道州制議論の意義と方向性

【パラダイム】
道州制議論の意義と方向性
北海道大学大学院法学研究科教授
宮脇 淳
道州制議論が活発化している。その大きな原因は、秋口以降、小泉内閣が道州制について検討する
方向性を打ち出し、北海道を先行地域とする考え方を自民党の衆議院選挙マニフェストにも示したこ
とにある。道州制は、市町村合併と共に基礎自治体の規模が拡大し自律性が高まった段階を見据え、
従来から議論されてきた問題である。また、地方制度調査会の最終答申にも道州制導入に向けた考え
方が提示され、道州制議論も新たなステージを迎えつつある。
今回、道州制を小泉内閣が打ち出してきた背景の一つは、地方分権、地域政策の分野で具体的な
成果を打ち出す必要性が求められた点にある。それは、時を同じくして地域活性化が重要な政策テ
ーマとして掲げられたことからも推察できる。つまり、すでに「道」の形式的枠組みをもつ北海道
において先行実施することで、地方分権推進によるメリットを明示することに目的がある。しかも、
北海道以外の地域にとっては、現行の都府県制度のままでは活用できない特区構想であり、当面、
道州制議論を地域限定的に展開できる利点もある。全国規模での道州制導入は、国会そして霞ヶ関、
とくに総務省の権限との間に大きな軋轢を生み出す。それだけに、北海道に限定して道州制を試行
することには政治的なメリットも存在する。
そもそも、道州制議論は住民からは遠い存在であり、国と地方の間の権限・財源配分に関する行
政内の問題と受けとめる認識も少なくない。こうした認識は、「与えられる自治」の現実を反映し
ている。道州制が地域生活にいかなる変化をもたらすかを自治の問題として捉え、自らの地域のあ
り方を自ら判断し実現する「固有の自治」の議論として受けとめる体力が必要である。道州制は、
地方交付税、補助金、税などの改革議論と一体であり、最終的には財源・税源・権限の抜本的再構
築が不可欠である。しかし、そうした議論を現実のものにするには、住民が道州制を自らの問題と
して認識し議論する環境と体質が必要になる。
そうした環境と体質を生み出すために「道州特区」なる概念を形成し、まず住民に道州制導入に
よる変化として、現行の特区よりもさらに広い領域を一括して規制緩和の対象とし、そのメリット
を明確に示す。その上で、規制と一体となっている補助金改革を進め、一括交付などの導入に結び
つける。規制や補助金は様々な規格・条件によって現実の事業に縛りをかけており、必ずしも地域
特性や住民生活の利便性向上に資しているとは言えない。こうした規制と補助金の見直しをトリガ
ーとして、都道府県合併や道州単位といったより広いネットワーク形成による住民生活のメリット
を具現化する。そして、補助金等の体制が変わることにより必要となる行政組織の見直し、すなわ
ち従来の国や地方自治体の行政組織が現行制度のままでいいかを問いかける行革議論に結びつけ
ていく。こうした現実からの移行プロセスとしてのトリガーと戦略を、最終的な理想像とともに明
確に描くことが重要である。
道州制は、主権が地域にある連邦制とは異なり、国家主権の下で地方の統治制度をいかに形成す
るかの一議論である。したがって、道州制では国の主権の下で地方制度が形成されることになる。
しかし、「固有の自治」に基づく道州制を求める以上、最終的には議会の機能をいかに国から道州
政府に移行させるかも重要な課題となる。国会は唯一の立法機関である。その立法機関が自らの制
定する法律によってどこまで道州制そして地方自治体に対して意思決定の機能を移転できるか、ま
さに国会議員と霞ヶ関の課題ともなってくる。
「PHP 政策研究レポート」
(Vol.6
1
No.77)2003 年 11 月