にわたり毎年保険料約 878 万円の 1/2 の約 439 万円を損金に算入することが
でき、退職金を準備できるということになります。
32
第三章:続き
(保険料支払∼解約返戻金受取段階)
まず、税引前利益 1,000 万円のうち約 878 万円の利益を保険料に充てると、その 1/2
の約 439 万円を損金に算入することができます(残りの 1/2(約 439 万円)は資産計上)。
その結果、その年度は益金に約 878 万円、損金に約 439 万円が計上されるので、法人税
の額は約 158 万円です。そのため、10 年間で税金を約 1,580.4 万円支払うことになります。
そして、解約返戻金のピーク時に解約すると約 8,732 万円を受け取れます。そのため、
この時点で実質的に手元に残るキャッシュは、税金の総額約 1,580.4 万円を差し引くと
約 7,151.6 万円です。
これに対し、同じ約 878 万円の税引前利益を利用して現金・預金で積み立てようとす
ると、1 年度に税引後利益約 561.9 万円、10 年間で約 5,619.2 万円しか残りません。
したがって、会社に残るキャッシュは、逓増定期保険に 10 年間加入した場合約
7,151.6 万円、現金・預金で積み立てした場合約 5,619.2 万円なので、逓増定期保険に
加入した方が約 1,532.4 万円多く残ることになります。
(解約返戻金受取∼退職金支給段階)
加入から 10 年後に解約して解約返戻金約 8,732.2 万円を受け取ると、そのうち、それま
で 10 年間資産に計上されてきた約 4,390 万円を差し引いた額・約 4,342.2 万円が益金
に算入されます。したがって、そこから退職金をたとえば 4,000 万円支払うとすると、
約 342.2 万円残ります(そこに税金が約 123.2 万円かかります)。
4,000 万円を支給すると損金に計上されるため大幅な赤字を計上してしまうリスクがある
ところ、解約返戻金により益金が約 4,342 万円される結果、退職金を支払っても約 342
万円の黒字が残るというわけです。
以上、「保険料の支払」→「解約返戻金の受取+退職金の支払」というプロセスを全体とし
てみると、毎年約 878 万円の利益の中から 10 年間で約 7,151.6 万円準備して退職金を
支払ったことになります。同じ約 878 万円の利益の中から現金・預金で積み立てられる
お金は約 5,619.2 万円にとどまるので、それと比べると約 1,532.4 万円の差があります。
また、退職金の支払により過大な赤字を出してしまうリスクがあったところ、約 342.2
万円の黒字にできています。
したがって、貯蓄で資金をまかなうよりも、手持ちのキャッシュを有効活用できたことに
なると言えます。
33
第三章:続き
逓増定期保険を利用する際の注意点
逓増定期保険を利用する際に特に注意していただきたい点は以下の 2 点です。
高額な保険料がキャッシュフローを悪化させるリスクがある
解約のタイミングを外してしまうリスクが高い
キャッシュフローの悪化については、P.17 ∼ 18 をご覧ください。ここでは「解約の
タイミングを外してしまうリスクが高い」という話をします。
上の契約例で、当初は 65 歳で引退しようと考えていても、後継者が見つからないなど
の事情で、引退時期を数年延ばさなければならなくなることもありえます。その場合には
注意が必要です。逓増定期保険の場合、長期平準定期保険と違ってピークはかなり短いの
です。もう一度 P.30 のグラフと P.32 の表をご覧ください。ピークを過ぎるとすぐに返
戻率が下がっていきます。15 年目になると 79.2%まで下がり、保険期間終了の 20 年目
になると 0%になってしまいます。
したがって、解約のタイミングと、退職金等のお金が必要なタイミングがずれてしまう
リスクが高いのです。
3. 退職金代わりに一生涯の医療保障・がん保障を受けられる方法
ここまでは、経営者・役員の退職金を積み立てる方法について説明してきましたが、退
職金の代わりに経営者・役員が引退後に無償で医療保障・がんに対する保障を受けられる
ようにできる方法があります。
それは、会社が経営者・役員を被保険者として終身タイプの掛け捨ての(=解約返戻金
がない)医療保険・がん保険に加入(法人契約)し、退職金代わりに経営者・役員個人へ
と「名義変更」する方法です。
このような保険は、解約返戻金がないタイプなので、保険料は全額が損金に算入されま
す。もちろん、在職中にがんやその他の病気になれば、給付金で事業資金や医療費をカバー
することができます。三大疾病の保障・介護の保障を付けることができる商品もあります。
34
第三章:続き
契約時に、保険料の支払いが終わる時期を経営者・役員の退職時期に合わせて設定して
おき、そのタイミングで退職金代わりに支給するのです。こうすれば、払込が完了した契
約を経営者・役員個人へと名義変更することになるので、経営者・役員は、以後は保険料
を支払わずに一生涯の保障を受けることができます。
加入
(50 歳)
引退・名義変更
(60 歳)
保険料負担なしで
医療保障をうけられる
︵死亡︶
保険料
会社負担
(10 年で払込完了)
〈医療保険(契約者向けプラン)の契約例〉
50 歳 男性
保険期間:終身
保険料:372,567 円 / 年
保険料払込期間:10 年
入院給付金日額:1 万円
支払限度:120 日
180 日(三大疾病以外の七大生活習慣病)
無制限(三大疾病)
災害入院給付金日額:1 万円
手術給付金:20 万円(入院)
5 万円(外来)
先進医療特約:2,000 万円(通算)
三大疾病入院一時給付金:100 万円
がん診断給付金:150 万円(支払限度:2 年に 1 回)
がん通院給付金日額:1 万円
35
第三章:続き
身を削る思いをして会社を発展させ、従業員の生活を守ってきた経営者の方にとって、
最後にこのような保障が受けられるということは、何よりの慰労になるのではないでしょ
うか。
一番のポイントは、解約返戻金がないタイプの終身医療保険(または終身がん保険)な
ので、名義変更をしても法人・個人ともに経済的な負担が発生しない点です。解約返戻金
がない=資産価値がないとみなされているためです。
また、今後、わが国の財政が厳しくなっていくことが予想され、現在の水準の公的医療
保障が受けられなくなる可能性があります。このことを考えると、魅力的な活用法の一つ
です。
第四章
従業員の退職金準備・福利厚生に役立つ
法人保険3つ
この章で紹介する保険
養老保険
医療保険
がん保険(解約返戻金のないタイプ)
会社の経営が軌道に乗って安定してお金を稼げるようになってくると、次は従業員の福
利厚生をどうやって整えるかということが課題になってきます。稼ぎ出したキャッシュを
使って福利厚生を整え待遇を改善することは、従業員のやる気を引き出し、会社がよりいっ
そう多くのキャッシュを稼ぎ出す原動力になるという良い循環を作り出します。
そこで法人保険を利用すれば、福利厚生の制度をより効率的に整えるのに役立ちます。
この章では、まず退職金制度を整えながら従業員の家族の福利厚生にも役立つ養老保険
について説明したうえで、従業員の医療費をサポートする医療保険とがん保険(解約返戻
金のないタイプ)についても説明します。
36
第四章:続き
1. 従業員の退職金準備・福利厚生に役立つ養老保険(福利厚生プラン)
