まち・ひと・しごと創生と政策の窓

PPPニュース 2015 No.9 (2015 年8月 10 日)
まち・ひと・しごと創生と政策の窓
まち・ひと・しごと創生政策における地方版総合戦略において重要なことは、地域資源に基づくト
リガー形成に目を向けることである。他の地域で展開されている政策や事業のコピー、自分の地域に
「ないもの探し」による地域資源と無関係な事業の誘致・展開、そのほか「ないもの探し」による他
の地域の平均水準への引上げにとどまる戦略であれば、自らの地域の競争力は向上せず活性化への効
果も薄い実態とならざるを得ない。そのためには、行政・議会だけでなく地域自体が「政策の窓」と
なることが不可欠である。
「政策の窓」は、キングダム(Kingdon)によって指摘された事項であり、政策を組み立てるために
不可欠な要素である。政策形成に対する民間企業や住民等、行政・政治以外の主体の参加である水平
的民主主義の拡大 PPP の展開は、より多くの人が地域の政策形成のプロセスに関与し、政策への住
民等の参画とそれによる質的向上、機能と責任の分担を進め、民主主義の体力を高める要素となる。
しかし、
「政策の窓」を閉じたまま PPP の展開、水平的議論の多様化を進めた場合、従来から引き継
いできた規範性の自縛を温存したままで利害関係の多様化を進めることになり対立の細分化を深刻
化させ、細かく刻まれ分断された政策議論を押し進めるだけの結果となる。いわゆる、水平的議論が
細分化されたタテ割りのタコ壺に落ち込むことになり、一定のまとまりのある結論を導き出すことは
困難である。このため、議論の多様化そして水平的民主主義の拡大が必ずしもよりより政策の選択に
結びついているとは限らないことには留意すべきでる。
PPP、水平的議論が生じさせる問題点は、利害関係が多様化しアジェンダ(解決すべき課題)の数
を増やすものの、アジェンダを解決する政策の絞り込みが機能せず、議論を従来以上に輻輳化させる
ことである。議論自体は活発化するものの、結論を見出すことのできない長いトンネル型に議論が迷
い込みやすい。その結果、一定の段階で「権威による決断」が下され、決断から漏れたより多くの細
分化された議論は、参加自体に対する空虚感を深める原因となる。議論への参加者は政策形成への不
信感をさらに高め、形成された政策への無関心が充満する。PDCA サイクルの導入は不可欠である。
しかし、課題の輻輳化を抱えたままの政策、権威による決断による政策に PDCA サイクルを機能さ
せることには大きな障害が実質的に存在する。こうした悪循環を克服し、政策議論を創造性の高いも
のには、細分化され分断化された議論を結びつける窓を開け放つ必要がある。本来、民主主義は時間
を要するものであり、議論がある程度輻輳化することは避けられない。しかし、議論の充実のために、
大きく欠けている要素、それが「政策の窓」を開くことである。
「政策の窓」は、政策アントルプレナー(キングダムは「政策アクティビスト」と呼んでいる)の
存在により大きく開け放たれる。政策アントルプレナーは、企業家同様、将来の一定の成果を期待し、
自ら賛成する理想に向かって実行性ある戦略を踏まえた様々な新たな政策を提案し議論する。議論は、
開け放たれた窓を通じて相互に学習し、より質が高く実行性の高い政策へと積み上げられる。具体的
には、地方分権時代に地域自体が政策アントルプレナーの場となり、社会的実験としての地域政策を
展開することである。このため、アジェンダの提示やアジェンダの優先順位の引き上げだけに止まら
ず、問題・政策・政治の流れを相互に結びつけ、ひとつのパッケージにまとめ上げていく機能が重要
となる。政策アントルプレナーには、常に多面的且つ優秀なアンテナを持ちつつ、政策の窓の状況を
読みとりながら意思決定し、行動する資質が求められる。地方版総合戦略の策定においても、コンサ
ルを含めそうした政策アントルプレナーの機能発揮が本来は求められることになる。中央集権体質の
中では、地域の政策展開に対する政策アントルプレナーの存在は希薄であった。しかし、地域の価値・
資源に根ざしたディファクト・スタンダード(非権威型の基準)に根ざした政策を展開するには、地
域の政策アントルプレナーが重要な役割を果たす。但し、「まち・ひち・しごと創生」自体がパッケ
ージを国が示す等中央集権的体質を有している中で、地域の政策アントルプレナー機能が発揮できる
領域も限定的ではある。しかし、本来の地域政策のあり方を、今一度、見直す必要がある。
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