アイヌ語沙流方言における助動詞 a の繰り返しによるアスペクト表現について 吉川佳見 本発表では、アイヌ語沙流方言を対象とし、助動詞 a の繰り返しによる連語形式を取り上 げる。助動詞 a は完了を表す形式とされるものであるが、「動詞+a 動詞+a」という形式 によって、反復や継続を表すと考えられている。田村(1988,1996)(沙流方言文例)では以下 のように説明されている。 a【助動】[< a 4] 1(二度か三度くり返されて) ...a ...a ...ァ ...ァ してしてし続ける, くり返しく り返し/どんどん/さんざん... する. cis a cis a チサ チサ 泣いて泣いて泣き続けた, さめざめと泣いた,泣きに泣いた. (田村 1996:1) kesto an kor miso oruspe patek ye a ye a iramsitnere hawe an! 毎日 毎 日 味噌の こと ばかり 言っ て 言っ ている ああうるさい な あ!2 「毎日毎日味噌のことばかり言って言っているああうるさいなあ!」 (田村 1988:42) このような連語形式は、上に挙げた動詞 cis「泣く」や ye「言う」のほか、ipe「食べる」 や onkami「拝む」といった動詞を取る場合がよく見られるが、その他に取る動詞の傾向や、 動詞による意味の揺れの有無など、その特徴をまとめることを目的とする。 また、前述のように「動詞+a 動詞+a」は、完了を表す助動詞 a に由来し、反復や継続 を表す一種のアスペクト形式と考えられているが、助動詞 a のアスペクト性に関しては修 論において別の側面からの捉え直しを提案しており、その点も含めて a の連語形式のアス ペクト性についても改めて検討したい。 対象とする資料は散文説話資料と会話記録、方言は沙流方言に限定する。 参考文献: 田村すず子(1988)「アイヌ語」亀井他 編『言語学大辞典 第 1 巻』pp.6-94 三省堂 ―――――(1996)『アイヌ語沙流方言辞典』草風館 1 「a 4」は「a」の 4 番目の辞書項目を指す。ここでは、この連語形式の a が助動詞 a「(以 前に) ... した (完了)」 (a 4 の項目)に由来することを示している。 2 グロスは原文に従った。 26
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