福利厚生の中でも、特に重要なのは退職金の制度です。というのは、従業員の老後の生
活資金をある程度会社が保障し、老後の心配をすることなく安心して長く働いてもらうこ
とができるからです。退職金の制度がしっかりしていれば、有能な人材も集まりやすくな
るでしょう。
現在、従業員の退職金準備に利用されている法人保険は、圧倒的に養老保険です。ほと
んど一択といっても過言ではありません。
実は、つい数年前まで、退職金の準備には終身がん保険(解約返戻金のあるタイプ)が
よく利用されていました。それは、保険料の全額が損金に算入できるという扱いが黙認さ
れていたからです。しかし、数年前に通達が出され、損金算入が 1/2 までしか認められ
なくなりました。そうなると、解約返戻金の返戻率が 80 ∼ 90%にとどまる終身がん保
険よりも、養老保険の方が効率が良いと言えます。
《 養老保険(福利厚生プラン)と終身がん保険(解約返戻金のあるタイプ)の比較 》
保険種類
保険料の額
保険料の扱い
保険金額・
給付金額
保障範囲
解約返戻金の
ピークの有無
解約返戻率の
高さ
養老保険
高額
1/2 損金
高額
死亡・高度障害、
満期に生存
無
90 ∼ 100%程度
(満期には満期保
険金が受け取れる)
高額
1/2 損金
高額
がん
無
80 ∼ 90%程度
(当初は低い)
終身がん保険
(解約返戻金あり)
養老保険は、役員・従業員を被保険者として法人(会社)が契約するもので、満期まで
に被保険者が死亡すれば死亡保険金が支払われ、満期まで生きていたら満期保険金が支払
われるという生命保険です。逓増定期保険や長期平準定期保険とは違い、満期に満期保険
金が支払われるというのが特徴です。被保険者が死亡してもしなくても必ず保険金が支払
われるので、保険料は高額です。
37
第四章:続き
《イメージ》
保険金額
保険金
(死亡 満期)
解約返戻金
始期
満期
養老保険は、以前は「節税商品」としてもてはやされた時期がありました。特に「逆ハー
フタックスプラン」という商品は、保険料を全額損金に算入することができると言われ、
「節税」目当ての商品としてよく売れていました。
しかし、逆ハーフタックスプランは法律的にグレーゾーンで、近いうちに保険料の全額
損金算入という扱いが認められなくなってしまうリスクがきわめて高いため、本書ではお
すすめしません。実際に、多くの保険会社が取り扱いをやめています。
ここでは、「節税」のみを目的とした「逆ハーフタックスプラン」ではなく、従業員の
福利厚生を整えながら損益のタイミングを調節することができる「福利厚生プラン」とい
うものをご紹介します。
保険金受取人
死亡
満期
被保険者の遺族
法人
養老保険の「福利厚生プラン」は、「満期前に被保険者が死亡した場合には被保険者の
遺族が死亡保険金を受け取れる」→「満期まで被保険者が生きていた場合には会社が満期保
険金を受け取って従業員の退職金の資金に充てられる」というものです。
保険料は 1/2 が損金に算入されます。
38
第四章:続き
また、解約返戻金のピークがなく、ある程度の期間以上加入していれば解約返戻金の返
戻率が高くなっていき、最終的には「満期保険金」として保険料の 90 ∼ 100%程度のお
金が受け取れます。
死亡してもしなくても必ず保険金(死亡保険金・満期保険金)が支払われる
解約返戻金は満期に向かって増え続ける
保険料が比較的高額
満期保険金または解約返戻金は、退職金の財源に充てることができます。なお、どうし
ても困ったという時、つまり従業員の退職金どころではなくなったような場合には、解約
して解約返戻金を緊急予備資金に振り向けることもできます(P.16 参照)。
さらに、従業員が満期前に死亡してしまった時には、家族に対し、契約内容に応じた保
障を受けさせることができるという点で、福利厚生に役立ちます。
以上を踏まえると、養老保険(福利厚生プラン)は、以下の条件を充たす会社に向いて
います。
従業員の退職金を効率的に積み立てたい
退職金を積み立てながらそれを究極の場合の予備資金に
振り向けられるようにしたい
従業員の身に万一のことがあった場合にその家族が死亡保険金を
受け取れるようにしたい
キャッシュフローが概ね安定していて長年にわたり高額な保険料を支払い続けられる
ただし、「福利厚生規定」を作成し、一定の条件をみたす従業員全員を対象(被保険者)
としなければならないので、注意が必要です。「福利厚生規定」については、後ほど具体
的な規定例を出して説明します。
それでは、養老保険(福利厚生プラン)に加入したらどのような効果があるのか、事例
で詳しくお伝えします。
39
第四章:続き
養老保険(福利厚生プラン)を利用した具体的な事例
以下の契約例をもとに解説します。
なお、法人実効税率は約 36.0%として計算しています。
また、本来は従業員全員で加入しますが、説明を簡単にするため、従業員全員が同じ性
別・年齢(男性・35 歳)で、全員同じタイミングで加入したということにしています。
〈契約者のデータ〉
〈契約内容〉
売上:年 4 億円
被保険者:全従業員
税引前利益:3,000 万円
死亡保険金・満期保険金:300 万円(1 名あたり)
従業員数:20 名
死亡保険金の受取人:被保険者の遺族
満期保険金の受取人:法人(会社)
保険料:108,126 円 / 年(1 名あたり)
保険期間:25 年
解約返戻金は満期に向かって返戻率が上がっていき、最終的に満期保険金に切り替わり
ます。次頁の表をご覧ください(従業員 1 人あたりに換算して説明します)。
40
第四章:続き
病気死亡時保障金額
災害死亡時保障金額
支払保険料累計
解約返戻金額
返戻率
300
300
-
-
-
300
300
108,126
4.0
37.0
300
300
216.252
14.0
64.7
300
300
324,378
24.2
74.6
39
300
300
432,504
34.6
80.0
40
300
300
540,630
45.1
83.4
6
41
7
42
300
300
300
300
648,756
55.9
86.2
8
43
300
300
756,882
66.9
88.4
90.3
44
300
78.1
9
300
865,008
92.0
45
300
89.5
10
300
973,134
1,081,260
101.1
93.5
11
46
112.4
94.5
47
300
1,189,386
12
300
300
300
1,297,512
123.9
95.5
13
48
300
300
1,405,638
135.6
96.5
14
49
300
300
1,513,764
147.6
97.5
15
50
300
300
1,621,890
159.9
98.6
16
51
172.4
99.7
52
300
1,730,016
17
300
185.3
100.8
53
300
1,838,142
18
300
300
300
1,946,268
198.4
101.9
19
54
300
300
2,054,394
211.8
103.1
20
55
300
300
2,162,520
225.5
104.3
21
56
239.6
105.5
57
300
2,270,646
22
300
300
300
2,378,772
254.1
106.8
23
58
300
300
2,486,898
268.9
