平成 26 年度 「海外の道路管理に関する最新状況」(米国)の概要

平成 26 年度
「海外の道路管理に関する最新状況」(米国)の概要
米国における道路予算をめぐる最近の状況について
米国においては、基幹的高速道路網はほぼ完成しているが、近年では幹線道路インフ
ラの老朽化が進行し、更新・修繕を含めた既存インフラの適正な管理が重要課題として
浮上してきている。
そのために必要となる財源として自動車燃料税(揮発油およびディーゼル燃料税)が
あるが、過去 20 年間にわたって税率が据え置かれたままとなっており、必要財源の不
足が年を追うごとに深刻となってきている。議会予算局(Congressional Budget Office;
CBO)の道路特定財源の将来予測によると、2015 年~2035 年の 20 年間で約 2 兆ドル
の不足が見込まれている。こうした中 2014 年 9 月で失効する道路特定財源の支出期限
が 2015 年 5 月まで延長され、また、道路信託基金の破綻を回避するため一般財源から
約 108 億ドルの資金が繰り入れられることとされ、道路特定財源の破綻の危機は当面
回避されたが、同基金の抜本的な財政健全化や安定的な財源の確保は依然として喫緊の
課題となっている。大統領は 2015 年会計年度予算教書の中で現行の陸上交通法である
MAP-21 の後継法案を提示し、経済成長を支えるための 3,020 億ドルものインフラ投資
を提案しているが、審議は与野党の対立等もあって難航している状況にある。
米国における民間資金活用について
こうした状況を背景として、米国連邦道路庁(FHWA)では、民間資金を活用した道
路事業の促進に努めてきている。中でも有効な方策として期待されているのが、PPP
(P3)手法による事業執行である。
米国における高速道路網の管理は、各州がその実務を管轄しており、PPP を公共調
達手法として認めるかどうかは、各州の法律に委ねられている。連邦政府では、2012
年に制定された陸上交通法 MAP-21 において、民間資金を活用した事業手法を検討す
ることを各州に奨励するとともに、各州の道路部局が PPP 手法を利用しやすくするた
めには事業採算性の審査、官民のリスク分担の設定、プロジェクトの円滑な監督など、
従来型の公共事業の発注監理とは異なったスキルが求められることになることから、
様々なツールキットを作成してその利用の促進を図っているところである。
政府が作成したツールキットには、「Establishing a Public-Private Partnership
Program: A Primer(2012.10)
」
「Risk Assessment for Public-Private Partnerships: A
Primer(2014.1)
」
「Value for Money Assessment for Public-Private Partnerships: A
Primer (2012.10)
」などがある。
また、民間事業者が PPP による道路事業に乗り出すことを側面から支援するため、
資金調達にあたっての税制措置などを講じているところであり、代表的な例として交通
インフラ資金調達革新法
(Transportation Infrastructure Finance and Innovation Act;
TIFIA)を挙げることができる。TIFIA は利用料金等のキャッシュフローが見込まれる
交通プロジェクトについて、政府が融資、借入保証、融資限度額の設定を行うことによ
って交通インフラに対する民間の資本投資を刺激するもの である。
米国における道路分野での PPP の採用実績はまだ日が浅く、1989 年から 2013 年の
間に PPP を活用したプロジェクトは 98 件で、契約金額は政府による高速道路に対する
総支出約 4 兆ドルの約 1.5%に過ぎない。また、契約金額の約半分が直近 5 年間に成立
しており、民間企業により資金調達が行われた道路は 29 件に留まっている。このよう
な状況であるため、事業の成否についての評価はこれからといえるが、議会事務局は
「Testimony Public-Private Partnerships for Highway Projects (2014 年 3 月)」の
中で供用済みのいくつかの道路について事業評価を行っている。その中ではメリットし
て、設計-建設方式の利用によって、高速道路建設のコストがわずかに減少したこと、
プロジェクトを完成させるために必要な時間がわずかに短縮したことなどが挙げられ
ている一方で、課題として官民パートナーシップ契約の条項について再交渉しなければ
ならないケースが発生しうることや、公共セクターがプロジェクトに対する支配権を失
うことなどを挙げている。
また、現在進行形の案件の特徴としては、TIFIA のプログラムを通じた貸付金並びに
地方自治体により発行される民間事業債に依存することによってその借り入れコスト
の削減を図る傾向にあることから、議会予算局は「プロジェクトは従来の手法に一層近
い形のものとなっており、連邦税の納税者の負担によって民間のコストを低下させる一
方で、政府のエクイティとリスクの量が増加していることから、コストを管理しプロジ
ェクトを速やかに完成するという、民間資金調達に付随するインセンティブが縮小して
いる可能性がある」と指摘している。