地域資源活用で中山間農業のイノベーションを!

【提言】
地域資源活用で中山間農業のイノベーションを!
■■■中山 間は地域資源の宝庫
農業・農山村は国民共有の財産■■■
(要約版)
平成 27年2月
日本農林漁業振興 協議会
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中山間地域農業は存続の危機にある
中山間地域そしてそこでの農林漁業は、食料安全保障や多面的公益機能の
発揮による国土の維持・管理をはじめとして、きわめて重要な役割を果たし
てい る。
しかしながら、中山間地域の人口の減少と高齢化は日本全体に先行してお
り、就農者の減少にともなう耕作放棄地の拡大や鳥獣害被害の拡大が顕著で
あるなど、地域循環の機能を喪失しつつあり、限界集落化や集落崩壊現象も
進む など 、中山 間地域 農業は存続の危機にさらされている。
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農林漁業の変革で地域活力を 取り戻そう
こうした中で、地域に根ざした先端的経営者の集まりである日本農林漁業
振 興 協 議 会 は 、「 中 山 間 地 域 問 題 検 討 委 員 会 」 で の 中 間 と り ま と め を 踏 ま え
て、学識経験者等もまじえた「中山間地域問題研究委員会」を発足させ、中
山間地域そして農林漁業を変革して活力を取戻し、所得と雇用を確保してい
くた めの 対策等 につい て検討を積み重ねてきた。
その成果を本政策提言としてとりまとめたもので、政策当局や農林漁業者
は勿 論の こと、 消費者 ・市民も含めた国民全般に広く訴えるものである。
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都市・農山漁村共生社会の創造が求められている
これまで中山間地域および中山間農林漁業の振興については、全国総合開
発計画(いわゆる全総)でその重要性に言及され、過疎法、山村振興法、特
定農山村法、さらには中山間地域直接支払等による振興対策、支援措置が講
じら れて きた。
しかしながら、これらのみをもってしては、中山間地域および農林漁業の
活力喪失・衰退のスピードを減速させこそすれ、歯止め、再生と振興をはか
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って いく のは困 難な状 況にある。
従 来 型 の 中山間 地域 振興 策は、「 人口が集中 する都市部 の大きな 市場に対応
して、特定の分野や品目に集中して大規模に生産する方式」である等の批判
もあ る。
むしろ中山間地域の「小規模・分散性」を特性としてとらえ、これらを自
然資源・地域資源の一つとして生かした農林漁業を展開していくとともに、
商工業も含めた地域循環を形成し、都市・農山村の交流拡大、人口の対流を
すすめ、都市・農山漁村共生社会を創造していくことが求められている局面
にあ り、こ のための政策展開と支援が急がれる情勢にあると受けとめている。
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中 山 間 地 を 日 本 農 業 の ゆ り か ご へ 、 イ ノ ベ ーシ ョ ン を 打 ち だ そ う
本提言は、これまでの延長線上での対策・振興策だけでは中山間地域農業
の維 持に は限界 がある、と の認識を踏まえて 、
「 中山間 は地域 資源の宝庫」
「農
業・農山村は国民共有の財産」というあらたな価値観に立って中山間地域農
業のあり方を抜本的に見直し、中山間地域を「日本農業の変革のゆりかご」
と す べ く 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン ( 革 新 )、 す な わ ち 新 機 軸 を 打 ち 出 し て い く こ と
を意 図し ている 。
5
イノベ ーションに向けた問題意識
イ ノ ベーション が必要 であると考える問題意識は次の6点にある。
1 国民 が共有 できる農 業・農山村へ
2 中山 間地域 農業の重 要な役割と地域の停滞
3 豊富 な自然 資源・地 域資源
4 潜在 力を秘 める中山 間地域農業
5 地域 循環の 創出・流 域圏の形成
6 自立 経営と “大小相 補”
6
政策提言のスタンス
こうした問題意識を踏まえて政策提言を行うにあたっての基本スタンスを
次の 7つ に集約 してい る。
1 農 林漁 業経営 が成り 立たずして「地方創 生」な し
2 中 山間 地域は 「地域 資源の宝庫」
3 飼 料自 給化に よる食 料自給率・自給力の 向上
4 地 域営 農の重 要性と 必要な地域マネジメ ント
2
5 環 境保 全型農 業そし て地域循環形成への 取組み
6 都 市・ 農山漁 村共生 社会の創造
7 多 面的 公益機 能に対 する直接支払による 所得補 償政策の確立
7
地域振興方策と政策支援
本 提 言は「地 域資源 活用で中山間農業のイノベーションを!」を テーマに 、
次の4つの柱に集約して中山間地域における農林漁業振興方策および政策支
援を 打ち 出して いる。
◆ 農林 漁業振 興方策 および政策支援の4つの柱
1
中山間地 域の特性を生かしての基幹産業である農林漁業の再生と
多業型経 済の振興
国民・消費者の支持・理解の獲得と参画が可能であるばかりでな
2
く、国民共有の財産として環境にやさしく地域循環が可能な農林
漁業の創 出
3
過疎化、高齢化する地域社会を支え、都市と農山村の共生社会を
リードし ていく人材の育成・確保と地域振興
中山間地域農業が発揮している地域資源管理、国土・国境の保全
4
・管理等についての多面的公益機能に対する直接支払による所得
補償政策 の確立
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具体的な政策の柱
中山間地域農業のイノベーションをけん引していく政策の具体的な柱を6
つあ げれ ば次の とおり である。
提言1
放 牧 による加 工型畜産からの緩やかな転換と未利用資源を活用した
飼 料 の自給 化
提言2
「 若 者・よそ 者・変わり者」の定住促進と定着支援による人材の確
保 と法 人化・団 地化
3
提言3
あ ら た な 兼 業 農 家 も 含 め た 多 様 な担 い 手に よ る “大 小 相 補” し て の 多様
な 地域農業 の展開 と高付 加価値化
提言4
都 市 ・農山村 交流拡大と都市住民・企業との連携による国民皆農
提言5
ア ト ラクティ ブな「美しい 農山漁村づくり」
提言6
農 林 地維持の ための多面的公益機能に着目した 交付金制度等の 整備
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経済一辺倒の社会から成熟にふさ わしい社会への転換
中山間地域イコール条件不利地域であるとの固定観念には根強いものがあ
る。しかし、中山間地域であるからこそ豊富にある「自然資源・地域資源を
生かした農業へのイノベーション」をはかり、これを国民・消費者が支持・
参画するにとどまらず「農業・農山村は国民共有の財産」としていく流れを
生み出していくことによって、中山間地域農業の再生は可能である。こうし
た中山間地域農業の再生は、日本ならではの農業そして地域社会をリードし
てい くモ デルと もなり 得る。
まさに経済成長一辺倒の社会から成熟社会への転換に対応した農業の先駆
けとしての役割発揮が、中山間地域農業の再生、所得と雇用の確保をもたら
すこ とを 確信す る。
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