108.1
24
59
300
300
2,595,024
284.2
109.5
25
60
300
300
2,703,150
300.0
111.0
経過年数
年齢
ご契約時
1
35
2
37
3
4
5
36
38
( 万円 )
( 万円 )
(円)
( 万円 )
この契約の場合、8 年目で解約返戻金の返戻率が約 90%にまで達します。そこから返
戻率は徐々に上がっていき、17 年後に 100%を超えます。そして、25 年で満期を迎えた
場合、会社は、従業員 1 人について、死亡保険金と同額の満期保険金 300 万円を受け取
ることができます。これは、払い込んだ保険料の総額の 111%です。
41
第四章:続き
なお、従業員が途中で退職する場合にはその従業員の分だけ解約することもできます。
また、どうしても資金繰りに窮してしまったような場合には全部を解約して緊急の資金に
充てることも可能です(P.16 参照)。
(保険料の支払∼満期保険金受取段階)
まず、従業員 1 人につき、税引前利益の中から約 10.8 万円を年払保険料として支払う
と、その 1/2 の約 5.4 万円が損金に算入されることになります(残りの 1/2(約 5.4 万円)
は資産計上)。その結果、益金約 10.8 万円、損金約 5.4 万円となるため、その年度の法
人税の額(従業員 1 人分換算)は、約 1.94 万円です。したがって、25 年間で税金を約
48.6 万円支払うことになります。
そして、満期保険金を受け取ると、従業員 1 人あたり 300 万円が受け取れます。そのため、
そこから 25 年分の税金約 48.6 万円を引くと、手元にキャッシュが約 251.4 万円残るこ
とになります。
他方、同じ税引前利益約 10.8 万円(従業員 1 人あたり)から現金・預金で積み立てよ
うとすると、1 年あたり税引後利益約 6.91 万円ですので、25 年間で約 172.8 万円しか
手元に残りません。
したがって、養老保険に 25 年間加入すれば、現金・預金で積み立てた場合よりも 1 人
あたり約 78.6 万円余計にキャッシュが手元に残ります。
(満期保険金の受取∼退職金支給段階)※解約返戻金を受け取る場合も計算は同様
従業員が無事に満期を迎えた場合には、会社がその従業員の分の満期保険金 300 万円
を受け取ります。すると、そのうち、それまで 25 年間資産に計上されてきた約 135 万円
を差し引いた残りの額・約 165 万円が益金に算入されます。
したがって、そこからたとえば退職金を 150 万円支払って損金に計上すると、約 15 万
円が残ります(そこに税金が 5.4 万円かかります)。
以上、「保険料の支払」→「満期保険金の受取+退職金の支払」というプロセスを全体と
してみると、25 年間かけて、従業員 1 名あたりに対し、現金・預金で積み立てた場合よ
りも 1 人あたり約 78.6 万円余計にキャッシュを準備でき、そこから退職金を支給できた
ことになります。
42
第四章:続き
(死亡保険金を遺族が受け取る段階)
もしも在職中に従業員の身に万一のことがあった場合には、その遺族に死亡保険金
300 万円が直接支払われます。会社は「福利厚生規定」で規定すればこの死亡保険金を「死
亡退職金」として扱うことができます。
死亡保険金を受け取った遺族の側では、相続税の計算上、(500 万円
法定相続人の人
数)の額の控除を受けることができます。この契約例では死亡保険金は 300 万円なので、
遺族が何人でも、この控除によって、全額が非課税になります。つまり、遺族は 300 万
円全額を手にすることができるわけです。
これは、従業員とその家族にとって非常に心強い保障で、従業員の安心と意欲を引き出
し、会社がより多くのキャッシュを儲けることにつながるものです。
養老保険(福利厚生プラン)を利用する際の注意点
この養老保険福利厚生プランは、従業員全員を被保険者として加入することが原則です。
したがって、「役員のみ」「役職者のみ」といった一部の人だけの加入ということは認めら
れません。
そのため、従業員全員を被保険者とする必要があります。また、「福利厚生規定」を作
成しておく必要があります。
福利厚生規定を作成する意義は、次の通りです。
福利厚生制度とその導入目的を全従業員に周知徹底する
権利関係を明確にして遺族とのトラブルを防ぐ
税務調査が入った場合に福利厚生目的の明確な証拠になる
福利厚生制度は①従業員に安心して長く働いてもらう(優秀な人材の流出を防ぐ)、②今
まで以上にモチベーションを上げてがんばって働いてもらう、③優秀な人材の採用確保、
という3つの目的が達成されなければ意味を成しません。規定を周知するときの意識付け
はとても大切ですので、導入をしたときには必ず「なぜこの制度を導入したのか」を教育
していただきたいと思います。
43
第四章:続き
この教育が、福利厚生プランのコストに対して最大のパフォーマンスを生むことにつな
がります。法人税負担の軽減とキャッシュの確保だけを目的として退職金制度を導入する
ならば、経営者自身で法人保険を活用した方が、経営者自身の意志で自由に契約をしたり
解約したりできるので安全かつ効率的です。
また、もしも「福利厚生規定」を作成しておかなければ、保険金受取の時に従業員・遺
族とトラブルになる可能性があります。たとえば、従業員が死亡した場合、遺族は死亡保
険金を受け取ることになるのですが、会社の側ではこの死亡保険金を「死亡退職金」だと
考えていても、遺族の側から別に死亡退職金を請求されることがあります。
しかも、「福利厚生規定」を作成しておかなければ、税務調査が入った時に福利厚生目
的と認められず、保険料の 1/2 を損金に算入するという扱いが否定されてしまうおそれ
もあります。
そういったことを避けるためにも、福利厚生規定を作って権利関係を明確にしておきま
しょう。
福利厚生規定の具体例は P.52 以降で詳しく解説していますので、参考にしてください。
2. 従業員の医療費をサポートする医療保険・がん保険(福利厚生プラン)
医療保険は病気やけがの場合の治療費・入院費等を一定の範囲で保障する保険です。保
険期間は、一生涯のもの(終身タイプ)と、期間が決まっているもの(定期タイプ)があ
ります。
法人で加入する場合は、定期タイプをお勧めします。
保険料は全額が損金に算入されます。ただし、ほとんどが解約返戻金や満期保険金がな
い掛け捨て型なので、退職金の資金等を積み立てる機能や、損益計上のタイミングを調整
する機能はありません。
したがって、医療保険(福利厚生プラン)でできることは、以下の 2 つです。
従業員の医療費の負担を軽減し、健康管理をサポートする
保険料の全額を損金に算入する
44
第四章:続き
医療保険(福利厚生プラン)を利用した具体的な事例
以下の契約例をもとに説明します。
説明を簡単にするため、従業員全員が同じ性別・年齢(男性・35 歳)で、全員同じタ
イミングで「定期タイプ」の医療保険に加入したということにしています。
〈契約者のデータ〉
〈契約内容〉
売上:年 2 億円
被保険者:全従業員
税引前利益:1,000 万円
給付金:入院日額 1 万円(1 名あたり)ほか
※詳細は次頁の表参照
従業員数:45 名
保険料:年 17,381 円(1 名あたり)
保険期間:5 年
45
第四章:続き
※保障内容
病気・ケガで
入 院
病気やケガで入院したとき
日帰り
入院対応!
