PPP のモニタリング機能と公立図書館問題

PPPニュース 2015 No.21 (2016 年2月 10 日)
PPP のモニタリング機能と公立図書館問題
PPP を巡る昨年 2015 年の大きな出来事として、愛知県小牧市の住民投票による TSUTAYA 図書館
に対する住民の反対の意思表示が挙げられる。書店、カフェ等を併設した公立図書館の指定管理によ
る展開に対する住民の評価であり、同事例において先行して発生していた資料の管理不備等も背景と
なっている。PPP に関する第1の問題としては、指定管理者制度における地方自治体との情報共有と
モニタリング機能の質的問題が挙げられる。指定管理者制度は、公共サービスの展開に対して民間の
創意工夫を反映させることで、図書館機能等の質を地域的に高めていくことを意図している。こうし
た指定管理者制度に対する行政と民間両者間のマネジメント機能の再検証が求められている。しかし、
本質的な課題は、公立図書館の機能を如何に地域で明確にして住民と共有するかの点にある。
公立図書館は、地域の社会教育機関として地方自治体の教育委員会の下で、図書館法第2条に基づ
き事業展開されている。しかし、情報通信革命(ICT)の進展など公立図書館を取り囲む外部環境も
地方自治体同様に構造的に変化しており、その中で①公立図書館が地方自治体の一部であることへの
認識とそれに基づく機能検証、②公立図書館の地域貢献の目的は何かを常に問いかけることが図書館
の進化には重要となっている。進化とは、継続的な構造変化であり、地方自治体の機能として地域に
果たす役割は何かの追求である。この追求に不可欠となるのが公立図書館の管理志向型から地域への
行動志向型への発展である。管理志向型とは、図書館をはじめとして地方自治体の継続業務や義務的
業務を中心に目標を着実に達成するため、基本的な目的・機能や枠組みを堅持しながら進行管理する
ことである。管理志向型は、環境変化が少ない中で進行管理には適するものの、①施策・事務事業ど
のレベルでも新たな手段の構想には及びづらいこと、②外部変化に伴う未経験な現象を対象として取
り扱う視点が不足すること、③既存枠組みを堅持し、容易に選択できる範囲で代替案を構想しやすい
ことなどの課題がある。目的達成のために手段の見直しが必要な時にも適時に対応できず、手段の維
持を優先し目的を見失う「計画の逆機能」(形式的に計画を守ろうとする発想が計画を機能不全にす
ること)を発生させやすい。
管理志向型から行動志向型への発展は、①「行政内部あるいは特定の利用者の視野」から「地域の
視野」に視点をまず変化させること、②常に民間機能との比較において自ら担う行政としての機能を
検証することが重要となる。具体的に行動志向型の公立図書館の運営を考える場合、①公立図書館が
担う地方自治体の公共サービスとしての意義・目的の明確化とそれに基づく、②公立図書館機能への
地域の視点からのモニタリング機能の設定が重要となる。①公立図書館が担う地方自治体の公共サー
ビスとしての意義・目的の明確化においては、まず、当該公共サ―ビスの機能の排他性・競合性の検
証が改めて必要である。排他性とは、税負担や利用料負担がなくても財政で全部・一部を負担し提供
すべきサービスであるかの判断であり、競合性とは同様のサービスを提供している組織が官民を問わ
ず存在していないかの判断である。排他性が弱く(コスト負担を求めずサービス提供する度合いが高
い)
、競合性が弱い(同様のサービスを提供する主体の存在が少ない)ほど公共サービスとしての一
般的性格・優先度が高く、排他性が強く(コスト負担がないとサービス提供しない度合いが高い)
、
競合性が強い(同様のサービスを提供する主体の存在が多い)ほど公共サービスとしての性格は弱く
民間に任せることが適したサービスとなる。例えば、図書館法の規定に基づき、住民ニーズに合わせ
てベストセラー等一般書店で販売する書籍を中心に整備した公立図書館の場合、排他性は弱く競合性
は強いことになる。その場合、民間でも提供している書籍サービスに、直接的受益者に必要なコスト
負担してもらわず財政で負担して提供することの正当性を明確にしなければならない。この正当性の
明確化がない場合、仮に貸出率等のモニタリング項目が高くても、本来、公共サービスとして提供す
る性格が弱い分野に財政負担しているため、政策評価では高い評価とは本来ならず、公共サービス提
供の優先順位も低くなる。しかし、図書館法の枠組みだけでなく、地域住民が集まり地域のことを知
り考える地域生活のハブとなるシティ・ホールとして図書館の目的・機能の多様化を図ったとすれば、
ベストセラー書籍による貸出率向上も本機能を達成する手段となり、これに適したモニタリング項目
が設定可能となる。
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