第1章 チームアプローチの チー チームアプローチ チの 目的と意義 と意義 第1章 チームアプローチの目的と意義 3 Ⅰ.はじめに;チームアプローチとは チームの重要性が強調されるようになって久しい.これは,多くの人が 1 つの対象に関わる場合に,お互いにほかの人たちの動きが理解できていると 対象者に対する関わりの効果が大きく変わることに気がついているからだろ う.そもそも,多くの人が働くとき,どこでだれがどのように動いているの かといった関連するほかの人の立ち位置が理解できなければ,よいパフォー マンスは期待できない.このことは演劇や団体スポーツを例にとるまでもな い.ほかのメンバーがある部分についてはきちんと対処しているから,自分 は自分の持ち場で仕事に専念できる.そのような状況がつくれれば,単独で は対応できない大きな課題に取り組むことも可能となる.1 人ひとりの力量 をあげることが重要であるのはいうまでもないが,それのみでは到達するこ とができないプラスアルファのパフォーマンスを行えるようになるのがチー ムの強みである.チームアプローチとはこのような「チームの強みを意識し, これを意図的に活用して,利用者を支援する手法である」といえる. 1 .チームの諸相 では認知症ケアにおいてどのような場面で,どのようなチームが形成され ているのだろうか.利用者の生活場面から考えよう.利用者は,居住施設や 地域で生活している.居住施設であれば,介護者は 3 交代制などのローテー ションを組み,利用者のケアに当たっている.それぞれの場面で遭遇した出 来事に関して情報を交換し,利用者の状態をどのように理解しどのような対 応をとるか,というケアに関わるアセスメントを行いプランを立てるだろう. ここでは同一の専門職がメンバーである支援チームが存在するといえる.ま た,施設内では,介護福祉士,社会福祉士,看護師,医師など多くの専門職 がおり,これらの専門職がそれぞれ利用者に関わっている.各専門職は専門 的な観点に基づいて利用者のアセスメントを行いプランを立てる.また,自 分たちの関わりだけでは支援が完結しない場合は,支援を効果的なものにす るために他の専門職に協力を求めることが必要となる.ここでは多様な専門 職がメンバーとなったチームが現れる. 4 一方,地域で生活している場合,多くは介護支援専門員が関わり,利用者 の自宅での生活を支えるために多くの福祉サービスをコーディネートする. ここでも,多様な機関の多様な専門職がメンバーとなったチームが形成され る.場合によっては,1 人の介護支援専門員がケアプランを策定するのでは なく,その機関のメンバーが共同で策定するかもしれない.そうすると,ケ アプラン策定の段階でもチームが現れる.1 つの家庭に複数の家庭奉仕員が 関わっている場合には,家庭奉仕員同士の連絡調整が必要になるだろう.こ こにもチームがある.デイサービスセンターでは,利用者が有意義にすごせ るようスタッフは支援する.その際,それぞれの利用者のエピソードを共有 し,どのような場面で利用者がリラックスし,どのような場面が苦手である かといった情報を共有し,場面ごとの対応について検討することが必要とな る. 1 人の介護者をめぐって,チームはこれほど多様な場面で,多様なレベル で組まれている.つまり,ケアを行う支援者は重層的にチームに属している といえる.このことを意識することは,チームを考える第一歩であるといえ る.自分自身が支援を行うにあたってどのようなチームに所属しているかに ついて,ぜひ考えてみたい. Ⅱ.チームアプローチの目的と意義 1 .チームアプローチの目的・意義 そもそも,1 人では解決できない問題や課題を解決するために組まれるも のがチームである.一方,多くの人が関わっていても,その人々が相互につ ながりをもたずにいる場合,チームを形成しているとはいわない.チームを 形成する意義を考える場合,この多くの人が関わることの目的・意義とその 人たちがチームを組むことの目的・意義の両者から検討することが必要とな る.そこで,まず第一に,利用者に関わる人たちがチームを組むことの目 的・意義について検討し,次に,1 人の利用者に多くの人が関わることの目 的・意義について検討する. 