( 疾病入院給付金 )
( 災害入院給付金 )
手 術
( 手術給付金 )
約 1,000
種類の手術
に対応
先進医療
( 医療用新先進医療特約 )
1 入院
病気で通算 1000 日
ケガで通算 1000 日
保障金額
1 日につき
10,000 円
※三大疾病は通算無制限
何度でも!
・病気やケガで所定の手術を
受けたとき。
・病気やケガで所定の放射線
治療を受けたとき。
※一部例外や対象外となる手術があります。
1 回のみ
骨髄幹細胞移植を目的とした
骨髄幹細胞採取手術を受けた
通算
2,000 万円
まで保障
先進医療による療養を受けた
とき。
とき。
内容により 1 回につき
40
10
・
・
20
5
万円
20 万円
先進医療の技術料
なお、この保険には「定期タイプ」と「終身タイプ」があり、以下の表でそれぞれのタ
イプについて、加入年齢ごとの年払保険料と 60 歳までの保険料累計をまとめておきまし
た。
46
第四章:続き
《定期タイプの年払保険料と 60 歳までの保険料累計》
定期タイプの保険料(円)
35 歳加入
40 歳加入
45 歳加入
50 歳加入
35 歳∼ 40 歳
17,381
―
40 歳∼ 45 歳
18,881
18,881
45 歳∼ 50 歳
24,801
24,801
24,801
50 歳∼ 55 歳
34.201
34.201
34.201
34.201
55 歳∼ 60 歳
45,801
45,801
45,801
45,801
45,801
保険料累計
705,325
618,420
524,015
400,010
229,005
―
―
55 歳加入
―
《終身タイプの年払保険料と 60 歳までの保険料累計》
※保険料払込期間を 60 歳満了とした場合
終身タイプの保険料(円)
35 歳加入
40 歳加入
―
35 歳∼ 40 歳
45 歳加入
―
40 歳∼ 45 歳
45 歳∼ 50 歳
44,521
52,641
50 歳∼ 55 歳
63,311
50 歳加入
―
―
76,301
55 歳∼ 60 歳
保険料累計
55 歳加入
92,541
1,113,025
1,052,820
949,665
763,010
462,705
このように、定期タイプの方が終身タイプよりも保険料の額が低くなっています。した
がって、定期タイプを選ぶ会社が多くなっています。
47
第四章:続き
ただし、終身タイプにも、退職金代わりに従業員個人に「名義変更」するという形で現
物支給するという利用法が考えられます(詳しくは P.34 ∼ 35 で説明したのとほぼ同じ
です)。小規模な家族経営で従業員が基本的に定年まで働くことが予定されているような
場合には、ありうる選択肢だと言えます。
加入手続については、通常、医療保険は告知書の記入が必要であり、告知は各従業員に
自己申告で「告知書」に記入してもらうことになっています。ただし、この告知書には健
康診断結果通知書を添付して提出することができ、こちらをおすすめします。というのは、
既往症や健康診断で指摘がある人が、健康診断書を追加で提出することで美点評価により、
審査が有利になることがあるからです。その方が会社の事務が楽だし、保険会社の側でも
正確な情報に基づいて総合的に判断できるからです。
なお、法人契約の場合の告知書は、予め用意された質問項目に○
をつければよいもの
など、書式が簡略化されているものが多いです。
この契約では、従業員全員が被保険者となり、年払保険料 1 人あたり 17,381 円、45
名で合計 78,2145 円全額が「福利厚生費」として損金に算入されることになります。
また、従業員が病気になり入院・手術等を受けた場合、法人(会社)が給付金を受け取
れば、益金に算入されます。そして、法人が給付金の中からその従業員に「見舞金」を支
給することになり、これが損金に算入されます。こういった形で、従業員の医療費をサポー
トすることになります。
なお、保険会社によっては、日本を代表する各専門分野の名医に現在の診断に関する見
解や今後の治療方針等の意見を聞くことができる「セカンドオピニオンサービス」を利用
できます。
また、24 時間対応の電話でのカウンセリングサービスが利用できる商品もあります。
これは、従業員の心身の健康管理に役立ちます。
48
第四章:続き
医療保険(福利厚生プラン)を利用する際の注意点
まず、養老保険の場合と同じように、一定の条件をみたす全従業員を被保険者にする必
要があります。
また、福利厚生制度とその導入目的を全従業員に周知徹底するとともに、税務調査が入っ
た場合に福利厚生目的であることの証拠とするため、「福利厚生規定」を作成しなければ
なりません。
福利厚生規定の具体例は P.54 以降で詳しく解説していますので、参考にしてください。
また、会社が給付金の中から従業員に支給する「見舞金」の額は、社会通念上相当な額、
つまり常識の範囲内の額でなければなりません。それを超えると、従業員の側で「給与」
と扱われ所得税が課税されてしまうので、注意してください。
がん保険(解約返戻金のないタイプ)
がん保険は、がんに特化した医療保険です。がんと診断された時点でまず 100 万円程
度の一時金が給付され、入院費用、手術費用、通院費用等についてそれぞれ給付金が受け
取れるタイプがほとんどです。ここでご紹介するのは、解約返戻金のないタイプのがん保
険です。
医療保険と同様、終身タイプよりも定期タイプの方が保険料の額が低いので、定期タイ
プを選ぶ会社の方が多いです。
従業員ががんになった場合には会社に対して次頁の表のような給付金が支払われ、その
全部または一部を「見舞金」として従業員に支払うことができます。
49
第四章:続き
※保障内容
給付の種類
お支払事由
お支払金額 ( お支払限度 )
1 日につき 1 万円
(1 入院 1,000 日・通算 1,000 日 )
ガンにより入院されたとき
ガン手術給付金
ガンにより、
所定の手術を受けられたとき
20 万円 (25 回限度 )
ガン診断給付金
ガンと診断確定され、その治療を
目的として入院を開始されたとき
100 万円 (1 回のみ )
一生涯保障
三
( ヶ月
不担保期間
待期間
ガン入院給付金
)
ガン死亡保険金
ガン高度障害保険金
死亡保険金
ご契約
ガンにより死亡・所定の
高度障害状態になられたとき
ガン以外で
お亡くなりになったとき
ガン給付に関する責任開始
100 万円
10 万円
※上図はイメージ図です。
活用法は基本的に医療保険とほぼ同じで、以下の 2 つです。
従業員ががんにかかった場合の治療費の負担を軽減する
保険料の全額を損金に算入する
また、基本的に全従業員を被保険者となければならないこと、「福利厚生規定」を作成し
なければならないこと、医師の診査が不要で告知書だけで良いこと(健康診断結果通知書
の添付をおすすめすること)も医療保険と同じです。
50
第四章:続き
3. そのまま使える!「福利厚生規定」例
ここでは「養老保険」「がん保険」「医療保険」の福利厚生プランを活用するときに絶対
に必要な「福利厚生規定」について、具体例をもとに詳しく説明します。
もう一度、福利厚生規定を作成しなければならない理由をおさらいします。
福利厚生制度とその導入目的を全従業員に周知徹底する
権利関係を明確にして遺族とのトラブルを防ぐ(養老保険)
税務調査が入った場合に福利厚生目的の明確な証拠になる
せっかく会社の貴重な資金を使って福利厚生を整えるのですから、会社のためにも従業員
