熱量と水分量から参照できる「中心静脈栄養の処方提案一覧表」(Vol.99)

熱量と水分量から参照できる
「中心静脈栄養の処方提案一覧表」
∼医療法人 医仁会 武田総合病院 薬局における取組み∼
武田総合病院の薬局は、長年病棟活動に注力し、日頃から医師と処方
設計などについて活発な意見交換を行っています。特に輸液処方の考
え方や設計・内容に関しては、医薬品適正使用の観点から繰り返し医師
に相談し、必要な熱量と水分量から輸液処方を検索できる『中心静脈
栄養の処方提案一覧表』を作成、運用されています。作成の経緯や目
的、特徴、活用法などについて、薬局長の馬瀬久宜先生に伺いました。
武田総合病院薬局 薬剤師の皆さん
(2015年4月撮影)
第三者にもわかるよう「数値化」して
結果を提示することが大切
はじめに、薬局の方針と注力され
ている取組みをお教えください。
馬瀬 「結果を出す」
「間違えない」
「努力する」
という想いに基づき、① 環
形で示すことが大切です。病棟業務
の 実施率 や調剤におけるインシデン
ト・アクシデントの 減少率 などを数値
で提示しています。
熱量と水分量から輸液処方を
参照できる一覧表を提案
シンプルな処方となるよう
薬剤の組合せを熟慮
輸液メニュー表の特徴や、作成
上のポイントをお教えください。
馬瀬 「通常版」
と、水分制限が必要
な腎不全患者さん用の「腎不全版」の
境改善 ② 病棟業務の推進 ③ 安全
『中心静脈栄養の処方提案一覧
2種類を作成しました。両バージョンとも
対策 ④ 購入管理 ⑤ 教育、
の5本柱を
表 』は、
どのような経緯で作成された
に熱量(kcal)
を縦軸、水分量(mL)
を
据えて業務の充実を図っています。
のでしょうか。
横軸にとり、
それぞれの数値を概ね200
特に注力しているのは病棟業務で、
馬瀬 『中心静脈栄養の処方提案一
ごとに区分したマトリックス図としました
「全患者さんに関わりたい」
という薬局
覧表』
( 以下、輸液メニュー表)
も数値
(図表)
。
また、
医師の処方の制約となら
スタッフの熱意もあり、
薬剤管理指導業
化・視覚化の一環として、医師と意見
ないように、表のタイトルは「処方提案」
務の実施率100%を目指して取り組ん
を交換しながら作成し、2015年3月に
と記載しています。
でいます。
完成しました。
作成にあたり、主に次の点を工夫し
業務における結果判定は、数値化
輸液メニュー表作成にあたり、武田
ました。
や視覚化など、第三者が見てわかる
病院グループ栄養科で使用している
「院内食事箋規約」がヒントとなりまし
た。
「院内食事箋規約」は食種(一般
食と治療食)
から熱量などの栄養量を
一覧できるようになっており、中心静脈
栄養も同様の一覧表にできないかと以
前から考えていました。
研修医との会話を契機に試行錯誤
を重ねて、
患者さんの病態に応じて必要
な 熱量 と 水分量 から輸液メニュー
まぜ
薬局長
馬瀬 久宜 先生
(処方)
を参照できる一覧表の形にまと
め上げ、
院内での配布に至っています。
Ⅰ 調製をスムーズかつ正確に行
えるよう、処方の薬剤アイテム数
を絞る。
Ⅱ 汎用性の高い糖液をベースに、
可能な限りシンプルでバランス
のよい処方を目指す。
Ⅲ 調製時に輸液を容器から 抜く
作業が発生しない処方設計と
する。
Ⅳ 熱量及び水分量の目盛りと、実
数値との誤差を最小限(通常
図表 中心静脈栄養の処方提案一覧表
(輸液メニュー表)
腎不全版
通常版
処方を表記
Na及びKの濃度、
NPC/N、
ブドウ糖の
含有量を表記
水分量を増量する際、単純にアイテム数を
増やすのではなく、できるだけ少ないアイ
テム数となるよう、薬剤の組合せを工夫
縦軸に熱量、
横軸に水分量を表示
「通常版」
は熱量400∼1600kcal、水分量1000∼2000mLの組合せで作成。
「腎不全版」
は水分制限が必要なため、水分量を600∼1600mLとしている。
版は±50以内)
になるよう配慮
する。
Ⅴ 各処方欄にはNa、K、NPC/N
の他、医師からの要望に応え
ブドウ糖の量も掲載する。
提供:武田総合病院 薬局
にも組み込み、
熱量と水分量の組合せ
研修医からは「末梢静脈栄養版もあ
から輸液処方を容易に参照できるよう
ると有り難い」
との要望もあります。
にしました。
院内での活用状況に応じた
継続的な改訂が今後の課題
輸液メニュー表に対する院内の
Ⅲの「輸液を容器から 抜く 作業」
を
今後の構想や抱負をお聞かせく
ださい。
馬瀬 現状は、
脂肪乳剤の投与量・方
法については 参考 として輸液メニュー
表の欄外に記載していますが、医師か
排除したことは、効率的な調製のみな
評価はいかがですか。
らの問合せもあるので、
エネルギー源と
らず、
コアリング防止など安全面におい
馬瀬 輸液メニュー表は研修医を含
しての脂肪乳剤をいかに輸液処方に
ても有用といえます。
む医 師にも活 用してもらっています。
加えるかが、今後の検討課題です。
活用してもらう上で、
どのような
「輸液処方の設計方法を理解するのに
また、熱量や水分量の区分もこれが
点を工夫されましたか。
好適」
「NPC/Nもよく考慮されている」
最適とは限りません。実際の活用状況
馬瀬 使用する状況を考慮し、三つ
などの評価をいただいています。また
と適正使用を勘案し、
より使いやすく
折りのポケット版と、A4サイズ版の2種
類を用意しました。
写真
改訂していきたいと思います。
医師など病院スタッフの要望を聞き
ポケット版は医師や薬剤師、管理栄
つつ、必要とされるツールの積極的な
養士などに携帯してもらうもので、畳ん
提案や、医薬品の適正使用の推進を
だときに文字が折りの部分に重ならな
していきたいと考えています。
いようにレイアウトを工夫し、
また、白衣
医療法人 医仁会 武田総合病院
のポケットに入れたときに破損しにくい
京都府京都市伏見区石田森南町28‐1
ようジャストサイズとしました
(写真)
。
開 設:1976年
病院長:森田陸司
病床数:500床
診療科目:21科
薬剤師数:22名
A4サイズ版は、パウチ加工して各
病棟に掲示してもらい、
スタッフがいつ
でも閲覧できるようにしています。
更に、輸液メニュー表は電子カルテ
ポケットサイズ版は、
白衣の胸ポケットからはみ出て
破損しないよう、
サイズに留意した。
〈2015年4月現在〉