第1章 チームアプローチの目的と意義 5 1 )利用者に関わる人たちがチームを組むことの目的・意義 (1)利用者が混乱しない 利用者に多くの人が関わる場合,関わる人によって助言の内容が食い違え ば,当然利用者は混乱する.関わる人々が,互いの考えを知り,互いの動き を知ることは不可欠である.そのなかで,援助方針を理解し了解し合うこと によって,利用者を混乱させるような関わりを避けることができる.これは チームを組むことの基本的な意義であるといえる. (2)支援の効果を最大限にできる 利用者を援助するのに際して,関わる人々が個々ばらばらの方針をかかげ たのでは効果があがらない.それどころか,それぞれが決めた援助方針同士 が互いに互いの効果をそぐものであったり,矛盾していた場合,逆効果になっ たりする.逆に,利用者に関わる人々が援助方針を確認し合い,調整した場 合,支援の効果を最大限にすることができる. (3)援助の継続性を保つことが可能となる 1 人の援助者のケアを次の援助者につなげることができるようになって初 めて,利用者の生活全体に継続的に関わることができるようになる.とくに, このような意義はケアワーカー・チームなど,単一専門職によるチームに見 いだせる意義である. 2 )1 人の利用者に多くの人が関わることの目的・意義 (1)利用者の多様なニードに対応することが可能となる 多様な人々が関わることにより,利用者のもつ多様なニードに対応するこ とが可能となる.これは,とくに多専門職によるチームの場合に顕著な意義 であり,専門職によって具体的な支援内容が異なるからである.さらに非専 門職がメンバーに加わることによって,利用者の情緒面のサポートや,日常 的な見守りなど応じることができる範囲は飛躍的に拡大する. (2)多くの情報に基づいた包括的なアセスメント・プランの策定が可能に なる 1 人の支援者が 1 人の利用者に関われる機会は時間的にも空間的にも限ら れている.当然,複数の援助者が複数の時間と場面で 1 人の利用者と関わり をもつことになる.それらの具体的なエピソードを共有して利用者像を理解 6 することは的確なアセスメントには不可欠である. このような多面的な利用者像の理解に加えて,アセスメントとプランの策 定にあたって,多くの視点を組み込むことができる.とくに,多専門職チー ムの場合,多元的で効果的な援助計画を策定することができるようになる. 専門職はそれぞれ独自の観点と理論をもち,それに基づいてアセスメントを 行うものであるからである. (3)効果的な援助のための方法や役割分担を検討できる 明確になった目標に関して,どの場面でだれがどのように関わるかといっ た関わりに関する方針の共有と役割の分担は,チームでなければ行えないこ とである. (4)討議を行うことによって個々の援助者のケアの質の確保・向上が望め る. チームを組んで利用者を支援することはスタッフの力量の向上にも影響を 与える.単独での援助であれば,望ましいことではないが「勘」や「直感」 をそのまま支援に結びつけることも可能である.しかし,チームを形成する とチームとして方針策定を行う必要があるため,常に利用者に関して理解し た事柄や援助方針の表明と討議が求められる.他者が理解できるよう言語化 することが求められる環境では,専門職としての支援を意識することとなる. 専門職としての支援の根拠と効果が問われる環境では,専門職としての力量 が向上する. (5)チームでの相互作用がサポートの源になりバーンアウトの回避につな がる. とくに困難なケースに関わる場合に顕著である.スタッフにとって心理 的・身体的に負担が重いケースである場合,負担感を共有できるチームの存 在は大きい.ストレスが増す状況では的確な判断が困難となる.利用者への 巻き込まれが進み,客観的に状況を判断できにくくする.