のためにも、誰もが分かる形で福利厚生規定を作成しておきましょう。
それではこれから「養老保険」「がん保険」「医療保険」のそれぞれの福利厚生規定につい
て、サンプルを使って実際の作成方法を解説していきます。基本的にそのままの文言で活
用できる形になっていますが、赤枠で囲んだ部分だけ契約内容や会社の状況に応じて変更
してください。
福利厚生規定が完成したら、忘れずに全従業員に通知してください。通知の方法は、書面
でも良いですが、周知徹底という意味でも確実な証拠を残すという意味でも、メールがお
すすめです。
51
第四章:続き
養老保険の福利厚生規定例
- 福利厚生型保険付保規定 -
( 目的 )
第 1 条 本規定は、役員および従業員を被保険者とし、
(役員または従業員の定年年度までを保険期間とした)
生命保険を付保することにより、当会社の役員および
従業員への福利厚生を図ることを目的とする。
( 適用対象者 )
第 2 条 本規定は下記条件に該当する者を対象とする。
ただし、パート社員、契約社員およびアルバイトは対
象外とする。
1
1. 福利厚生の対象者
・就任後の全役員
福利厚生の対象者を指定します。
・就任後の全執行役員
原則として全従業員を対象にしなければな
・勤続年数 1 年以上の全従業員
りませんが、入社したばかりの従業員を除
なお、引受保険会社の契約条件に該当しない場合や身
くことはできます。
体上の理由により加入できない場合は、この限りでは
ない。
( 契約形態 )
第 3 条 契約者を会社、被保険者を第 2 条に定める適
用対象者とする。また、死亡保険金受取人を役員・従
業員の遺族とし、満期保険金受取人を会社とする。な
お、解約返戻金の請求権も契約者に帰属する。
( 付保金額 )
第4条
下記に定める金額とする。
2
2. 死亡保険金額
死亡保険金額
死亡保険金額を記載します。
○○○万円
加入をする契約内容と金額が異なる場合は
( 次へ )
福利厚生と認められず、保険料の 1/2 の
損金算入が全額否認されてしまいます。
そのため、証券等に記載されている金額を
そのまま正確に記載しましょう。
52
第四章:続き
( 事故発生時の扱い )
1. 支払事由が発生した場合の保険金に関して、保険会
社から直接役員・従業員の遺族へ支払われる。
2. 前項に基づき支払われる保険金は当会社から役員・
従業員の遺族へ支払われる退職金もしく弔慰金に充当
するものとする。
3. 満期が到来した場合の満期保険金に関しては一旦会
社が受け取り、退職金規定に従い所定の金額 ( 以下所
3
一部を退職金に充てて残りを会社の事業資
金にする場合にはこの記載が必要です。全
額を従業員の退職金に充てる場合には不要
です。
定金額という。) を支払うものとする。満期保険金と
所定金額との差額については、会社が事業資金として
使用できるものとする。
4
3. 満期保険金の取り扱い
4. 支払事由に該当した場合は、所定の様式により、所
属長を経て総務部長宛 に速やかに届け出るものとする。
4. 支払事由が発生した場合に届け出る先
通常は総務の責任者宛になりますが、代表
者等を別に指定してもかまいません。
( 退職時の扱い )
第 6 条 役員・従業員が死亡以外の事由ににより退職
した場合には、速やかに契約を解除し、解約返戻金に
関しては、一旦会社が受け取り、その後退職金規定等
に従い、所定金額を支払うものとする。また、役員ま
たは従業員の希望により、保険契約の契約者を変更す
ることをもって退職金の支給に代えることもできる。
( 制度変更に関して )
第 7 条 会社は将来に渡って第 1 条の目的を達成する
ためにより合理的な手段がある場合には、会社判断と
して制度を変更または廃止することができる。またそ
の場合は相当な期間前に役員および従業員に対して周
知するものとする。
( 診断書の請求 )
第 8 条 会社は、保険金請求のために本人またはその
遺族に対して診断書の提出及びその他必要な協力を求
めることができる。なお、診断書作成料は会社にて負
5. 施行日
いつからこの福利厚生規定が施行されるの
か記載します。保険契約をし、この規定を
作成した後の日付であれば構いません。
担することとする。
5
( 付則 )
本規定は、平成○○年○月○日より施行
53
第四章:続き
医療保険・がん保険の福利厚生規定例
- 医療保険付保規定 -
( 目的 )
1
第 1 条 1. 目的
本規定は、役員・従業員の入院等に伴う下記
がん保険の場合には次の一文を加えます。
の財源確保を目的とした生命保険の付保に付いて定め
るものである。
「なお、効率的な制度運営を図るため、日
本人の中で最も死亡率が高く長期入院が
想定される悪性新生物に対する保障を確保
・見舞金の財源確保として
・入院に伴う売上げ減少など会社が被る損失の補
填として
することとする。」
( 適用対象者 )
第 2 条 本規定は下記条件に該当する者を対象とする。
ただし、パート社員、契約社員およびアルバイトは対
象外とする。
2
2. 福利厚生の対象者
福利厚生の対象者を指定します。
原則として全従業員を対象にしなければな
・就任後の全役員
りませんが、入社したばかりの従業員を除
・就任後の全執行役員
くことはできます。
・勤続年数 1 年以上の全従業員
なお、引受保険会社の契約条件に該当しない場合や身
体上の理由により加入できない場合は、この限りでは
ない。
( 契約形態 )
3. 入院給付金額
第 3 条 契約者を会社、被保険者を第 2 条に定める適
入院給付金額を記載します。
応対象者とし、給付金受取人を会社とする。なお、解
約返戻金の請求権も契約者である会社に帰属する。
その他の給付金がある場合はその金額も記
載します。
加入をする保険の契約内容と金額が異なる
( 付保金額 )
場合は福利厚生と認められず、保険料の損
第 4 条 下記に定める金額とする。
金算入が全額否認されてしまいます。
3
そのため、証券等に記載されている金額を
入院給付金
○○○○○円
そのまま正確に記載しましょう。
( 次へ )
54
第四章:続き
( 事故発生時の扱い )
1. 支払事由が発生した場合の保険金・給付金に関し
ては一旦会社が受け取り、その後就業規則、見舞金規
程、弔慰金規程等の諸規定に従い所定の金額(以下、
所定金額という。)を支払うものとする。保険金・給
付金から所定金額を差し引いた金額については、損失
補填費として会社が新規雇用費用等に使用できるもの
とする。
4
2. 支払事由に該当した場合は、所定の様式により、所
属長を経て総務部長宛 に速やかに届け出るものとする。
4. 支払事由が発生した場合に届け出る先
通常は総務の責任者宛になりますが、
代表者等を別に指定してもかまいません。
( 退職時の扱い )
第 6 条 役員・従業員が死亡以外の事由ににより退職
した場合には、速やかに契約を解除し、解約返戻金に
関しては、一旦会社が受け取り、その後退職金規定等
に従い、所定金額を支払うものとする。また、役員ま
たは従業員の希望により、保険契約の契約者を変更す
ることをもって退職金の支給に代えることもできる。
( 制度変更に関して )
第 7 条 会社は将来に渡って第 1 条の目的を達成する
ためにより合理的な手段がある場合には、会社判断と
して制度を変更または廃止することができる。またそ
の場合は相当な期間前に役員および従業員に対して周
知するものとする。
( 診断書の請求 )
