明 日 へ の 話 題

2016.12
明 日
へ の
話 題
IOT考察
インターネットイニシアティブ
代表取締役社長
かつ
えい
じ
ろ う
勝 栄二郎
どこにでも持ち運び可能なコンピュータであるスマートフォ
ンのグローバルな普及。ビッグデータの解析力。クラウドコン
ピューティング技術の向上や人工知能の出現。
これらにより、収集、蓄積、交換、分析されるデータ量が日々、
膨張を続ける。人と人、人と物、物と物がインターネットでつ
ながり、あらゆる事象がネット上で構築される時代を迎えつつ
ある。このような傾向をいかに評価するか、見方が分かれると
ころである。
最近、接した書物を通じて、二つの異なる評価を紹介したい。
この見解の違いは今後の経済、産業、生活の変化をどう見るか
にも大きな影響を与えるだけに、興味深い。
まず米ノースウエスタン大学のロバート・ゴードン教授は
「The Rise and Fall of American Growth」 で、1870 年 か ら
1970年にかけて生産性の急上昇をもたらしたイノベーションの
集積は、人類史上で一度限りしか得られない果実だったと指摘
する。
それまでは上下水道が完備されず、道路に馬の死体や糞尿が
積み上がり、住居環境や食糧事情も極めて非衛生的で、日常生
活で娯楽を享受する方法も余裕もなかった。19世紀後半から電
気、電話、ラジオ、テレビ、生活インフラ、自動車、飛行機な
どの発明の連続で、産業も生活も劇的に変わった。今日の高度
な生活様式の土台はこの時代に築かれた。
これに対し、IT(情報技術)による第三次産業革命は情報
通信とエンターテインメントの分野に限られる、とゴードン教
授は言う。TFP(全要素生産性)上昇への寄与も限定的で、
かつてのような画期的なイノベーションはもはや望むべくもな
い、と断じている。
一方、いわゆる「ダボス会議」の主催者として知られる世界
経済フォーラム会長のクラウス・シュワブ教授の著書「第四次
産業革命」はひと味違う。モバイル、人工知能、ロボット技術、
IOT、自動運転車、3Dプリンタ、ナノテクノロジー、バイオ
テクノロジー等々の出現により、第四次産業革命は線形ではな
く、指数関数的に急激に進展するのだと説く。
その影響はあらゆる分野に及び、あらゆるシステムが変容を
余儀なくされる。社会の価値観、個人の倫理観にも多大な変化
をもたらす。消費者の生活が便利、快適で安上がりになる半面、
労働に依存する人々と資本を所有する人々の貧富の差が拡大す
る。シュワブ教授は、デジタル時代において、多様性と民主主
義の根幹である個性を人類はいかに維持していけるのだろう
か、と問題を提起する。
バランスのとれた未来はありうるか。我々の生活を見るにつ
け、色々と考えさせられる。