チームを形成する ことで負担感は軽減され,専門職として的確に機能し続けることができるよ うになる. とくに,認知症ケアにおいて対象者は特別な配慮が必要であることが多い 第1章 チームアプローチの目的と意義 7 表1−1 多職種チームの利点と問題点 利 点 1 より適切で効果的な援助計画の作成 � 2 多様な視点による多くの選択肢の提 � 示 利 3 多様な立場の要望・意見を踏まえた 用 � 者 総合的な検討 4 恣意的なアセスメントやパターナリ � スティックな援助の相互規制 ス タ ッ フ 問題点 1 利用者の意向を無視した専門家の結 � 託のおそれ 2 選択性の低下 � 3 援助計画作成の遅延 � 4 情報漏れの危険性によるプライバ � シー侵害のおそれ 1 多様な視点・知識の相互理解 1 役割・責任のおしつけ合い � � 2 専門家としての判断・意見を求めら � 2 保守的傾向に陥り新規の試みに抵抗 � 3 非生産的な論議 れることによる専門性の向上 � 3 バーンアウトの予防 � 1 一貫したサービスの提供 1 費用効果があがるとは限らない 政 � � 策 2 2 メンバーの活動時間を制約 � サービスの二重提供等を排し資源活 � 主 3 機関の政策・手順・規制等の変更を 体 用の効率性を向上 � ・ 3 サービス内容を標準化 � 迫られる可能性 サ 4 専門性向上の動機づけによるサービ ー � ビ スの質の向上 ス 機 関 (出典)副田あけみ:在宅介護支援センターのケアマネジメント.中央法規出版,東京(1997)よ り一部改変. ので,この点からチームの形成の意義を考えることは重要である(表 1−1).認 知症の利用者の場合,スタッフ間の意向や対応に食い違いがあった際に混乱 する.利用者がスタッフ間の関係のズレに柔軟に対処することは多くの場合 望めない.そのため,スタッフ間のアセスメント・プラン・関わりのずれが 利用者の精神生活に大きな影響を与える.この点で,スタッフ間で利用者理 解をどこまで共有しているかは,利用者に対する援助の質に直結するといえ る.この点からチームアプローチは認知症ケアにとって不可欠できわめて有 効なアプローチであるといえる. 利用者の問題を一専門職が 1 人で「抱え込む」ことは,問題の解決を遅ら せたり,問題状況を悪化させるおそれがある.このような場合,多面的なア セスメントを効果的に行い,多くの人で利用者を支援し,見守るサポート体 8 制をつくることが重要である.課題に対する評価が一面的になる,支援・見 守りが継続的に行われない,さらには,単独での関わりであることによるス トレスや行き詰まりを避けるという点で,チームが果たす役割は重要である. 2 .チームアプローチの限界・弱点 これまで,チームアプローチの意義に焦点を当ててきた.しかし,チーム はあくまでも支援の「仕組み」である.「仕組み」であれば当然,意義とと もに限界・弱点を併せもつ.この点を認識しておくことは,的確にチームを 活用するために重要である.副田は,多職種チーム形成の利点と問題点を表 1 1−1 のとおり整理している1).対利用者の問題点としてあげられている,� 2 選択性の低下は,チームアプローチ 専門家同士が結託するおそれおよび,� のひとつの特徴である専門職同士の強い横のつながりが,利用者の最善の利 益であるというチーム形成の目的を置き去りにした結果,生じるものである 1 役割・責任 といえる.また,対スタッフの問題点としてあげられている,� 2 保守的な傾向は,チームのメンバー 1 人ひとりが,対利用者 の不明慮性,� との関係において,専門職としての責務を全うするものであるという了解が, チームのなかに埋もれた場合に生じるものであるといえる.いずれにしても, チームは個々のメンバーが専門家として十分に力量を備え責務を全うする限 りにおいて機能するものであることを認識することが必要であろう. 個々の専門職の自律性,個々人の力量の発揮・向上を怠っている場合,チー ムは利用者の支援・援助にとって否定的なものとなる.このようなチームア プローチのもつ問題点や弱点を認識し,これを補う方法,顕在化させない方 策を検討することが重要であるといえる. 【文 献】 1)第 25 回日本保健医療社会学会シンポジウム「多機関・多職種協働チーム」資料よ り(1999. 5) .
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