第 8 条 会社は、保険金請求のために本人またはその
遺族に対して診断書の提出及びその他必要な協力を求
めることができる。なお、診断書作成料は会社にて負
5. 施行日
担することとする。
いつからこの福利厚生規定が施行されるの
か記載します。保険契約をし、この規定を
5
( 付則 )
作成した後の日付であればかまいません。
本規定は、平成○○年○月○日より施行する。
55
第四章:続き
複数の福利厚生プランに加入した場合の福利厚生規定
ここまでは、「養老保険」「がん保険」「医療保険」のそれぞれの福利厚生規定について解
説してきましたが、保険は 1 つしか契約できないわけではありません。複数の保険に加入
したり、追加で加入したりする場合があります。その場合、いちいちそれぞれの保険につ
いて福利厚生規定を作る必要はありません。1 つ作成しておけば大丈夫です。
そこで、以下では、養老保険とがん保険に加入した場合の福利厚生規定例について説明し
ます。
養老保険とがん保険の福利厚生規定例
- 養老保険・がん保険付保規定 -
1
( 目的 )
第 1 条 本規定は、役員・従業員の入院等に伴
う下記の財源確保を目的とした生命保険の付保
に付いて定めるものである。なお、効率的な制
度運営を図るため、日本人の中で最も死亡率が
高く長期入院が想定される悪性新生物に対する
保障を確保することとする。
・見舞金・弔慰金・退職金の財源確保として
1. 目的
このサンプルでは「養老保険+がん保険」
ですが、「医療保険+がん保険」も同じ文面
でかまいません。あくまでも保険に加入す
る目的が明確であれば問題ありません。
・入院に伴う売上げ減少など会社が被る損失の
補填として
( 適用対象者 )
第 2 条 本規定は下記条件に該当する者を対象とする。
ただし、パート社員、契約社員およびアルバイトは対
象外とする。
56
第四章:続き
2. 福利厚生の対象者
2
福利厚生の対象者を指定します。
原則として全従業員を対象にしなければなり
・就任後の全役員
ませんが、入社したばかりの従業員を除くこ
・就任後の全執行役員
とはできます。
・勤続年数 1 年以上の全従業員
なお、引受保険会社の契約条件に該当しない場合や身
上の理由により加入できない場合は、この限りではな
い。
( 契約形態 )
第 3 条 契約者を会社、被保険者を第 2 条に定める
適用対象者とする。また、死亡保険金受取人を役員・
従業員の遺族とし、満期保険金受取人を会社とする。
なお、解約返戻金の請求権も契約者に帰属する。
( 付保金額 )
3. 死亡保険金額・入院給付金額等
第 4 条 下記に定める金額とする。
3
死亡保険金額・入院給付金額等、保険が 2 種
類あればそれぞれの保険金額・給付金額を全
死亡保険金額
○○○万円
入院給付金
○○○○○円
て記載します。
その他の給付金がある場合はその金額も記載
します。
加入をする保険の契約内容と金額が異なる場
合は福利厚生と認められず、保険料の損金算
入が全額否認されてしまいます。
( 事故発生時の扱い )
そのため、証券等に記載されている金額をそ
第 5 条 1. 支払事由が発生した場合の保険金に関して、保険
のまま正確に記載しましょう。
会社から直接役員・従業員の遺族へ支払われる。
2. 前項に基づき支払われる保険金は当会社から役員
・従業員の従業員の遺族へ支払われる退職金もしくは
弔慰金に充当するものとする。
3. 満期が到来した場合の満期保険金に関しては一
旦会社が受け取り、退職金規定に従い所定金額(以下
、所定金額という。)を支払うものとする。満期保険
金と所定金額との差額については、会社が事業資金と
して使用できるものとする。
( 次へ )
57
第四章:続き
4
4. 支払事由に該当した場合は、所定の様式により、
所属長を経て総務部長宛 に速やかに届け出るものとす
る。
4. 支払事由が発生した場合に届け出る先
通常は総務の責任者宛になりますが、代表
者等を別に指定してもかまいません。
( 退職時の扱い )
第 6 条 役員・従業員が死亡以外の事由ににより退職
した場合には、速やかに契約を解除し、解約返戻金に
関しては、一旦会社が受け取り、その後退職金規定等
に従い、所定金額を支払うものとする。また、役員ま
たは従業員の希望により、保険契約の契約者を変更す
ることをもって退職金の支給に代えることもできる。
( 制度変更に関して )
第 7 条 会社は将来に渡って第 1 条の目的を達成する
ためにより合理的な手段がある場合には、会社判断と
して制度を変更または廃止することができる。またそ
の場合は相当な期間前に役員および従業員に対して周
知するものとする。
( 診断書の請求 )
第 8 条 会社は、保険金請求のために本人またはその
遺族に対して診断書の提出及びその他必要な協力を求
めることができる。なお、診断書作成料は会社にて負
5. 施行日
担することとする。
いつからこの福利厚生規定が施行されるのか
記載します。保険契約をし、この規定を作成
5
( 付則 )
した後の日付であればかまいません。
本規定は、平成○○年○月○日より施行する。
58
第五章
事業承継対策に役立つ法人保険3つと
経営者個人の生命保険
この章で紹介する保険
逓増定期保険
長期平準定期保険
終身保険
生命保険(経営者個人契約)
事業承継は、自分が経営する事業を、引退に伴い後継者に引き継ぐことです。株式会社
であれば、後継者に株式の全部または大部分を引き継がせることになります。
「中小企業白書 2014」P.253 の統計資料によれば、以前は血縁者への承継が多数を占め
ていましたが、2012 年の時点で、血縁者への承継と従業員の内部昇格による承継が、い
ずれも 40%程度になっており、内部昇格による承継が増えてきています。
後継者が血縁者でも、従業員等でも、事業の引継ぎに伴う混乱やダメージをできる限り
抑えて、承継がスムーズに行われるようにしなければなりません。そのためにはやはり、
キャッシュが必要です。
事業承継は、どの企業もいつかは必ず直面する問題です。この章では、法人保険 3 種類
と、個人契約の生命保険の利用法を、できるだけ分かりやすくご紹介します。十分に理解
して、将来を見据えて有効な対策をとっていただければと思います。
59
第五章:続き
はじめに|誰を後継者にするか、どうやって承継させるかによって
問題と対策が違う
事業承継は、後継者が誰であるか、どうやって承継させるか(生前贈与か、相続によっ
てか)によって、起こりうる問題とそれに対する対策が違ってきます。ただ、いずれにし
ても、結局のところ、後継者の経済的負担を軽くしてあげることが最も重要です。事前に
何が問題になりそうなのか知っておくことで、何をすべきかがおのずと明確になります。
ただし、対策は、生命保険だけが全てではありません。後ほど紹介しますが、公的な制
度も利用できます。
《後継者=法定相続人の場合》
〈 事業承継の形態 〉
会社で加入
経営者個人
で加入
{
〈 課題 〉
株式の生前贈与
株式価値引下げ
株式の相続
相続税対策→
自社株式買取資金の準備
株式の
生前贈与・相続
〈 利用する保険 〉
逓増定期保険
長期平準定期保険
終身保険
後継者の代償交付金
相続税納税資金準備
生命保険(個人契約)
〈 課題 〉
〈 利用する保険 〉
《後継者 法定相続人の場合》
〈 事業承継の形態 〉
会社で加入
株式の
生前贈与・相続
株式価値引下げ
逓増定期保険
長期平準定期保険
60
第五章:続き
