『間』の大事さ 社会の中で良好な人間関係を維持することは、実に難し a いものである。 私は、この難題を解決するキーポイントは、自分の無力 さに謙虚になることだと思っている。これは、対大人の関 係だけでない。子どもを対象とした教育現場での師弟関係 においても同様のことが言えると思う。 さらに、私たちが社会を生きていく際、この意識に立脚 した上で、自分は相手に対しては、苦しさや悩みを何も代 わってあげることは出来ない存在であり、あなたは私では ない。また、私はあなたではないという謙虚な姿勢を持っ ておくことも必要となる。さらに、その上に立って、 『でも 仲良くありたい』という関係を採りたいものである。 人と人の垣根は、よくよく考えてみると、相手が作っているのではない。実は、自分自身で作 っているのである。毎日の生活を振り返ってみても、関係というのは不思議なものである。離れ ていると寂しくて仕方なくなるものでも、近づき過ぎるとうっとうしいと感じると言う経験をさ れた方も多いと思う。 『やまあらしのジレンマ』と喩えられた心理行動は、教育関係者の間ではよく知られていると ころである。二匹のやまあらしが寒さに震えているとしよう。この場面で、寒いからと二匹が近 づき過ぎると全身を覆う針が互いを刺すことになり、そうなると両者は寄り添うことが難しい。 しかし、と言って離れていると、温かさを得ることは出来ないという心理状態である。 これと同じことは人間関係でも言える。要は、他者との心理的な距離感、つまり、『間』が、 人間関係における重要な要素になるのである。 今、空気の読めない若者が増えているという。これも同じ理論で説明が出来る。 私たちが他者との関係を考える場合、「人と人間は違う」という視点を持っておきたいもので ある。例えば、私たちは、 「豊かな人間性」と言うが、 「豊かな人」とは言わない。つまり、社会 的動物として集団で生きている人間には、当然、その関係において、『間』が実に大切になって くるのである。 建築家の安藤忠雄氏が、次のような名言を述べている。 「現代社会は、スピーディー過ぎるが故に、 そこに人間の創造力を働かせる『間』がないのである」 人間がものごとを考える場合、その思考には、必ず『間』が必要となる。教室で授業を行う際 も、 『間』は、呼吸のようなものであり、 『間』のない授業は、実に空疎なものであろう。こうし た時代に読書が推奨されるのも、読書が人間の思考を刺激するアナログの世界であることによる と言えよう。デジタル社会の教育のあり方を考える場合も、この『間』が重要なキーワードにな ると思う。 つながりに重心をおいて子ども達の育ちを保障し、教育の質を高めようとしている本市の教育 の具体的な取り組みを進める際、この『間』の重要性を根底におくことに心掛けたいものである。
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