2004年経済の課題 ―ディスインフレ終息はシグナルか雑音か―

【パラダイム】
2004年経済の課題 ―ディスインフレ終息はシグナルか雑音か―
北海道大学大学院法学研究科教授
宮脇 淳
2002∼2003年にかけて、日本経済全体は緩やかながらも回復傾向をたどってきた。しかし、2
002年と2003年とでは回復の質に大きな違いがある。2002年は、生産活動の回復、設備投資に
おける減少幅の縮小等の動きが見られた一方で、依然として賃金低下、雇用者数の減少が続き、企業リス
トラの中での景気回復という局面にあった。これに対し、2003年は、生産活動と設備投資が増加傾向
をさらに強める中で、賃金、雇用共に改善する動きとなっている。2002年はコスト削減等企業リスト
ラと景気回復が並存していたが、2003年には生産活動、設備投資の拡大に加え労働投入の増大という
新たな流れが生じている。
2003年の日本経済が2002年経済に比べさらに回復力を強めた原因は、米国経済の回復にある。
米国経済は、2003年に入り国内需要等を中心に回復のペースを強めてきた。企業や消費者の景況感が
好転を続けており、その背景には企業収益の増加とそれに伴う雇用環境の急速な改善がある。こうした大
きな流れは、テロ等経済外部要因がない限り2004年も維持される可能性が高いと考えられる。
こうした中で、世界的なディスインフレ傾向に歯止めがかかりはじめている。戦後の長期的なインフレ、
ディスインフレの流れをみると、1960年代から1970年代にかけてのインフレ期と80年代から今日
にかけてのディスインフレ期に大きく分けられる。80年代以降のディスインフレ期は、サッチャーやレー
ガン政権に代表される小さな政府志向、民間化政策、グローバル化の流れなどが強まった時代であり、新自
由主義が先進国において深化した時代でもある。この長期にわたるディスインフレ期が終息する兆しを示し
はじめているのである。その理由は、米国を中心とした生産者価格やコア消費者物価の上昇にある。日本で
も、2002年以降、消費者物価の下落率に縮小傾向が強まっており、米価や医療費の上昇など特殊要因も
足元で見られるものの、コアの商品価格は少しずつ上昇圧力を強めている。こうした傾向が2004年当初
より本格化し、インフレ傾向が一気に顕在化する可能性はもちろん小さい。しかし、2004年を通じて、
これまでの長期にわたるディスインフレ、低金利動向の流れに変化をもたらす要因が堆積する可能性には留
意すべきである。ディスインフレ、低金利が恒常化した今日、その恒常化した現象に変化をもたらすサイン
に鈍感になっている可能性がある。今回の景気回復、コア物価の上昇が経済全体の流れに中期的に変化(リ
インフレ期への転換)をもたらすサイン、そしてシグナルとなるのか、それとも単なる雑音で終わるのか、
十分留意していかなければならない。その結果は、国や地方自治体の財政運営にも大きな影響を与えるから
である。
ディスインフレ期
インフレ期
1960
リインフレ期(?)
2000
1980
「PHP 政策研究レポート」(Vol.6 No.78)2003 年 12 月
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