1.「後継者=法定相続人」の場合の問題と対策
まず、あなたの後継者が「法定相続人」の場合についてお話しします。
なお、民法によれば「法定相続人」は以下の通りです。
①配偶者+子 ※死亡の場合は孫、孫が死亡の場合はひ孫
↓子・孫・ひ孫がいない
②配偶者+両親
↓子・孫・ひ孫も両親もいない
③配偶者+兄弟姉妹 ※死亡の場合はおい・めい
②両親
③兄弟姉妹
配偶者
あなた
③ おい、めい
①子
① 孫
①
ひ孫
あなたの株式を法定相続人が後継者として承継するときに起こる可能性がある問題は、
以下の 2 つです。
61
第五章:続き
後継者が相続税(相続による株式承継の場合)
または贈与税(生前の株式承継の場合)を納税する資金が必要になる
株式以外の相続財産が少ない場合、後継者が他の法定相続人から相続分または
遺留分を主張され、代償交付金(※)を支払わなければならない可能性がある
※代償交付金:相続財産の中に分けられない財産がある場合(土地、株式等)に、
その財産を相続した者が、他の法定相続人の相続分・遺留分を得させるために
支払うお金
株式承継
経営者
あなた
代償交付金
支払義務
後継者
(法定相続人)
他の法定相続人
法定相続分・遺留分を主張
相続税
納税義務
国
62
第五章:続き
これらの問題については、中小企業経営承継円滑化法によって以下のような手当てがされ
ています。
承継される事業用資産・株式を遺留分の計算から除く手続がある
(法定相続人の同意が必要)
会社が「中小企業信用保険法の特例」による融資を受けられる
後継者個人が「日本政策金融公庫法・沖縄振興開発金融公庫法の特例」による
融資を受けられる
相続税・贈与税の納税猶予の制度がある
詳しくはこちらをご覧ください。
ただ、これらの制度だけでは必ずしも十分ではないため、いずれにしても、後継者の経
済的負担を軽くしてあげるために対策をする必要があります。
特に遺留分、つまり法定相続人(兄弟姉妹以外)の最低限の取り分については、たとえ
あなたが「株式の全部を○○(後継者)に相続させる」という遺言を残したとしても、排
除することはできません。
そこで、あなたが、後継者の経済的負担を軽くするために生命保険を利用できる方法は、
以下の 3 通りです。
後継者のために必要な資金を準備する →生命保険(経営者個人加入)
株式(相続財産)の価値を引き下げる →逓増定期保険・長期平準定期保険
会社が後継者から自社株を買い取る資金を準備する
→終身保険・長期平準定期保険(法人保険)
これらはそれぞれ独立した手段なので、ニーズに合った保険を選んで利用する必要があ
ります。
以下、それぞれについて説明します。
63
第五章:続き
生命保険に個人加入して後継者のために必要な資金を準備する
まず、後継者個人のために必要な資金を準備する方法です。
後継者が「配偶者・2 親等内の血族」の場合、あなたが個人契約で生命保険に加入し、
受取人を後継者にしておくことができます(配偶者も「2 親等内の血族」もどちらもいな
い場合には例外として「3 親等内の血族」でも OK です)。
なお、配偶者と「2 親等内の血族」の範囲は、下図の通りです。ただし、両親や祖父母
を後継者とすることは考えにくいので、配偶者、子ども、孫、兄弟姉妹が対象になると思っ
ていただければ結構です。
注意が必要なのは、子どもの配偶者(娘婿など・1 親等の「姻族」)や、兄弟姉妹の配
偶者(2 親等の「姻族」)や、おい・めい(「3 親等」の血族)を後継者としたいような場
合です。生命保険の受取人は 2 親等内の「血族」までなので、これらの人々は含まれません。
どうしても生命保険の受取人になってもらいたい場合は、養子縁組をして「法定血族」に
なってもらうという方法もあります。
祖父母
祖父母
(2 親等血族)
(2 親等血族)
両親
(1親等血族)
兄弟姉妹
兄弟姉妹
の配偶者
(2 親等血族)
配偶者
(2 親等姻族)
あなた
子 (1 親等血族)
子の配偶者
おい・めい
(3 親等血族)
(1親等姻族)
孫 (2 親等血族)
64
第五章:続き
後継者が生命保険金を受け取ると、生命保険金は民法上は相続財産にあたらないので、
他の法定相続人の法定相続分や遺留分の対象になりません。後継者が独占できます。
また、生命保険金は相続税法上「みなし相続財産」として相続税の課税対象ですが、
「500 万円
法定相続人の人数」の額について控除が受けられるので、その分は相続税が
かかりません。
したがって、後継者があなたから相続した株式について、他の法定相続人が法定相続分・
遺留分を主張してきた場合には、後継者は生命保険金を利用して代償交付金を支払うこと
ができます。また、相続した株式にかかってくる相続税の納税資金としても大変有効です。
逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して自社株の評価額を
引き下げる(生前贈与の場合)
生前に後継者に株式を全部贈与しておきたい場合は、後継者にかかる税金の額を抑える
ために、株式の価値(評価額)を引き下げる方法があります。
株式の価格の評価方法について、最もよく使われるのは「類似業種比準方式」という方法
です。詳しい説明は省略しますが、要は、他の似たような業種・規模の会社と比べて適正
な額を算定する方法です。この方法によると、大雑把に言えば、利益が圧縮されれば株式
の価値が下がることになります。
そのため、利益を圧縮するには、あなたの退職金の資金の準備もかねて逓増定期保険、
長期平準定期保険に加入することが考えられます。これらの保険は保険料が高額で、その
1/2 を損金に算入することで大きな損金を計上できます。その結果、利益が圧縮され、株
式の評価額が抑えられることになります。特に逓増定期保険は、保険料の額がきわめて高
額なので、利益の圧縮の効果が高いと言えます。
なお、あなたが生きているうちに後継者に株式を贈与する場合に、後継者には原則として
贈与税が課税されることになります。贈与税は相続税よりも税率が高く設定されています。
そこで、後継者の税負担を軽くするために以下の 2 つの制度のどちらかが利用できるこ
と(両方はだめ)を頭の片隅に置いておいてください(今のところはとりあえず読み飛ば
していただいてかまいません)。
65
第五章:続き
①暦年贈与
生前贈与については、相続税法上110 万円の「基礎控除」を受けられるので、1年あたり110 万円分までの贈与
であれば、贈与税がかかりません。これを「暦年贈与」と言います。ただし、相続開始前 3 年以内に「暦年贈与」
された分については、相続税の対象になります。
②相続時精算課税制度
後継者が子ども(死亡している場合には孫)の場合、その年の1月1日時点であなたが 60 歳以上、子どもが 20
歳以上であれば、2,500 万円分までの贈与には贈与税がかかりません。その代わりに、後で相続の時に、その
財産を相続財産に含めて相続税が計算されることになります。これを「相続時精算課税制度」と言います。
この場合、贈与された財産の価格は、相続の時点ではなく贈与した時の時価で計算されます。たとえば、贈与
の時点で1株10 万円だったのが相続の時点で 20 万円になっていたとしても、贈与時の価格である10 万円で
相続税が計算されます。
終身保険・長期平準定期保険で会社が後継者から自社株を買い取る
資金を準備する(相続の場合)
あなたが後継者に株式を相続させたいという場合、株式を相続した後継者は相続税を納
税しなければなりません。しかし、相続税の納税資金が足りなくなるおそれがあります。
そんな時、会社法の「自己株式の買取」の制度を利用することができます。つまり、会
社が後継者から自社株を買い取り、後継者が代金を受け取ってそれを相続税の納税の資金
に充てるのです。
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第五章:続き
①株式承継
経営者
あなた
②株式
後継者
会社
(法定相続人)
③代金
④相続税納税
国
これには、会社の側で、自社株=自己株式を買い取る資金を準備しておかなければなり
ません。
そのために、会社が生命保険に法人契約で加入することが考えられます。つまり、あな
たが死亡した場合、会社が死亡保険金を受け取るようにしておくのです。そうすれば、会
社はそのお金を、後継者から自己株式を購入する資金に充てることができます。
生命保険の種類としては、終身保険、または長期平準定期保険が考えられます。
いずれの保険も、解約すれば解約返戻金が受け取れるものです。しかし、自社株式の購
入資金として利用する場合は、解約返戻金のことはひとまず忘れてください。注目すべき
なのは、あくまで、あなたが死亡した場合に会社が受け取る死亡保険金です。
両者のメリットとデメリットを簡単にまとめると、以下の通りです。
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第五章:続き
メリット
デメリット
・高額な保険料が会社のキャッシュフローを
終身保険
・必ず保険金が支払われるので確実に
自己株式買取の資金を準備できる
悪化させるリスクが大きい
・保険料は金額が資産計上のため利益を圧縮
できない
・保険料が比較的低額なので会社のキャッ
長期平準定期保険
シュフローを悪化させるリスクが小さい
・解約返戻金のピーク期間が終わるまで長生
・保険料の1/2 が損金に算入され、その分利
きすると別の方法を考えなければならなくなる
益を圧縮できる
どういうことなのか、それぞれの保険の特徴に即して説明します。
(終身保険)
終身保険は、定期保険のような一定期間のみではなく、一生涯、死ぬまで保障が続く保
険です。つまり、人は必ず死ぬので、必ず死亡保険金が支払われることになります。
したがって、何があっても確実に会社が保険金を受け取れるようにしたいのであれば、
終身保険が向いていると言えます。あなたがどれほど長生きしても必ず保険金が支払われ
るからです。
ただし、掛け捨てではなく解約返戻金が貯まって増え続けていき、貯蓄性が高いのも特
徴です。そのため、保険料は相当高額に設定されています。したがって、キャッシュフロー
が悪化するリスクが大きいと言えます。
また、貯蓄性が高い保険なので、保険料は全額が資産に計上されることになります。し
たがって、保険料で利益を圧縮するようなことは一切できません。
(長期平準定期保険)
これに対し、長期平準保定期険は、保険期間が大変長いですが、一応「定期保険」なの
で期間が限られています(最長でも 100 歳まで)。そのため、あなたが解約返戻金のピー
ク期間終了後まで長生きした場合には途中解約をせざるを得なくなるというリスクがあり
ます。したがって、自己株式の買取のための資金を準備する手段としては、終身保険ほど
確実ではありません。
ただし、保険料は終身保険と比べれば低額なので、キャッシュフローが悪化するリスク
は比較的低いと言えます。
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第五章:続き
また、保険料の 1/2 が損金に算入されます。そのため、その分だけ利益を圧縮するこ
とができます。
なお、P.65 で説明したとおり、利益を圧縮することは自社株の評価額を引き下げること
にもなるので、あなたが生きているうちに株式を生前贈与しようと思えば、後継者の税負
担を軽くしてあげることにもつながります。
2.「後継者 法定相続人」の場合の問題と対策
あなたの後継者が従業員等、法定相続人以外の人物である場合には、後継者に株式を買
い取ってもらうか、無償で譲渡することになります。
その場合の問題点は以下の 2 つです。
無償譲渡の場合、後継者が贈与税を納税する資金が必要になる
後継者が法定相続人から遺留分を主張され、賠償義務を負う可能性がある
「後継者=法定相続人」の場合について説明したように、これらの問題については、
中小企業経営承継円滑化法による手当てがなされています。
ただし、これらだけではやはり十分ではないので、後継者の経済的負担を軽く
してあげる対策は必要です。
まず、後継者がいずれまとまったお金が必要になることを見越して、予めその
人の給与の額をある程度多めに設定して支給しておくことが考えられます。
そして、法人保険を利用してできる対策は、以下の通りです。
逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して株式の価値を引き下げる
どういうことなのか、説明します。
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第五章:続き
逓増定期保険・長期平準定期保険を利用して
自社株の評価額を引き下げる
まず、あなた個人が生命保険に加入して後継者のための資金を準備してあげることはで
きません。前に説明したように、生命保険の保険金の受取人は原則として「2 親等内の血
族」に限られているからです。
したがって、とれる対策としては、株式の価値をできるだけ引き下げることです。
なぜかというと、まず、後継者に株式を買い取ってもらうのであれば買取価格が低い方
が後継者に必要となる資金が少なく済むためです。また、後継者に株式を無償で譲渡する
場合には、後継者にかかる贈与税の額を少しでも低くしてあげるために、株式の評価額を
抑える必要があるからです。
そして、株式の価値を引き下げるためには、会社の利益を圧縮しなければなりません。
そのためには、会社が逓増定期保険・長期平準定期保険に加入して、あなたの退職金を準
備しながら保険料の 1/2 を損金に算入していくことが最も現実的だと言えるでしょう。
具体的な契約例は、逓増定期保険については P.29 以下、長期平準定期保険については
P.24 以下で紹介しましたので参照してください。
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あとがき
本書では、会社のキャッシュを最大化するという見地から、法人保険 7 種類をピック
アップし、具体例をもとに活用法を紹介してきました。
それぞれ、ニーズに応じた活用法があり、メリット・デメリットがあることがお分か
りいただけたと思います。
法人保険を有効に活用するためには、メリットとデメリットの両方を理解することが
大切です。その上で、メリットを最大限生かし、デメリット・リスクを最小限に抑える
ようにすれば、法人保険は会社のキャッシュを最大化する上で強い味方になってくれま
す。
法人保険を取り扱う保険会社は数十社あります。それぞれに保険料や保障内容が違い
ます。商品によっては、似たような保障内容でも保険料が 1.5 倍も違う場合もあります。
妥協せず、いろいろな保険を比較検討して、ご自身の会社のニーズに合っていて条件も
一番良い商品を選ぶことをおすすめします。
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